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第四十六話:馬子にも衣裳



 ユリアーヌ達の世界に帰還し、ディーとダルに相談の上で魔力スポットの二箇所に封印を施す。

 魔力スポットが無くなってしまうと、魔族の人達にどんな影響がでるのか分からないので、一箇所はそのまま残しておいた。

 だがこのまま残しておくのも不安なので、簡単には来られない様にブロック措置を施す予定である。

「封印もブロックも、ずっと効果が続くとは思わないから、定期的にメンテナンスだけしてね」

「分かったわ」

 私の作業を隣で見ていたディーが、神妙な表情で頷く。

 今までも魔力スポットの暴走管理はしていたので、今度からはその作業がメンテ作業に切り替わるだけの事、という認識だったが、魔族側にとってはずっと持て余していた魔力スポット問題に解決の目途がついた、という思いらしく、ダルとディーにものすごく感謝された。

 これで魔獣も少しは減るといいのだけど、どうなるかは長い目で見ないと分からないだろう。


 王城に帰還し、大友君達には無事に片付いた事を報告した。

 大友君達はかなり心配してくれていたようで、皆が無事に帰ってきた事に凄く喜んでくれた。

 けれども、私達と一緒にあちらの世界に乗り込んだ人達の表情は、皆一様に微妙だ。思い返せばほとんどユリアーヌとアレキスだけで終了してしまったので、その顔になってしまうのも仕方が無いのかもしれないが、留守番組との温度差がすごい。


 それでも魔族との同盟や、初めての外敵との争いを無事解決した記念として、急きょ宴が開かれる事になった。

 それ自体は街の人達も含めて盛り上がっているので良い事だとは思うのだけれど、今、私の眼の前には逃げられない難題が突きつけられていた。 


「マリネ様、いかがですか?」

 侍女の一人が、姿見の横でニコニコと笑みを浮かべる。

「そうね、これでいいんじゃないかしら……」

「ではこれはキープで、次はこちらのドレスを」

「いや、だからこれでいいんじゃないの?!」

 すでに何着のドレスに袖を通したのかは覚えていないが、傍で山積みになっているドレスを見てげんなりする。

 今まで頑なに断っていたドレスを、パーティーだからと着る事になったのだけれども、侍女達がやたらと張り切っている為に、すでに一時間はドレス選びに費やしている。

 この後更にアクセサリーを選んで髪をセットして化粧を施して、という予定が控えているのを考えると、思わず頬も引き攣る。しかも侍女達に悪意はないどころか、百パーセントの善意でやってくれているだけに、無下にする事もできない。

 興味が無い訳ではないけれども、今まで全くやっていなかった事を行うというのは、何だか恥ずかしい。


 その羞恥心を押し込めて着せ替え人形に徹し、大人しくされるがままに椅子の上で微動だにしない間に、有能な侍女さん達はてきぱきと作業を進めていく。   

 パーティーの一時間前になってようやく終わった時には、鏡に映る自分に呆然とする私の横で、侍女さん達はやりきった表情でお互いの健闘を称えあっている。ある意味、彼女達に取っての戦いがこれなのだろう。私には絶対にできない戦闘方法だ。


 深い海の様な濃紺のドレスは、フリルを廃したシンプルなデザイン。そんなシンプルな見た目に反して、生地と同色の糸で細かな刺繍とレースが縫い付けられており、よく見るとかなり繊細で美しい模様が見える。

 タイト過ぎると動きにくいので太ももまでスリットが入っているのだが、これで走り回ったらマズイな、と言ったら侍女さんに真顔で「走らないで下さい」と言われた。私に走らせない為か、選んでもらった靴はかなりヒールがキツイ。

 アクセサリーもシンプルに、耳元と首に真珠に似た宝石を付けさせてもらった。

 コンプレックス化している手は、肘まで覆うロング手袋によって隠してもらった。こちらも繊細なレースが施されているので、汚してしまわないように気を付けなければ。

「美しいです、マリネ様」

「あ、ありがとう」

 微笑みながら言われる賛辞の言葉を否定するのは、彼女たちの仕事を否定してしまう事になるので、躊躇いつつも受け取る。

 その時、不意に部屋の扉がノックされて、部屋に居た侍女さんが代わりに出てくれた。外の人物と二言三言会話したかと思えば、急ぎ足で戻ってくる。

「マリネ様、ユリアーヌ様がお話があるとの事なので、我々はこれで」

 侍女さん達はアイコンタクトによって何らかのやり取りを交わしたのか、一つ頷いてそそくさと退出していった。

 入れ替わりでこちらも正装に身を包んだユリアーヌが入ってくる。普段のローブ姿とは違う、タキシードの様な服装にマントと細かい装飾がつけられているそれは、顔が良いだけにお世辞を抜きによく似合っていた。

 ユリアーヌは入ってきたと思ったら、私の姿を見つけるとその場に数秒固まった。それからキョロキョロと視線を彷徨わせたかと思うと、意を決したように口を開く。

「マリネ、その……綺麗だ」

「ありがとう。侍女さん達の腕が良いのね。所で、何か用?」

 私の反応にユリアーヌはまたしても数秒固まって、それから咳払いをして空気を切り替えた。

「マリネ達の世界ではパーティーはほとんど行われていないと聞いて、無礼講でやるつもりだが、戸惑う事もあるだろうから、エスコートが必要かどうかを確認しておこうかと」

「頼めるならお願いしたいわね」

「分かった。なら、時間になったらまた、迎えに来るから」

「あ、ユリアがエスコートしてくれるの?」

「……嫌なのか?」

 錆びついたロボットのようなぎこちなさで、ユリアーヌがこちらを見てくる。その反応を不思議に思いつつ、首を振った。

「いや、ユリアは忙しいだろうから、いいのかなって思って」

「あぁ、そういう事か。なら大丈夫だ。言っただろう、無礼講だと。政治的な駆け引きも持ち込むなと厳命してあるから」

「ユリアが大丈夫ならいいのだけど……忙しくなったら、放置してくれていいからね」

「……そんな事はしない」

 拗ねた様な表情で顔を逸らすユリアーヌが、何とも子供っぽく見えて思わず笑ってしまうと、ユリアーヌはバツが悪そうに眉根を寄せた。



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