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第三十七話:激おこ



 王城に戻ると、速攻でユリアーヌに捕まり大広間に連れていかれた。

 そこでは小野田さんと大友君達三人組が何やら口論をしている様子。間に立っているアレキスが何とか宥めようとしているが、お手上げ状態らしく私を見つけてゆっくりと首を振る。

「あの女、私達を騙していたのよ?! どうして庇うのよ!」

「倉賀野さんには倉賀野さんの事情があったんだし、僕らはもう彼女を責めるつもりはないよ」

「第一、貴方何もしてないじゃない。お城でドレス着て魔法使ってユリアーヌ先生に媚びてただけでしょ」

 吐き捨てるような千羽さんのセリフに、小野田さんの眉が吊り上がった。

「千羽の言う通りだろ。小野田はこっちに来てから倉賀野が黙ってた事で損してないんだから、お前が倉賀野にキレる意味が分からねぇ」

 河野君の言葉に、小野田さんはその場で地団太でも踏みそうな程に顔を赤くする。

 こういう場合普段なら仲裁に入る大友君も、とりなすような事をしない為に余計険悪なムードを煽っているように感じられた。それが大友君の静かな怒りのように感じられて、一体何があったんだと隣のユリアーヌを見上げる。

「オノダが戻ってきた時に、センバも居合わせたんだけども、センバが挑発してね」

「挑発?」

「……役に立たない癖に、足を引っ張るなと」

「千羽さん強烈だな……」

 烈火の如く怒りに燃える小野田さんが思い浮かぶ。

 今の全員集合を見るに、おそらくその後徐々にメンバーが増えていったのだろうが、大友君も河野君も千羽さんの味方だ。形勢不利な中、小野田さんも引けずに長引いているのだろう。

「帰りたい」

「駄目」

 ユリアーヌに速攻で却下されて、肩を竦める。だが、元は私が原因だ。自分のケツぐらい自分で拭ねば。

 そう決意した所で、入口傍で足の止まっていた私と、その隣に並ぶユリアーヌを小野田さんが見つける。足音高くこちらに近づいてくるので、私も入口から離れて動き出す。大友君達も振り返り、私が戻ってきた事に気づいた。

「ようやくおかえり、勇者様?」

 皮肉気な言い方に、私はぺこりと頭を下げる。

「今まで黙っていて悪かったけれど、私は――」

「今まで皆が必死に戦ってるのを見て、さぞかし面白かったのでしょうね?」

 悪意の籠った声が、頭の上に振りかけられる。

 疑問形で投げかけられる言葉は、無視して話せばシカトしたとキレられ、答えても嘘だと否定されるだろう。そう思わせるだけの、悪感情が言葉からにじみ出ている。

「そんな事は」

「初歩的な魔法を一喜一憂しながら使っているのを見て、嘲笑っていたんでしょう?」

「笑ってない、です」

「そしてユリアーヌ先生が好きな私を、嗤っていたのでしょ? 自分の優位を確信して、馬鹿な女だと笑っていたのでしょう?」

「笑ってない。そんな事ない」

 頭を上げて、正面から小野田さんを見る。その瞳に浮かぶ怒りの奥に、何があるのか見極めたくて、じっとその眼を見つめた。

「皆に秘密にしていた事は、本当に申し訳ないと思っている。ごめんなさい。でもそれは、誰かを笑う為にした事じゃない」

「アンタはいつでも言う事ができたのに、こんな事になるまで言わなかった」

「それは……」

「秘密にしている間、アンタ平然としてたじゃない。悪かったと思ってる? 今まで平然とした顔しておいて、そんな言葉信じられると思ってるの?」

 何を言えば良いのか言葉が見つからなくて、口をつぐんでしまう。

 それ見た事かと顔を歪める小野田さんに、大友君が私と小野田さんの間に立つ。

「小野田さんは、恥ずかしいんだね」

「はぁ? 何言ってんの」

「魔法も、何も、倉賀野さんにはどうやっても敵わない。なのに、今までそれを鼻に掛けていた事が、恥ずかしいのでしょう? その恥ずかしさを誤魔化す為に、必要以上に倉賀野さんに噛みついてる」

 空気が凍り付いたのを肌で感じた。

 大友君は、無表情だ。

 眉を顰めるでも、笑みを浮かべるでもなく、ただただ冷めた目で小野田さんを見ている。これが大友君の怒りの表情なのか、と見られている訳でも無い私の背筋を震えが走る。普段穏やかな人が怒るととても怖い、という事を実感した。

「僕は、悪かったと謝っている人を更に責めるような人の方が、よっぽど恥ずかしいと思うけど?」

 瞬間、小野田さんからも表情が抜け落ちる。それと同時に魔力が噴出したのを感じて、咄嗟に大友君と小野田さんの間に身体を滑り込ませる。遅れて千羽さんと河野君が突っ込んできて弾き飛ばされたのを、ユリアーヌがキャッチしてくれた。

「耕平に手を出してみろ、タダじゃすまさねぇからな」

「大友君に八つ当たりとか、どこまで恥ずかしいの」

 二人も小野田さんの険悪な魔力を察したようだ。愛の力って凄いなって思いながら、ユリアーヌに礼を言いつつ姿勢を治す。

 それから火花を散らす小野田さん達に近づく。

「小野田さん、ごめんなさい」

「だから、私は謝られても――」

「本当は、皆の意思を尊重したかったのだけど」

 魔法を唱える。小野田さんの足下に幾何学模様の魔法陣が浮かび上がる。それは小野田さんが動いても、ぴったりとその動きを追尾していく。彼女に逃げる事は不可能だ。

「帰ってもらうわ」

 魔法を起動する。眩い光が小野田さんを包みこみ、彼女の姿は光の粒となって消え去った。



「あんな奴、さっさと帰しちまえば良かったんだよ」

 不機嫌そうな河野君の声に、苦笑で答える。確かに、早々に返していれば彼らにこんなに迷惑をかける事も無かったのだろう。やはり、後悔の種は尽きない。

「倉賀野さんは、僕達の意思を大切にしようとしてくれていたのだから、そんな事言っちゃ駄目だよ」

 大友君が、河野君を宥める。その姿はいつもの大友君だ。

「自分の恋が叶わないからって、あぁはなりたくないわ」

 千羽さんがぽつりと零した言葉は、大友君と河野君には聞こえていなかったようだが、私の耳にはしっかり届いていた。

 マジマジと千羽さんを見る私の視線に気づいたのか、千羽さんは不機嫌そうに唇を尖らせる。

「何よ」

「いや、千羽さんにその心配は必要なさそうだなって」

 そう言うと、千羽さんは視線を逸らして、ちょっと俯いてから、徐に顔を上げた。

「それは……どうも」

 何とも言えない表情を浮かべる千羽さんに思わず笑ってしまったら、滅茶苦茶怒られた。



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