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第三十四話:嫌な予感



 転移魔法で全員をお城に戻す事も出来たが、兵士の人達が他にも魔獣が居るかもしれないから暫く街に残って様子を見ると言うので、大友君達と私だけが戻る事になった。

 大友君達は転移魔法は初めてなので、事故の無いように念のため魔法陣を魔力で描いていると、作業を見ていた河野君が口を開く。

「瞬間移動できるってヤベーな、すげぇ便利。もっと早く教えてくれりゃ、旅も楽だったのに。馬って結構ケツ痛くなるんだよな」

 河野君の言葉に、大友君は苦笑を浮かべ、千羽さんは眉をしかめた。だが二人ともそっとお尻に手を当てた所を見ると、中々きつかったようだ。

「それは、ごめん」

「あ、いや、でもこんな機会でも無ければ馬になんて乗れなかっただろうから、貴重な体験ができて良かったよ?」

 大友君が慌ててフォローを入れてくれる。

「私は狭い馬車に押し込められたわ」

「馬車ならいいじゃねーか」

「馬鹿言わないで、狭い所で揺れる馬車の辛さを知らない癖に」

「なら千羽だって馬の辛さ知らねーだろ」

「まぁまぁ二人とも!」

 険悪な空気を醸し出す二人を、大友君が宥める。

 おそらく、これがいつもの三人の姿なのだろうなという気がする。

「魔法陣できたから、そろそろ行きますよー」

 私は三人に声をかけながら、ミノムシの様に縄でグルグル巻きにされている変態を魔法陣の上に蹴って転がす。口に猿轡を噛ませているので、何かしゃべっているようだがモゴモゴと言葉になっていない

 三人は極力変態を視界に収めないようにしながら、魔法陣の上に乗る。

「じゃ、ちょっと眩しいから目を瞑って」

 変態以外が目を閉じたのを確認して、魔法陣を起動する。白色の光に辺りが包まれた。


 すぐに光は収まり開けた視界には、最初に召喚された王城の大広間が目に映る。

「マジで一瞬なんだな」

 辺りを見回した河野君が言う。

「これって、行った事ある場所じゃなきゃ駄目なの?」

 興味を持ったのか、千羽さんが聞いてくるので私は首を振った。

「行った事なくてもできるけど……かなりの魔力が必要かな。最低でも、ユリアぐらいは」

「……それってほぼ無理って事じゃない。それと、ちょっと」

 千羽さんに腕を引かれて、大広間の隅っこに連れて来られる。何事かと身構えていると、チラリと千羽さんは大友君の方を見ながら言葉を紡ぐ。

「本当は、ユリアーヌ先生とは付き合ってないのよね」

「まぁ、うん」

「じゃあ、結局ライバルな事には変わりないって事」

 探る様な千羽さんの視線に、私は意識して真剣さをにじませて答えた。

「いや、それは無い」

 千羽さんの言うライバルが、大友君の恋敵という意味なのは間違いない。

 そして、私は別に大友君を恋愛感情で好きな訳ではない。確かに、こんな性格のひん曲がった私にも優しくしてくれる大友君は、本当にすごい人だと思っているが、恋人になりたいとか、そういう感じはしない。間違いなく大切な人だけれども、手を繋いだりキスをしたいかというと、そういう訳ではない。

 そういう事を何とか伝えてみたのだが、千羽さんは気の無い返事を返すだけで鋭い視線は変わらない。どうやったら疑いが晴らせるのかなぁと、首を傾げる。

「それに私、どちらかと言えば」

 そこで一度言葉を切る。これから言おうとしている事は適切かな、と一瞬悩んだのだが、まぁいいかと唇を開く。その刹那、私達の隣に魔力の気配を感じたが、動きだしていた口は止まらない。

「ユリアが好きだよ」

「……えっ」

 突如として隣に現れたユリアーヌが、目を丸くする。私もユリアーヌを見て目を丸くする。千羽さんだけがテンションを上げていた。


      *


「魔獣の件は、了解した。私から、国王に伝えておこう」

 視線を泳がせながら、ユリアーヌが言う。

「念の為魔力探査は掛けてあるけど、私の分かる範囲に大きな反応はなかったから。でも一応、その、警戒しておいた方がいいかも。魔界での一件も、あるし」

 同じく視線を泳がせながら、私が答える。

 背後で大友君と河野君が何事かと千羽さんに聞いているが、「人のを見て居るのは楽しい」としか彼女は答えない。面白がっていないで助けてほしい。

 それからギクシャクしつつ、お互いの連絡事項を伝えるとユリアーヌは足早に去っていった。侵略者の件を国王に話したが、やはり芳しい反応は得られなかったようだ。むしろ、この機会に勇者達を魔界に送り込んだらどうだと言ってきたので、私が彼らにカミングアウトするらしいから、もう勇者達は魔王討伐のヤル気は見せないだろうと伝えたら椅子からひっくり返ったそうだ。そのシーン、とても見たかった。


「倉賀野さんは、これからどうするの?」

 とりあえず旅の疲れを癒す為、それぞれの客室に向かう廊下の途中、大友君が話を振ってくる。

「とりあえず、侵略者の件をどうにか片付けようかな、って」

「……その、人? から何か聞きだせないのか?」

 河野君が、絶賛私に蹴り転がされている変態を指さす。

「そうね、ちょっと吊るせば何か言うかもしれないわね」

「吊るす……」

 河野君の笑顔が引きつっている。

「私たちの目に入らない所でやって」

 千羽さんが険しい表情で言ってくるので、私はもちろんと頷く。

 その時、廊下の反対側から小野田さんが歩いてくるのが見えた。

「あ、小野田さん」

 気づいた大友君が声を上げるが、小野田さんの視線は私で固定されていて動かない。

 視線だけで人を殺そうとしているのではないかという眼差しで、小野田さんが私の真正面に立ち止まる。必然的にこちらも足を止めざる負えない。

 無視された形の大友君は気にしていないようだが、河野君と千羽さんの気配がピリついた。

「えっと、小野田さん」

「倉賀野さん」

 沈黙が辛かったので声をかけた所に、タイミング悪く小野田さんも口を開く。私と彼女の視線と言葉がぶつかり合う。

 刹那、不自然に膨らんだ魔力に眉をしかめる間も無く無意識で防御魔法を展開する。バチン、という音を廊下に響かせて、防御魔法が何かを弾いた。咄嗟の事だったので変態までは防御魔法の対象外だったが、自分で魔法を展開したらしく身体に巻きつけられている縄は無事だ。

「え、何」

 千羽さんの困惑した声を聞きながら、私は再度不自然な魔力の流れに干渉して動きを捻じ曲げる。小野田さんの顔が歪んだ。

「やっぱり、“あの人”の言う通りなのね」

 小野田さんは懐から赤い魔石を取り出すと、床に叩きつけた。

 白い光が辺りを覆い、眩しさに手の平で目を覆う。

 光が収まった時には、そこには誰も居なくなっていた。

「今のって……瞬間移動だよな?」

 河野君が、私に聞いてくるが、それどころではない。

 何故小野田さんは魔石を持っていたのか? しかも瞬間移動の魔石なんて、作れるのは私とユリアーヌぐらいだ。


 そして口にしていた、“あの人”という言葉。


「なんだか、とてつもなく嫌な予感しかしない……」

 こういう予感は、大抵当たるものだ。



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