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第四十二話:一つの解決



 あれから数日が経ったが、今の所目立った変化は無い。

 大友君達の民衆へ訴えよう作戦は、そこそこ効果が出ているらしいがまだ形になる様な段階ではない。

 ただ、王様はかなり焦りを覚えているようで、あちらこちらに辞めさせるように圧力をかけているようだが、もはや誰も言う事を聞いていないそうだ。あまりに求心力が無さ過ぎて、逆に不安になる。

 日に日にユリアーヌが真剣な表情で、王城に居る事務官的なポジションと思われる人達と、結界まで張って密談している回数が増えていく。別に探している訳ではないのだけれど、王城内で強力な魔法を使われると、勝手に身体が反応してしまう。

 それが気になって仕方が無いので、なるべく王城から離れている。と言っても、私が不在時に何かがあると心配なので、即席の通信用魔石をユリアーヌや大友君達に渡してあるし、王城を覆う結界魔法も展開している。



 王城を出て何をしているかと言えば、脳筋の私には戦う事ぐらいしか取柄が無いので、人間側と魔界を問わず街々を巡回して魔獣が居れば駆除をしていた。

 侵略者の影響なのか、強い魔獣達が普段よりも活発に活動している為、なるべく被害が出る前に討伐している。ごくまれに絶賛襲われ中の町と遭遇した事もあったが、急いで殴り込んで大きな被害を出す前に間にあった事もあるので、巡回していて良かったなと感じる事は多い。


 それに、魔獣討伐ついでに、魔獣と魔族は無関係なんですよーという話をすると、皆真剣に話を聞いて、しかも信じてくれる。命の恩人が言うなら間違いないと、しわがれたおじいちゃんに言われた時は、不覚にも泣きそうになった。

 私よりも長い年月を、魔族は敵だと教えられて育ってきただろう人達が、その今までの考えを曲げて信じてくれるというのは、グッとこみ上げてくるものがある。


 魔族にも、私は人間だという事を隠さずに告白した。もしも危害を加えられそうになった時に使えと、ディーに魔王認定証となる魔力紋を貰っているのだが、今の所一度も使った事は無い。

 魔族の人達は流石に眉を寄せて、それでも命の恩人には変わりがないから、と感謝の言葉を言ってくれる。

 場所によっては歓待してくれた、というか、その場所は以前ダルに頼まれて魔獣討伐を行った所だ。

 正直に実は人間だったんです、と打ち明けると、最初は皆びっくりしていたが、私にスープを進めてきた魔族のおじさんに笑いながら背を叩かれた。

「恩人に変わりはないんだ、気にするような事じゃないさ!」

 そう言ってガハハと笑うおじさんに釣られたのか、驚いていた人達も直に笑いだした。

 あの時、自分が人間だと打ち明けたらどう思うのだろうと心配していたのだが、こんな風に受け入れてもら得るとは思っても居なかったので、そこでもちょっと涙腺が緩んだ。



 そんなこんなの活動をしていると、次第に王様が十五年前に真実を知ったのに隠蔽していた事や、魔王を討伐したら逆に魔獣が増える危険性がある事まで広がり、そしてついには王様排斥を望む声までが囁かれ始めた。

 そこからの流れは、非常にあっけなかった。


 簡単に言えば、政変が発生した。


 王様は排斥され、ユリアーヌが一応引き継ぐ形にはなったけれども、ユリアーヌは大友君から民主政治の話を聞いたのか、君主制から共和制への改革に乗り出した。

 政治なんてものが私に分かる訳が無いので、この辺はノータッチだったが、大友君やユリアーヌが毎日忙しそうに走り回っていたのを見守る事しかできないのは、何だか申し訳なかった。


「侵略者問題を解決してからでも良かったんじゃないの?」

 ユリアーヌの休憩時間が取れた所で偶然出会い、一緒に遅めのお昼ご飯を食べる事になった。

 ご飯を食べながら資料らしき紙束に目を通しているユリアーヌを見て、思わず疑問が口をついて飛び出す。

 ユリアーヌは資料から顔を上げると、私を見て、それから顎に手を当て考え込んで、それからゆっくりと口を開いた。

「この機会を逃したら、きっとできなかったから、今でいいんだ」

 その声が少し寂しそうに聞こえて、私は何と答えればいいのか分からなくて誤魔化すようにスープに口をつける。

 王座から追い出された王様――ユリアーヌの父は、今は王城から離れた街に移送された。本当に小さな田舎町らしく、町全体で大きな監獄のようなものらしい。幽閉しなかったのはユリアーヌの最後の優しさなのかもしれないが、これはこれで生殺しのようでもある。

 弟のリュージュは、一応今も城内にいるが、こちらは幽閉状態だ。ユリアーヌが今も時々説得しているらしいが、あの第二王子が応じるとは思えないが、どうするつもりなのだろう。

 それはなんだか、聞くのが怖い。

「マリネ」

 ユリアーヌの声に、いつの間にか落ちていた視線を上げる。端正に整ったその顔は、流石に疲労の色が濃い。それでも、その両目は驚くほど澄み渡っている。

「マリネには、改めて謝罪したい。本当に、申し訳なかった」

「何、いきなり」

 突然の謝罪に、私は本気で首を傾げる。

「今回の一件は、本来なら十五年前に行う事だった。そうすれば君を、もう一度この世界に召喚する事はなかったのに……」

「あぁ、そういう事」

 疲れからか、珍しくユリアーヌのネガティブスイッチが入っているようだ。鬱屈した空気を漂わせる美丈夫は、憂い顔ですら絵になるなと思いながら、私の口からは自然と笑みが漏れていた。気づいたユリアーヌが、今度は首を傾げる。

「もう、その一件は気にしない事にしたから、どうでもいいの」

「どうでも、いいのか?」

「そう、どうでもいい。それに、今回の召喚が無かったら、大友君が居なかったのだから、今回のような改革はできなかったんじゃないかなーって思うのだけど」

「……確かに」

「これに関しては、私は本当に何もやってないから、私に謝るよりも大友君に感謝した方が良いんじゃないかな」

「何もやってない事は、ないだろう? 聞いているぞ、マリネが魔獣から街を守っていたと、そして魔族との関係改善を訴えていたと」

「そんな立派な事はしてないわ。ただ、魔獣をぶっ飛ばしただけ。頭を使う事は苦手なの、知っているでしょう? それよりユリア、全然食べてないじゃない。今貴方が倒れたら困るんだから、体調管理はしっかりしないと」

「す、すまない」

「大友君は千羽さんと河野君が見ている筈だから大丈夫だと思うけど、ユリアは自分で気を付けないと」

 私がそう言うと、ユリアーヌがじっとこちらを見てくる。何事かと首を傾げたが、暫くしてふっと視線を外された。視線だけで訴えられても、私には分かりかねるのですが。

 そこを突っ込む間も無く、文官らしき人がユリアーヌを探しに現れたので、食事はそこで終了になってしまった。

 だがほとんど食事が進んでいなかったので、おにぎりを握って、魔法でぽいっとユリアーヌの下に届けておいた。



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