30.似た者同士
ブラウン=ウエストは王都の屋敷でホソイからの報告書を読んでいた。
「(* ̄▽ ̄)フフフッ♪。」
「何がそんなに楽しいのですか。」
クラウスは珍しくニヤつきながら書類を読んでいるブラウンに紅茶を出すと彼が食べようとしていたクッキーの皿を取り上げた。
「クラウス。私は仕事をするうえでまだ甘味を必要としているんだ。黙って渡せ。」
「旦那様。うれしいのはわかりますが甘味は控えてくださいとこの間主治医に言われたばかりではありませんか。」
クラウスはそういうと紅茶の前にあった砂糖も取り上げた。
「まったくうるさい執事だ。お前が美術品に造詣がなければとうに辞めさせていたんだが腹正しい。」
「最高の賛辞をありがとうございます。」
ブラウンはフンと面白くなさを前面に押し出して紅茶のカップを持ち上げると優雅に香りを楽しみながらも紅茶を飲んだ。
「それにしても意外でした。」
「なにがだ?」
「レイ様がメグ様をお選びになったことです。」
「あいつは私に似ているからな。」
「自慢ですか?」
「いや、事実を述べたまでだ。」
「最初あれだけ反発していたので絶対選ばないと思ったんですがね。」
いつの間にかブラウンの前の椅子に腰かけるとクラウスが珍しく自分も紅茶を飲んでいた。
「あれは自分に興味がない人間に惹かれるのさ。」
「そんな人間が今までいなかったとは思えませんが?」
「言い方が悪かったな。自分に興味がないうえに加えて、力があって智慧がある人間が好きなんだよ。」
「まあ、それなら当てはまりますか。でもこんなに強引に進めて問題が出ませんかね。」
「メグならこんな些細なことは気にせんし、あいつはなんやかんや言いながらも顔がいいやつが好きだぞ。」
「そうですね。旦那様とそこはそっくりでしたね。」
いつの間に椅子から立ち上がったのかクラウスはブラウンが飲み終わった紅茶を片付けると執務室から出て行った。
やっとメグが正当な地位に就いたとブラウンは(・∀・)ニヤニヤとしながら執務机に戻ると先ほどのやりかけの仕事に戻った。
クラウスが紅茶のセットを持って部屋を退室したところに表の玄関の方で騒がしい音が響いた。
珍しいことにこの時間に来客があったようだ。
クラウスがワゴンを他の使用人に渡して応対をしている使用人の前に現れると予想した人物がそこにいた。
黒に光の加減で金色に浮かび上がる薔薇模様のドレスを着たメグが表の玄関にいた。
「どうかなさいましたか、メグ様。」
「クラウス。」
メグの目がクラウスを刺し殺したいと語っていた。
おや、これは予想以上に怒らせてしまっているようですね。
「旦那様なら執務中ですので、今はお会いすることは出来ませんが・・・。」
クラウスはメグの怒気をそのまま旦那様に向くように、やんわりと断ろうとした彼の前に小さな白い包みが差し出された。
クラウスはメグから差し出された包みを怪訝に思いながらも受け取ると促されるままその包みを開けて目を見張った。
「これを・・・ど・・・どこで・・・。」
思わず声が震えてしまってクラウスには珍しく最後までいえなかった。
「これはあなたを雇用するための料金よ。」
事もなげに呟かれたメグの言葉にクラウスの目が驚愕で見開いた。
「メグ様。これの価値をご存知でしょうか?」
「その絵の歴史と同じくらい知っているわ。だからあなたを雇用するための正規料金になるでしょ。」
クラウスは声を上げて笑うとこれでもかというほどきれいなお辞儀返した。
「このクラウス、いまこの時から生涯メグ様にお仕えします。」
メグがクラウスのこの言葉を背中に聞きながら勝手知ったるこの屋敷の主人がいる執務室に押し入った。
バタン。
派手な音を立てて開けられたドアを見て、一瞬大きく目を見張った。
「儲かっていますか、クソ養父。」
「メグか。少々騒がしい登場の仕方だが何用かな。そしていきなりな我が家の執事の引き抜きはいかがなものかな。」
さすが腐ってもクソ養父。
クラウスがこちら側に寝返ったことは一瞬で見破ったようだ。
それもそうか。
主人の返答も聞かずに自分が押し入ったことですぐにわかるわね。
とにもかくに文句を言わなきゃ。
「なんであんなものを渡したんですか。」
「言わなくてもわからんか。」
「わかりません。」
メグは珍しく直球で聞き返した。
ブラウンは持っていたペンを置くとメグと視線を合わせて、子供に言い聞かすように答えた。
「最初、君を私の後継者にするとき、私が出した条件を憶えているかね。」
「もちろん。」
「その時に必要だったら私が君の伴侶候補も宛がうといった時何と答えたかね。」
メグはこの目の前のくそっ忌々しい男の後継者になった時のことを思い起こした。
「確かに聞きましたがそこには私の出した条件をクリアすることとクソ養父の血を引いている人間が独身だった時という条件です。」
「そうだ。」
ブラウンの肯定にメグは固まった。
ちょっと待って。
えっ・・・レイってこのクソ養父の血を引いているの?
メグは世の中に全く顔が似ていない親子がいるという事実を思い出した。
「そうですか。」
メグはそれだけ答えるとドアも閉めずにブラウンの執務室を出て行った。
かなりの衝撃だったようだ。
そこにクラウスがやって来た。
「なんでここにいるんだ?」
「実際の仕事は明日からとのことでしたので最後の仕事として、お酒を持ってまいりました。」
「有能な執事を失って私は悲しいよ。ところでどうやって買収された。」
ブラウンは仕事に戻る気になれず、クラウスが持ってきたお酒を受け取って窓辺に行った。
メグが乗って来た馬車が屋敷から離れるのが見えた。
「聖家族で買収されました。」
クラウスの答えにブラウンは飲んでいたお酒でむせながら白旗を上げた。
さすが私の養女だ。
どこでクラウスが長年探していた家族の肖像画を手に入れたのか、今度聞いてみたいものだが素直に話はしないか。
それにしてもしてやったりと思ったら、すぐに攻撃を返してくる養女にも困ったものだが、逆にそれがとても嬉しいことでもあった。
これからのメグにはクラウスのように貴族の礼儀に加え、その内情にまで精通しているものが必要だ。
どうやってクラウスをメグの執事にしようかと思っていたが先に見事に持っていかれて少々拍子抜けだ。
まっこれでメグに黙っていたクラウスと自分が王家の血筋だということもバレたわけだが、それ以上にあの養女が自分の血を引いた息子と結婚して、三バカトリオより上になる可能性が出てきて大いに満足だった。
ブラウンがグラスのお酒を飲み干して振り向くとクラウスから手袋と小さな包みを渡された。
小さい頃のブラウンとクラウス、それにとてもきれいな女性が描かれている”聖家族”の肖像画だ。
著名な画家が若い時に描いたものだった。
その肖像画が描かれたすぐ後、王家でもっとも高い魔力を誇っていた王弟主導による大虐殺があり、クラウスとブラウン以外の王家の血筋はすべて途絶えてしまっていた。
今の王家は大虐殺をした王弟が後継者を残さずに死んだ時に残った臣下の中で一番王の血筋に近いものがその後に王位を付いだものだった。
血筋を言うなら本当はブラウンとクラウスの方が正当性があるのだが、その時にはすでに王弟に力がない自分たちが殺されないように偽造工作して、その痕跡をきれいに消していたのと、いまさら王位についてめんどくさい責任を背負い込むより、市井で商売することのほうが魅力的になっていた。
なので、その時はそのまま何も申告しなかった。
しかしこの絵を見て、どうやってクラウスを描いたものだと分かっただろうかとブラウンはしきりに首を捻った。
メグ曰く、だって魔法で鑑定したらそう書いてあったんだもの。
ブラウンがその真相を聞くのはメグとレイの子供が数人生まれた後だった。
思わずあまりのばかばかしい言葉に怒りよりも呆れが勝った。
さすが自分が選んだ後継者だ。
不思議がる孫たちに囲まれてブラウンは笑った。




