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第四十四話:独りじゃない



 振り返る、その先に並ぶ各十五人ずつの人間と魔族の姿。

 間に開いた人一人分の距離感が、お互いのぎこちない関係を表現しているようで思わず笑ってしまう。それもそうだ、突然昨日の敵が今日の友、になったとしてもすんなり受け入れられるものではないだろう。

 ただ、それでも共に並んで、そして共に戦ってくれるというのは、これほど心強いものなのか。

「マリネ、こちらの準備は済んだぞ」

「私達も」

 アレキスとダルが、声をかけてくる。それに一つ頷いて、正面へと視線を戻す。

 森の中央にある魔力スポット。天を覆う巨木の根を囲むように、人間と魔族の混成軍が並んでいる。

 その両者の間、人一人の隙間に立つ私。

「それじゃあ、行くよ」

 ヒュンケルトを送った時のように、魔力スポットに大きな扉が出来上がる。こちらの世界と、あちらの世界を繋ぐ扉だ。


 ヒュンケルトからの返事は、今も無い。

 だが、こちらの準備は破格の勢いで片付いてしまった今、ただのんびり待っているのももったいない。鉄は熱いうちに打てというが、その時が今だ。

 それでも相手の戦力が不明で、もしかしたら一割の確率で友好的にという話になっている可能性もあり得る。そこでディーとユリアーヌがかなり迷っていたようだったので、私の方から少人数プラス私で乗り込んでみよう、と提案した。


 これには最初、特にユリアーヌが反対した。それでは結局私の力に頼っている、と。

 でも、せっかくお互いで頑張ろうという機運が高まっているのを逃すのももったいない。相手の動きが読めない、というのはある程度時間をかければ片付くものだ。時間が解決する問題をショートカットする程度なら、問題ないだろう。

 それに、ラスボスを倒すつもりは無いので、見つけたら速やかに退避するつもりだ、という話を何度か繰り返し、ようやく納得してもらえた。

 だが、その代りにダルとアレキスだけではなく、ディーとユリアーヌまで参戦しているのだから、主力オールスター勢ぞろい状態である。

 城を開けてきてもいいのかなぁと心配したのだが、余計なお世話だとディーには一蹴され、ユリアーヌには大友君達に任せてきたから、と言われたので異世界人の力に頼っているじゃないか、とツッコミを入れた方がいいのかちょっとだけ考え込んだ。


 何はともあれ、こうやって人と魔族が共に肩を並べて共闘する日がこんなにも早く来るとは、思ってもいなかった。


 扉を押し開き、魔族の渦の中に片腕を差し込む。何か膜を破る様な感触があったが、気にせずそのまま身体を進める。

 一瞬の浮遊感ののち、目の前の景色が一変した。

 つい先程までの緑鮮やかな森の中から、大岩がゴロゴロと辺り一面に転がり、緑の一つも姿は見えない。

 辺りに探査魔法を巡らせながら、慎重に進んでいく。

 後ろからゾロゾロとやってくる集団も、周囲を警戒しながら私の後を歩いてくる。数名は扉の安全を確保する為にその場に残った。異常があれば、通信魔石で連絡をしてもらうように頼んである。

「辺り一面、岩しかないな」

 大岩の上に登って周囲を確認してきたアレキスが、肩を竦める。

「生命反応も無いわね」

 ディーが辺りを見回しながら言う。

「行先の指定を間違えたのかなぁ」

「正解を知らないから何とも言えないけれど、でも、この世界の魔力の質は、捕らえた彼らに近い気がするね」

 ダルが空を見上げて言う。質までは私には判断できないが、薄もやのように空を覆う魔力は、言われてみれば似ているようないないような。

 目を凝らして空を見上げていると、その魔力が渦を巻くように動きが変わる。

「マリネ」

 ユリアーヌの声に緊張が満ちる。私は一つ頷いて、腰に下げていた剣を引き抜き構える。他の人達も、油断なく武器を構える。

 渦ははっきりと分かるほどに大きな黒い渦を形作り、そこから銀色のフルアーマーに身を包んだ人間を吐き出した。

 鎧の人数は三十人以上は居るだろう。鎧の所為で顔は見えない。だが、その誰もが全身に魔力を漲らせている。いわば戦闘態勢だ。

「友好的、とは思えないわよね」

「俺にはヤル気に満ち溢れているように思えるが」

 肩を竦めるアレキスから、ユリアーヌに視線を移す。

「どうするの」

「思っていたよりも、多くは無い。彼らの力量を確認するには、丁度いいと思う。……マリネ、手伝ってもらえるか」

 真摯な瞳に見つめられて、私は思わず笑みを浮かべる。

「もちろん」

 それから、魔力を練り始めた彼らに向かって駆けだす。後ろから、仲間達が駆けてくる気配がある。その頼もしさは、私の知らなかったものだ。


 背中を預けられる仲間がいる事を、噛みしめる。


 私は、もう、“独り”じゃない。



 鎧達が放つそれぞれの魔法を、剣一振りの風圧に魔法を乗せて斬り払う。

 私の放った魔法が、フルアーマー達の魔法を切り裂き霧散させ、そしてそのままの勢いで鎧達にぶち当たり、そして三十人はいるだろう彼らが綺麗に曲線を描きながら吹っ飛んだ。

「……えぇ?」

 困惑の声は、私の口から零れた。

 倒れた鎧達に動きが無い。何とか地べたを這いつくばって、こちらから逃げようとしている者はいるものの、もはや戦意を感じない。

 先程まで頼もしく感じていた背後の気配を、急に遠くに感じて振り返る。

 皆が皆、非常に白けた顔をしてこちらを見ていた。

「マリネ、お前……」

 アレキスが頬を引きつかせながら、私が起こした惨状を指さす。

「手加減してやれよ……」

「したわよ! てかこんな事になるなんて思っても――ッ」


 鎧達が現れたのと同じく、空を覆う魔力が新たな渦を生み出す。それは先程よりも大きく、そして明らかに流れてくる魔力量が違う。

 皆を下がらせる。油断なく剣を構えると、気配を察したのかアレキスが剣を構えて隣に並ぶ。そこに先程までのふざけた雰囲気は無い。

 反対隣には、ユリアーヌが立つ。険しい表情で、空中を睨み付ける。

 背後に、ディーとダルが並ぶ。


 誰もが一瞬の内に察していた。

 この渦の先に、探し人――裏ボスであるカトリアスがいる事を。



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