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14.罠に追い込む

「さあてそろそろ行きますか。」

 昨日よりは大部早く出発の準備を済ませたメグはトリノとホソイを連れ王宮に向かった。

 馬車が到着すると三人は通常の手続きをしてセドリック王子の執務室に向かった。


 メグが執務室に入るとセドリック王子が腰の剣に手を掛けながら立ち上ると彼女にいきなり斬りかかろうとしてきた。

 当然の如くメグはすぐに拘束魔法でセドリックを捉えた。


「おはようございます。」

「何がおはようだ。あの噂はなんだ。」

「噂?はて何のことでしょう。」

 メグは一応知らん顔をしてみせた。


「アンジェのせいで仕事が滞っているから愛妾を増やすという噂だ。」

「仕事が滞っているのは本当ではないですか。二日前の分は終わったんですか。」

 メグの追及に王子が詰まったのを見て彼女は拘束魔法を解除した。

「このままだとアンジェが今の地位にいられなくなることくらいわかっていますよね。」

「そ・・・それは・・・。」

 セドリックはメグの脅迫に執務机まで追い詰められた。


「じゃあ大人しくすべての仕事を今日中に終わらせてください。」

 セドリックは結局メグの迫力に負けそのまま執務机に戻ると大人しく仕事を始めた。


 昼頃には今日の仕事を終えたメグとホソイはトリノを伴って珍しく王宮にある食堂に向かった。

 食堂は大勢の人でごった返していた。

 メグとホソイはその人でごった返す一角に座るとトリノが食事をとりに行ってくれた。


 その間にホソイから王妃が何と言ったか報告を受けた。

「それじゃあトリノの後見の件は上手くいったの。」

「はい。王妃様もセドリック王子が前のように仕事をしてくれて、なおかつアンジェ様の暴走がなくなるなら問題なしとのことです。むしろこの提案は喜ばれました。」

「そう、じゃ後は・・・うふふふ。」

「はい、アンジェ様が納得すれば問題ありません。」

「それは大丈夫よ。あの娘の頭の中なら手に取るようにわかるから問題ないわ。」


 二人がここまで話したところにトリノがトレイをもって帰って来た。

「お待たせしました。本日はこちらがおすすめだそうです。」

 そういってトリノは三人分のパンが乗ったかごとこんもりと盛られた皿を三皿テーブルに並べた。

 どれもこれもさすが王宮料理人だ。

 美味しそうだ。


 三人は手早く食事を済ますと執務室に戻った。

 執務室ではまだ食事もせずに仕事に奮闘しているセドリックがいた。


 今日はさすがにアンジェが執務中の扉を開けて飛び込んでくることがなかった。

 そのせいかこんもりしていた書類の山がだんだんと低くなってきてメグたちの仕事は大変はかどった。


 だがかなり日が傾いて照明をつけていても文字が見づらくなった頃、我慢しきれなくなったアンジェが執務室に現れた。

「セドリック、もうそろそろ仕事は終わりそう。」

 恐る恐る扉を開けたアンジェに非常に疲れた表情のセドリックが書類から顔を挙げた。

「アンジェ、ありがとう。あと少しで終わるからちょっとそこで待っていてくれ。」


 アンジェが執務室横にあるソファーに座るとトリノがすかさずお茶とお菓子を用意した。

「ありがとう。えっと?」

「彼女は私のメイドよ。アンジェ。」

「あなたがメグのメイドさんなの。」

「はい、アンジェ様。」


 何に驚いているのか。

 アンジェはトリノを上から下まで何度も眺めた後、彼女ではなく私に話しかけてきた。

「メグ。彼女が王妃様が後見人する娘って本当なの。」

「ええ、そうよ。私たちと違って彼女には後見人が必要なのよ。今は行儀見習いってことでうちで働いて貰っているけど適齢期だからそのうち結婚しなければならないでしょ。」

「適齢期・・・王妃様が後見人・・・結婚・・・。」

 どうやらホソイが流した”身分のある愛妾”の噂が無事アンジェの耳にも入ったようだ。

 アンジェは神職者が後見人である意味私も彼女も庶民になる。

 今回の魔王討伐の件がなければアンジェが王子妃になることもなければ今メグが王城で仕事をすることもなかった。

 もっともメグは王城で仕事をしたいとはこれっぽっちも思っていないがアンジェはいまだにそれを信じていない。

 それ以上にアンジェの”聖女の力”は結婚したことで無くなったがメグの持っている”魔女の力”はそれに左右されないので結婚したとしてもメグは魔法を使えるし、それがあってセドリックを狙っていると思い込んでいた。

 レリックに必要以上に構うのもセドリックを失わないように彼にやきもちを焼いてもらいたくて無意識にしている行動のようだ。

 まったくもっていい迷惑だ。

 でもットリノを見て表情が変わったアンジェならこちらが考えた通りの行動をしてくれそうだ。

 アンジェはメグと話している間中視線はずっとトリノを追っていた。

 どうやら無事二人の関係に気が付いたようだ。

「ねえ、メグ。彼女あの文官が好きなの。」


 さすが元聖女。

 私以外の人間のことならよく気付くようだ。

 メグは肯定した。


「そうよ。早く結婚したいみたいだけどセドリックの仕事が忙しすぎなのでその影響があってなかなか休みがとれないのと彼との身分が釣り合わなくてなかなか結婚というわけにはいかないみたいね。」

「そうなの・・・。」

 アンジェの考えこんだような表情にメグは彼女が何を考え付いたかが手に取るように分かった。


 その日は大人しかったアンジェと恋人に送ってもらう予定のトリノを残してメグとホソイは王宮を後にした。

 馬車の中ではホソイが大きなため息を吐いたからとてもわかりやすいアンジェの話が出た。

「それにしてもあの王子妃様もあそこまで思い通りに動くとは思いませんでした。」

「あら私を信じていなかったの。」

「信じる信じない以前になんでそう考えるんですか。さすがに理解できません。」

「アンジェは単純なのよ。自分の下にいれば誰でも自分に夢中になるって考えているのよ。」

「聖女の頃に持っていた”魅了の力”があればわかりますけど今その力はお持ちではないでしょう。どうしてそれでそう考えるんですか。」

「”魅了の力”の力を持っていたことに本人が気づいていないからよ。」

「はあぁーなんでそうなるんですか。」

「未だにセドリックとレリックが彼女に夢中だから。」

「えっそれだけ。」

「むしろ彼女は私が”魅了の力”を持っていると信じているわ。」

「なんでまたそんなものを持っていると考えたんですか。」

「私が今回の件でレリックと親しく話しているって噂になってしかも王妃様からアンジェに愛妾の件が提案されたからよ。」

「でもそれってアンジェ様発案の”隣国の件”のせいですよね。」

「本人はそう思っていないわ。」

「ええーっそうなんですか。」

 メグは大いに驚いているホソイを見てやはりこれが普通の反応だと改めて思った。


 そうなのよ。

 彼女の思考回路は独特なの。

 でも明日になれば事態はメグにとってプラスに転じるはずだ。

 メグはその日機嫌よく屋敷に戻ると明日に備え速やかに休んだ。

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