第三十八話:二度目はやりません
「第一回、侵略者対策会議を行いたいと思います」
緊張気味の大友君の言葉に、河野君と千羽さんが全力の拍手でもって答える。私とアレキスとユリアーヌも、釣られてパチパチと拍手をした。
「ねぇ、本当に僕でいいのかな? 倉賀野さんの方がいいと思うのだけど……」
「私は脳筋だから」
「右に同じ」
私の返答にアレキスが寸分も遅れることなく追随する。
「俺も俺も」
少し遅れて河野君まで便乗した。そんな河野君を千羽さんは呆れた顔で見ているし、私とアレキスをユリアーヌは目を眇めて見てくる。
大友君は困ったように頬を掻いて、誰も変わってくれそうにない事を察して諦めたのか、ため息を吐き出した。
「えっと、じゃあまずは、とりあえず判明している事を全員で共有したいと思うので、倉賀野さん、話してもらえますか?」
「はい」
椅子から立ち上がると、手早くこれまでの経緯を皆に話した。
小野田さんを強制帰還させた後、小野田さんを誘拐した犯人はどうなったのかとユリアーヌに訪ねられ、大友君達からも知りたいと言われたので、では会議室でも借りて話合おうかという事になった。
円卓のテーブル席は、十二時の方角に大友君が座り、その両隣を千羽さんと河野君、反対側の六時に私が座り、両隣をユリアーヌとアレキスが座る。
継ぎ目の見えない木製のテーブルは、畳一枚程度の直径があった。同じ木材を使っているだろう椅子は、背もたれと座面にベルベットのような肌触りのクッションが設置されており、かなり快適だ。どちらも相当高価な物だと思われる。流石腐っても王城だ。
そして早速話を、と思ったのだが、人数も多いので司会進行役が居た方がいいのではないかという千羽さんの提案と推薦により、大友君にその大役が押し付けられた。
「まず小野田さんを誘拐した犯人はすでに捕獲していて、暫くは同じ事ができない様に魔力を没収して魔族の牢屋に放り込んであります」
「容赦無いな……」
魔力の没収という言葉に、ユリアーヌが頬を引き攣らせる。魔法使いとしては、それがどれだけ恐ろしい事か分かるようだ。
ただ、コランドールにはいずれ魔力は返すつもりだ。と言っても、ダルから戻するのではなく、私の魔力を分けるつもりである。ダルのように幼児化してしまったら可哀想だ。
ただし、この侵略問題に決着さえつけば、だけれども。
「ここは推論にはなるけれども、侵略者達は魔族の暮らす魔界にある、三か所の魔力スポットからそれぞれ現れている事から、おそらく魔力スポットが侵略者達とこの世界を繋ぐ出入り口になっている可能性が高いと思う」
「それは、ほぼ確定でいいかもしれない。確かに、高濃度の魔力溜は次元を歪める力がある。マリネ達を召喚した魔法も、人工的に魔力溜を作って異世界に繋いでいるから」
私の推論を、ユリアーヌが肯定する。
「魔力スポット自体、元々この世界を作ったという侵略者達が出入りする為に残したドアなのかもしれないわね」
「この世界を作った?」
アレキスが首を傾げる。
「どうやって作ったとか、そういう現実的な事は聞かないでね。それは私も分からないから。ただ、変態曰く、侵略者達にとっては侵略している意識は無いんですって。自分達が作ったものが、十分成長したので収穫にきました、って感じかしら」
「身勝手ね」
千羽さんは眉をしかめる。その隣で大友君は、深刻そうな表情で静かに聞いてくれていた。河野君は気の無い相槌を打っている。
「侵略者の魔力に関しては、まだ三人しか見ていないから何とも言えないけれど、三番目の侵略者が前任の魔王に僅かに劣る程度の魔力を所持しているのだから、侵略者達の親玉――真の魔王の魔力は前任魔王を凌駕すると思う」
「それは、どれくらいの強さなのでしょうか?」
大友君が、不安そうに口にする。私は顎に手を当てて考え込む。
「そうね……最低でも私の半分ぐらいかしら? 最悪でも、私と同じくらいかとは思う」
「なんだ、じゃあ倉賀野がその真の魔王とか言うのをぶっ飛ばしてくれれば終わりじゃねーか」
河野君の言葉に私が眉を寄せると、大友君が珍しく河野君を睨み付ける。
「倉賀野さん一人に押し付けるのでは、僕らがいる意味がないじゃないか」
「と言っても、今の俺達は倉賀野の十分の一にも達してない気がするし、下手に手を出しても足引っ張るだけっていう気もするけど」
「それは……」
大友君が言葉に詰まると、千羽さんが代わりに河野君を睨み付ける。
「そんな事は百も承知で、でもそんな安易に倉賀野さん頼みで解決しても、この世界は救われないって事でしょ」
「じゃあどうすりゃいいんだよ?」
「それを話し合うのがこの会議の意味でしょ?」
バチバチと火花を散らす河野君と千羽さんを、大友君がおろおろと見守っている。私はわざとらしい咳払いをすると、三人の視線をこちらに呼び戻す。
「確かに、私がぶっ飛ばせばこの問題は片付く。でも、私はもう、魔王をぶっ飛ばす気は無いの」
「なんでだよ。一番犠牲が無いじゃねーか」
「今はね。でも、今後同じ事が起こったら? その度にまた勇者を召喚するの? その勇者が私になるかは分からないし、いずれ私は死ぬわ。そして私が死んだ後、召喚された誰かが死に物狂いで力を付けて、縁もゆかりも無いこの世界の為に、死ぬ気で頑張るの?」
「二度とこんな事が起きない様に、根こそぎぶっ飛ばせば――」
「私に大量殺人犯になれって言うの?」
河野君が、気まずそうに視線を逸らす。大友君も、千羽さんも瞳を伏せた。
「私は、この世界の事はこの世界の人間で解決するべきだと思う。でも、魔族と人間がいがみ合って居る今の状態では、到底無理。だから、私達がやるべき事は、魔族と人間が手を取り合えるよう、仲を取り持つことだと思ってる。その間に侵略者がやってくるなら、撃退ぐらいはするわ。でも、決着をつけるつもりは、無い」
「マリネ……」
アレキスとユリアーヌが、力強く頷く。私も、頷き返した。
「一度魔王をぶっ飛ばして分かったの。あれは悪手だった。だから、二度目はやりません」
「……わかった。僕も、その方がいいと思う」
大友君が、まっすぐ私を見つめてくる。
「じゃあ、当面の目標は魔族と人間の仲を取り持つこと、でいいかな?」
「そうね……ただ、その方法が全く思い浮かばなくて」
「それについては、私に一つ考えがある」
ユリアーヌが控えめに挙手する。
「本当に?」
「ただ、かなり強硬手段だし、私自身はどちらかと言えばやりたくは無いのだけど……」
「最終手段という訳ね? で、どんな内容?」
「父を退けて私が王になる」
「……あぁ、確かに最終手段ね」
現実的に行うのはかなり難しい気もするなぁとため息を吐き出した所で、大友君達三人が固まっている事に気づいた。
暫くそのまま様子を見ていると、自力解凍できたのか徐に大友君が口を開く。
「それは、えっと、つまり? ユリアーヌ先生はもしかして?」
そういえば言っていなかったと、ユリアーヌと視線を合わせる。ユリアーヌが説明の為に口を開いた。
「城の中でも一部の者達しか知らないので口外しないで欲しいんだが、私はこの国の第一王子なんだ」
ユリアーヌの告白に、千羽さんが高そうな椅子を倒す勢いで立ち上がる。
「リアル王子様ッ?!」
「スゲー!」
「知らなかったとはいえ、王族の方に魔法を教わっていたなんて!」
三者三様の驚き様に、アレキスはうんうんと頷く。
「良い反応だな。マリネなんて知った瞬間、割と本気で殺意漲らせて飛びかかったからな。あの頃はまだ俺の方が強かったのに……いつの間にこんな事に……」
「十五年も前の事なのに、よく覚えているわね」
「いや、私もあの時の事は覚えているぞ……」
ユリアーヌの言葉は聞こえたが、シカトした。
あの時は本当に、召喚された事にかなり腹を立てていたのでどうしても我慢できなかったのだ。今はもうしないから、忘れてほしい。
「ところでマリネ」
アレキスの言葉に、「何?」と首を傾げる。
「あの変態はどこ行ったんだ?」
アレキスの言葉に一瞬の間を開けて、頭の中を縄でグルグル巻きにされているというのに笑顔で転がる変態が通り過ぎていった。
「……あ、忘れてた」
「まさか、どっかに吊るしたまま、放置してんじゃねーよな?」
アレキスが顔を引き攣らせて聞いてくる。流石に私もそこまでアホではない。
「いや、ちょっと小野田さんを探させているのだけど……どうしよう、私が先に見つけちゃったし、もう帰還させちゃったし、絶対に見つけられない状態になっちゃった」
「それはそれで酷い状態だな」
アレキスが引いているが、あくまで不可抗力だ。故意に変態を虐めている訳ではないと、声を大にして主張したい。




