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第六話:お礼の押し売り



 召喚されてから数日が経ったが、私以外の九人の勇者の内、四人は帰還を希望したので日本に戻した。

 内訳は、大友君グループから二人と、残留希望組から二人。全員男子だ。

 実際に剣や魔法を使ってみたが、剣は重たいし何より怪我をすれば痛い。魔法は失敗すれば自分に跳ね返ってくる。そんな想像世界とのギャップに、面白くないなと見切りを付けたようだ。


 残ったのは、大友君と河野君と千羽さん、それと小林君と小野田さん。

 河野君と千羽さんは大友君が残る限り残りそうだし、大友君は小林君と小野田さんが帰らない限り残るだろう。小林君は武道を嗜んでいたらしく真剣を扱える事を楽しんでいるようだから暫く帰らないだろうし、小野田さんは比較的器用に魔力を扱うので失敗がなく魔法をまだまだ楽しんでいるらしい。



「倉賀野さん」

 書庫に借りていた本を返しに行く途中、今日の訓練が終わったらしい大友君一行とばったり出くわした。

 表向き、私は訓練にも参加しないで本ばっかり読んでいる完全なお荷物勇者、という事になっているので、大友君の後ろにいる千羽さんの目付きはかなり鋭い。もし大友君が振り返ってしまったら百年の恋も冷めるような形相なのだが、大丈夫だろうか。

「今はどんな本を読んでいるの?」

「この世界の創成記、かな」

 手に持った本を大友君に見えるように差し出す。


 書庫の本は前回召喚時に大体目を通してあるが、かなりざっとしか目を通していなかったので、見逃しや解釈間違いもあるかもしれないと思って読み直している。

 それと、こっそり抜け出しては魔王城の書庫にお邪魔させてもらって、魔族側の文献も読ませてもらっている。

 見比べてみると、これが中々面白い。お互いに自分達は悪くない、という視点で書かれているので、あちこちで矛盾が発生しているのだが、その矛盾を突き詰めていって何が真実なのかを探す、というのは謎解きみたいだ。


「そんなの読んで、何か役に立つのか?」

 河野君が、眉をしかめつつ聞いてくる。自分の中で答えが出ている事を、いちいち聞かないで欲しい。

「そんな事より、あなたは魔法も剣の練習もしていないようだけど、何のために残っているの?」

 千羽さんが、鋭い眼差しで威嚇してくるが、不穏な空気を感じたのか、大友君が振り返るとパッと表情が切り替わる。見事過ぎてまじまじと見つめてしまう。表情筋が豊かで羨ましい。

「倉賀野さんには倉賀野さんの考えがあるのだろうし、ただ魔王を倒す力を付ける事だけが勇者でもないんじゃないかな?」

 大友君は私のフォローをしてくれているのだろうが、武力しか取柄の無い脳筋には鋭く突き刺さる。前回召喚の際、武力での解決しか考えなかったのがなんだか恥ずかしい。


 これ以上居ても空気が悪くなるだけだろうと、適当な所で脱出した。

 書庫に本を返した後は、こっそりと設置した転移陣で魔王城に移動する。万が一にも見つかったらマズイので、隠蔽魔法を重ね掛けした上に魔力紋を登録してあるので、私以外の人間にはまず扱えない。

 飛んだ先の魔王城書庫では、本の整理をしていたらしい司書が、突然現れた私に驚いて手に持っていた本を辺りにまき散らした。謝りつつ本を拾う。

 植物図鑑に、歴代魔王の伝記、魔界創成記と、魔族流クッキング本。

「あ、この創世記興味があるから、借りていっても?」

 司書は頬を引きつらせながら、コクコクと壊れたおもちゃのように頷く。何度か会っているのだが、やはり中々慣れてくれない。

 それでも、魔族の中には私を見るだけで奇声を上げて飛び上がって逃げるものや、怨嗟の雄叫びを上げながら飛びかかってくる者もいるので、この司書さんの対応は比較的マイルドだと思う。

 考えてみれば私は彼らの王様を、殺していないとはいえ半殺し状態にやったのだから、彼らの反応もしょうがないのだろう。むしろ、無理やり押し入っているとはいえ、城外に追い出そうとしないだけかなり優しいと思う。


 これはおそらく、前魔王ダルと今代魔王ディーが、私の滞在を許可してくれたからに他ならない。ディーはかなり渋々だったけれども。


 たまには、お礼もしないといけないかなぁ。




「それでいきなり何かやる事あるって聞かれても、さっさと帰れとしか思い浮かばないのだけど」

「ディーが良いならそれでもいいけど、速攻帰って速攻戻ってくるけど?」

「それじゃ意味がないじゃない!」

「なら真剣に考えてよ」

「なんだか納得いかないわ!」

 怒るディーの後ろで、宙に浮いた状態のダルが赤ちゃんらしくない、親が子を見守る様な穏やかな微笑みを浮かべている。

「それは、わたしがおねがいしてもいいのかい?」

「もちろん。ダルとディーそれぞれでいいわ」

「なら、まかいのふもとで、まじゅうがあばれているから、たいじしてきてくれないかな?」

「そんな事でいいなら」


 人間と魔族の争いの火種の一つでもあり、そして人間側が勘違いしている事の一つが、魔獣は決して魔族の仲間ではないという事だ。

 人間側は魔族が魔獣をけし掛けていると思っているようだが、魔獣は魔力の濃い魔界で突然変異を起こした生物で、それらは決して魔族の言う事を聞くような相手ではないし、むしろ魔族は積極的に魔獣を狩っている。魔族にも牙を剥くからだ。

 ところが、魔界に踏み込んでこない人間はその事を知らないし、知ったとしても王国の人間たちは聞かぬ振りで握り潰した。私が前回召喚の最後に、王城で暴れる事になった理由の一つだ。

 あの国の上層部は、魔獣の本質を知っていながら、それでも書庫の本達は何一つ変わらないまま、魔獣は魔族が生み出したものとして扱っていた。


 本当に、つくづく喧嘩を売ってくる国である。




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