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第八話:緊急事態



 さすがにそろそろ戻らないとバレるだろうなと、急いで魔王城に戻って報告をしてから魔法陣で帰路を急ぐ。ディーのお願いはまた後日聞きに来ると伝えたら、「来ないで欲しいっていうお願いは」などと言っていたので聞こえない振りをしておいて。


 自室として使ってくれと宛がわれた客室は、無駄に広いワンフロアにバスルームがついている。これでも一番質素な部屋なのだから、王族の金銭感覚は一般人とは相容れないのだろうと確信する。

 前回召喚時には、一番いい部屋を使ってくれと言われたのだが、三日で精神的な疲労から今と同じ部屋に変えてもらった。あの時初めて、あまりに広すぎる部屋は精神にダメージを与える事を知った。


 ほとんど労働というものをしていないが、なんとなく汗を流したい気分になったのでシャワーを浴びる。

 着替え類も部屋に備え付けられていたのだが、あまりにフリフリのフワフワな戦闘力皆無な服装ばっかりだったので、見習い兵士用だという質素な服を用意してもらった。

 勇者を呼んでおいて、なんであんな服を用意するのだろうとユリアーヌに聞いたら、一応女の子だからと控えめに言われて、そう言えばこの世界で女性がパンツスタイルなのを見かけないなと思い出し、こちらの世界の方が男女格差が強いようだと気づいた。思えば地球のどこの国でも、昔は性差別が結構あったし、そういうものなのかな。

 流石に今回は私の嗜好を覚えていたのか、最初から服装も質素なものを用意してくれていたが、他に残ったクラスメートはフリフリのフワフワを着ているらしい。流石に千羽さんは訓練の時はズボンだが、それ以外の時はドレスを着ているとアレキスに聞いたが、そういう場面に出会った事がないので分からない。

 もう一人の小野田さんは魔法しか使わない為、普段からもドレスを着ているそうだ。しかし、飛行魔法を覚えたらどうするのだろう。


 洗濯物を籠に詰めて、風魔法と火魔法の応用で身体に残った水分を吹き飛ばす。ドライヤー不要が便利過ぎて、この魔法だけは地球でも使えたらいいのになと思う。

 着替えを用意していなかったので、服を取るために部屋の扉を開ける。

 そして部屋の中に居たユリアーヌと目が合って、無言でそっと扉を閉じた。



「ほんっっっとうに、すまない!! 一応ノックはしたのだが、返事がなくて、また読書に集中しているのかと思って、それで」

「いや、うん、見られて減るもんじゃないし。ただ、恥ずかしいだけで」

 閉めた扉の向こうから、絶叫に近い叫び声が聞こえた時は、人の裸を見て幽霊にでも出会った様な声を上げるのは失礼じゃないか、と思ったりもしたが、落ち着いてくると頬が熱くなってくる。混乱していた脳が、遅れて機能を回復したようだ。

 二度目の召喚をしてしまった時並の土下座を実行しているユリアーヌの肩を、ぽんぽんと叩いて宥める。

「それに、鍵をかけなかった私の落ち度でもあるし、ユリアには以前勝手に入ってきていいとも言ってるし」

 この城の人達は、必ず入る前にノックをしてくれる。それに私に積極的に関わろうとしてくる人も少ないので、緊急時ぐらいしか人が来ない。だったら鍵なんか掛けても手間なだけかと開けっ放しにしていたのだが、今までよく事故がなかったものだ。


「あれ、というかユリアが来たって事は、緊急事態?」

「あぁ、マリネにとってはそうかと思って来たんだが……本当にすまない」

「忘れてくれた方が嬉しいから、この話は終了にしましょ。それで、話って?」

「……他の勇者様方が、魔王討伐に出かけると言っている」

「え、もう?」

 召喚されてからまだ数日だ。私はアレキスとユリアーヌ以上の力を手に入れてからしか出発しなかったので、あまりに早く感じる。

 ただ、今回は複数人なので私の時とは違うだろう。三人寄れば文殊の知恵ともいうし、人数が多い分強気になっているのかもしれない。

「どうしてそういう話に? 王様が急かしたの?」

 私の眼が、自然と鋭さを増したのを自覚できたが、やめられない。

「いや、最初は勇者コバヤシが一人で行くと言いだしたらしいんだが、勇者オオトモが一人では危険だから一緒に行くと言って」

「あぁ、わかった。流れは把握した。大友君が行くなら千羽さんと河野君も付いて行くだろうからね。小野田さんは?」

「勇者オノダは、食堂でその話をしていたらしいが、興味がなさそうで話し合いにも参加しなかったと報告が来ている」

 私は食堂で食べずにこの部屋で食べているのだが、こんな事なら隅っこでもいいから食堂で食べて居た方が良かった。いや、居たとしても私も話し合いに参加はしないだろうから結局変わりはないか。

「ユリアとアレク的には、どうなの?」

「私は魔法だけしか見ていないが」

 そこで言葉を止めたユリアーヌは、チラリと私を見てすぐに視線を逸らす。

「確かに、新人と比べれば格段に実力はあるだろう。勇者オノダは、すでに魔術師としては十分な実力がある。しかし……あくまで新人と比べてだ。勇者オノダでも、まだ魔術師程度の実力でしかない。私には及ばないし、マリネには遠く及ばないだろう」

「そう……アレクはなんて?」

「剣に関しても同じだ。勇者コバヤシは、どうやら武術を習っていたようで、十分実戦に耐えられる程度には育っているそうだが、こちらの世界に来て身体能力が向上したらしく、まだ力に振り回されている所が見受けられる、と。他の者に関しては、新人に毛が生えた程度、と言っていた」

「……ちなみに、まだ実戦経験は皆無よね?」

「あぁ」

「それで、自分達だけで行こうとしてるのね?」

「……あぁ」

「なんて無謀な」

 思わず天を仰ぐ。


 ――ここが、現実の延長線にある事を、気付いているのだろうか?



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