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4.侯爵と侯爵夫人と真実

 侯爵は物凄い勢いで侯爵夫人がいる部屋のドアを開けた。

 中には肌も顕わな侯爵夫人が気だるげに団扇を扇ぎながら広いベッドに横になっていた。

 扇がれる団扇に侯爵夫人の巨乳が艶めかしく揺れる。

 思わず侯爵の喉がごくりと鳴った。


 騒々しい音に侯爵夫人の目は扉に動き、その後大きく見開かれた。


「なぜあなたがここにいるの?」

 侯爵夫人の声はその寝室に空しく響いた。

 侯爵はその声を無視して扉をぴしゃりと閉じるとそのままベッドに足早に近づいてそのまま侯爵夫人を組み伏せた。


「は・・・離して!」

「俺は客だ。」

 驚愕して固まった侯爵夫人に構うことなく侯爵はそのまま侯爵夫人に襲いかかった。


 扉前に控えていた使用人からはメグに防音魔法が施されているのに部屋から喘ぎ声が響いていたと苦情が寄せられた。

 また娼館の運営を任されているホソイからメグ宛に侯爵夫人に指名を入れていた狸いや伯爵からいわれた文句もとい苦情を処理して心的ストレスを感じたので、その分を今回の給料に上乗せしてほしい旨の嘆願書が翌日寄せられ、メグは渋りながらもそれを了承した。


「メグ様。頼まれていました食料品が届きました。」

 メグが執務机に座って書類を捌いていると入って来た赤毛メイドのトリノから書類を手渡された。


 すぐさま書類を開き内容を確認する。

 さすが件の老貴婦人だ。

 数日かかるものを翌日持って来させるとは思わなかった。

 レリックという餌を与えたにしてもすごいと思わず感心して唸ってしまった。


「お嬢様?」

 唸っているメグを不審に思ったのかトリノが心配そうに話しかけてきた。

「ああ、そうね。わかっているわ。」

 メグは我に返ると食料品の受領者にサインをすると控えていたトリノにそれを渡し、まだ商館にいるレリックを連れてくるように命じた。


「畏まりました。」

 幾分ホッとした様子のトリノにそんなに心配しなくても問題ないのにと思わず声に出してしまい、その後彼女から自分がどんなにメグの事を心配したかを滾々と語られてしまった。


 まあこの世界での身分差を考えれば表面上はわかるが実際巷で囁かれている身分差とは違い、実力的には貴族より現物である現金を持っている商人の方が力がある。


 力が有ると言っても大商人と言われるほどにならないとそれほどの力を持っていない。

 だがそれもさすがに横行じゃなかった王侯貴族、いわゆる王族につらなる人間には太刀打ちできないが侯爵程度ならあの爺さんいやあのお義父様が出てくれば一捻りで握り潰しそうだ。


 彼の専属執事いわく。

 御主人様は嫌々ながら先代様に言われ貴族の学園に通われましてそこで彼らの弱みを色々と・・・ゴホン。

 それ以上は専属執事も何も語らなかったかがナニかを学園で色々掴んではきたようだ。

 あのお義父様と同級だった貴族様はご愁傷様だなと思わず両手を合わせていた。


 なんだか話がずれたがその間に有能なメイドはレリックを連れて戻って来ていた。

 開口一番、レリックに詰め寄られた。

「き・・・昨日のあれは何だったんだ?」


 メグは詰め寄るレリックに先程の救援物資が書かれた書類を見せた。

「な・・・なんだこれは?」

「なんだって、レリックが欲しがっていた救援物資だけど?」

「どうやってこれを?」

「説明すると時間がかかるんでこれを届けに行く道中。どうせ暇だから説明してあげるけどついて来る?」

 レリックはワナワナ震える手で書類をメグに返すとそのまま彼女について部屋を出た。


 商館の前には食料品などの救援物資が積まれた馬車が何台も横付けされ、その横には王国騎士たちが物資を護衛するため周囲を囲んでそれを守っていた。

 メグとレリックが騎乗する馬も王国騎士が持って来てくれたようで昔魔王討伐の時に連れて行った馬がそこに鞍を着けられ待っていた。


「レリック。すぐに乗って頂戴。出発するわよ。」

「あっ・・・ああ。」

 レリックはボウとしながらも馬に跨った。

「じゃ行こう。」

 メグの掛け声で救援物資を積んだ荷馬車が動き出した。


「魔女殿。日程は三日程予定しておりますがよろしいでしょうか?」

 メグは手渡された書類を馬上で眺めると隣の騎士隊長に数か所進路変更を指示した。


「理由をお聞きしても?」

「まだ王には報告いってないみたいだけどここの数か所は北ほどじゃないけど結構飢えた民がいるから略奪にあう可能性があるの。念のため迂回した方がいい。」

 騎士隊長が目を見開いた後、すぐに頷いてメグから離れて行った。


 それを聞いていたレリックがボソリと呟いた。

「それならここにある食料品の一部だけでも置いて行ったらいいんじゃないか?」


 メグは大きな溜息を吐いてレリックを見た。

「なんだよ。」

「あのね。いい。この食料は骨と皮になっている北部に先に届けなきゃ意味がないの。まだ肉が残ってる所に届けると骨と皮になった人々の分が足りなくなるけどそれ分かってる?」

 レリックはそれきり何も言わずに前を向くと馬に乗っていた。


 メグは彼の素直に民を憐れむ気持ちは尊いとは思うが何が優先で何を捨てなきゃいけないかの判断がいつも甘いと思った。

 飢えたことがないお坊ちゃまに説いても意味ないとはいえ、今回の件で少しは目を覚ましてくれるように祈った。

 結局、当初の予定よりかなり大きく迂回して少し裕福な街外れで野営を組んだ。

 交代の兵士を決めてからメグが今日休むテントに戻ってくるとそこにはレリックが待ち構えていた。


 そう言えば今回の救援物資をどうしたかまだ説明をしてなかったことを思い出した。

 渋々守備隊長が持って来てくれた食事を食べながら侯爵夫人と侯爵がレリックの為に救援物資の費用を出してくれた話をした。


「母上が俺の為に・・・。なんで止めてくれなかったんだ?」

 メグは冷めた目を彼に向けると最初レリックの懇願内容をもう一度彼に説明した。

「だってレリックが話しても費用を出してくれないとぼやいたから侯爵が出してくれるように私は働いただけよ。なんでそんなことを言うの?」

「何でって母上は貴族なんだぞ。それなのに娼婦のような真似をなんでさせた?」

「あら、侵害ね。あなたが体を張るっていうからそうしたらそれを嫌がったあなたのお母様が肩代わりした。だからあなたの相手をしたのは一人で済んだんでしょ。あなたは母親に感謝こそすれ罵倒するのはどうかしら?」

「俺が罵倒してるのはお前のことだ、メグ。母上じゃない。」

「あらなんで罵倒されるの?あなたが願った通り救援物資を用意した。あなたは私に喚めき散らしたけど相手をしたのは一人だけでその後娼館で客の相手もしていない。それなのに救援物資も無事に手に入った。万々歳でしょ。」


 メグがそこまで説明するとレリックから拳が飛んだ。


 メグはそれを防壁魔法を張って防いだ。

「女性相手に手を挙げるのもどうかと思うわよ。それと今回の件がなんでそうなったのかよく状況を把握することね。」

 メグはそれだけ言うと自分が今日休むテントに入ってしまった。


 拳を固く握って震えていたレリックの肩を守備隊長が叩いた。

「そろそろ座りませんかレリック様。」

「隊長殿?」

「いやぁ別に盗み聞ぎしたわけじゃないんですけど近くを通りかかったら聞こえちゃって・・・。あのーですね。俺のような下級貴族出の騎士がいうことじゃないですけどあの魔女殿が言われることも一理ありますよ。」

「どこがだ?」

「まあ俺が知ってる範囲ですけど今回の北部領が困窮した真の理由って知ってますか?」

「真の理由?」

「俺の母って北部出身なんですよ。北部って気候が厳しいんで魔力で食料を育てるって知ってますよね。」

「ああ。」

 レリックはなんでそんな当たり前のことを聞くんだと首を傾げた。

「でも今回王太子夫妻が隣国の苦境を救おうと魔力支援を行ったので王宮からの魔力分配が少なかったんです。それだけならそれほど問題にはならなかったんですが気候がいつにもまして荒れましていつも以上に魔力が必要だったにも関わらず、今回は隣国に魔力支援をした後だったのでその魔力も得られなかったんです。結局、北部領は飢饉になったんですよ。」

 レリックは守備隊長の話に目を見開いて固まった。


「巷の噂ですけどね。隣国が魔力支援で得た魔力をふんだんに使ったおかげで逆に気候に異常をきたしたんじゃないかっていう噂まで広がっているんです。」


 その話でさらに固まったレリックを見て守備隊長はあくまでそれは噂だと言ってくれたがそれを聞いたレリックはメグが休むテント前でたき火を見ながら深く物思いに沈んだ。

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