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第三十九話:大切なもの

 とりあえず、暫くは侵略者が出てきたら私が対応する事にして、大友君達には王様の説得をお願いした。私は王様の顔を見ると思わず拳を固く握りしめてしまうので、納得の采配だ。

 ユリアーヌは水面下で、同盟について魔族との交渉を行っている。ダルも乗り気である為、比較的スムーズに進むだろう。前回召喚時に、私がダルを殺さなかった事が多少魔族達の心情に変化を及ぼすきっかけになったらしい。本当に、ダルを殺さずに済んで良かった。

 軍関係はアレキスが任せとけ、と力強く言っていたので何とかなる当てがあるのだろう。駄目だったらぶっ飛ばす。


 数日後に、もう一度会議を行った。それぞれの経過報告を行ったが、やはり何よりも一番のネックは王様だ。

 この世界にとって十五年前、魔族と魔獣の無関係を伝えて大暴れするという私の黒歴史をもってしても、王様の意思は変わらなかった。

 もはや最終手段しかないのかと私が拳を握った所で、もうちょっと頑張ってみるからと大友君に宥められ、私とアレキスと河野君という脳筋組は早々に会議室を追い出された。大友君が私の扱い方を覚えてきたのを感じる。

「この後訓練に参加してもいいですか?」

「構わねーぜ。でも、別にもうお前らが戦う必要は無いんじゃないのか?」

「でも、何があるか分からないし、いつでも倉賀野がいる訳でもないから、自分の手で耕平と、ついでに千羽ぐらいは守れるようになっておきたいんで」

 そう言う河野君を思わずしげしげと見つめてしまった。

「河野君って、本当に大友君が好きだよね」

「……変な意味はねーぞ」

 過去に誰か、おそらく千羽さんに言われたのだろうか。河野君はムスッと顔をしかめる。

「ごめん、悪く言うつもりは全く無くて、単純にすごいなって思って」

 一度目の召喚の時、私は一人だった。今思うと、逆にそれが頑張れる因子だったのかなとも思う。

 他に頼れる人が居ないから、自分でやるしかなくて。もし、大友君が一緒だったら、私はきっと甘えてしまっていたと思う。誰かの為に、と見えない誰かを考えて自分を誤魔化して乗り越えたけれど、明確に助けたい相手が見えている時に、あそこまで自分を追い込めただろうか。

「倉賀野に言われると、褒められてるのか皮肉なのか悩むな」

「何故?!」

「あきらかお前の方が凄いだろーが」

「いや、私は一人だったし……自分でやらなきゃ、帰れなかったから」

 それでも、後半はユリアーヌやアレキスと打ち解けた事によって、多少この世界の為にとも思えていたような気もするが、結局自分の為だ。誰かの為に強くなろうという、そういう思考が凄い。

「でも、今はユリアーヌ先生や団長の為なんだろ?」

「……え?」

「いや、帰ろうと思えば帰れるのに残ってるのは、そうなんじゃねーの?」

 それじゃ訓練に行くから、と河野君はアレキスと共に去っていった。去り際にアレキスがニヤニヤとしていたのが非常に腹が立つ。あの、俺は全てわかっていますよ、と言わんばかりの顔が私の第二反抗期を煽る。



 私が今この世界に残っているのは、誰もが幸せなハッピーエンドを迎えてほしいからで、特定の誰かを考えての事ではない。

 けど、改めて考えてみると、確かにユリアーヌやアレキス、ディーやダルや、この世界で知り合った人達には、絶対に幸せになって欲しいと思って居る。

 いつの間にか、私の中に特別な誰かの存在が生まれているのが、何だか嬉しいような恥ずかしいような気持ちになる。


 私は、元の世界で人との縁が多い方ではなかった。

 両親とはほとんど顔を合わせて居なかったから、一度目の召喚時も正直両親の事を心配するような気持ちとは無縁だったし、大友君の顔が過った事もあるけれど会えないなら会えないで良いかな、とも思っていた。

 それでも頑張れたのは、私のような人を出したくない、という思い。それは悪く言えば、もう一人呼び出されたとして、その人にお前がやらないからと叱られたくなかったから。

 私は自己中だ。自分が一番大事で大切。裏を返せば、自分以上に大切と思える人がいなかった。

 人との縁が薄いのも納得できる。私の方から、誰かを大切にしたいという気持ちがなかったのだから、付き合っても上辺だけになってしまう。大事にする気の無い人間を、誰が一方的に大事にしてくれるだろう。


 自分の心の未熟さに、苦笑いも出ない。

 そして、これはそう簡単に治るものでもないだろう。

 一日で心が成長してしまったら、それはもはや別人だ。筋肉だって、何度も痛めて傷つけて成長していくのだ、と脳筋な部分が訳知り顔で頷く。


「とにかく今は、自分のできる事をやろう」

 独りで呟いて、気合を入れる。

 ユリアーヌの為に。アレキスの為に。ディーの為に。ダルの為に。ヴァリエの為に。訓練所で相手をしてくれた兵士さんの為に。美味しいスープをご馳走してくれた魔族の人達の為に。

 今まで、この世界で接してきた事のある人たちの顔が浮かんでは消えていく。

 最初は、嫌々だったのに。

 いつの間にか、この世界に、私の大事なものがたくさんできている。

 その数は、地球よりもずっとずっと多いだろう。


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