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第三十話:意気地なし



 魔力の封印を施したヒュンケルト君は、「このような屈辱的な目に合わされるくらいなら殺せ!」と過激な主張を言い続けていたが、さくっとスルーして牢屋に放り込んでおいた。

「魔力の封印ですか、中々興味深いですね」

 変態がメガネを光らせながらこちらを見てくる。ちなみに縄に縛られ床の上に転がされている状態なのに変わりはないが、すでにこの状態がデフォルト化してしまっている事実に戦慄した。

「我々の研究では、魔力とは常に体内をめぐる血液のようなもの。その魔力を封印すれば死ぬ事と同義と思っていましたが、ヒュンケルト君はぴんぴんしていた。いや、もしかしたらかなり辛い可能性も……? マリネ様、是非私にも封印を」

「ヤダ」

「後学の為に」

「絶対目的が違う」

 男を喜ばせたくないという事もあるが、この男、中々魔力がデカいので封印はかなり労力を使いそうだし、封印の維持に私の魔力もある程度持っていかれてしまうので、それよりは監視として傍に置いておいた方が楽なのである。不本意だけれども。

 いっそ、一度目の召喚時にダルの魔力を奪ったように、封印ではなく強奪という手段を取ってしまう方が手っ取り早いのだが、あれはダルを殺してしまう可能性も少なからずあったし、事実ダルは身体が赤ちゃんになってしまっている。変態とはいえ、それは抵抗があった。

 封印を強請ってくる男を、蹴って黙らせる。この場合のだんまりは、痛みを耐える的なものではなくて、恍惚とした表情を浮かべて惚けているという所がさすが変態だ。一ミリも見習いたくない。

「マリネ、すごい音がしたが大丈夫か?」

 男をけっ飛ばした音が聞こえたのか、ユリアーヌが扉をそっと開けて覗き込んでくる。私は蹴り飛ばした男の縄を掴んで引きずりながら、扉へと向かう。

「大丈夫、ちょっと変態を黙らせただけだから」

「そ、そうか……もう一人の方は?」

「魔力も封印したし、縛ってあるから大丈夫だとは思うけど……」

 廊下の先を振り返る。ヒュンケルト君がキャンキャンと物騒な事を吠えているのが聞こえてきた。

「猿轡噛ませた方がいいかな?」

「それはあまり痛みがないので私はちょっと」

「よし、お前は確定だ」

「……自殺防止という意味でいいんだよな?」

 私と変態を交互に見つつ、ユリアーヌが確認してくる。私に嗜虐癖はありません。

 首肯すれば、ユリアーヌは安堵のため息を吐き出す。失礼な。

「なら、私の方で頼んでおこう。とりあえず、マリネはダルさんに報告を頼む」

「分かった」

 ユリアーヌが牢屋番の魔族と話しているのを見ながら、男を引きずり廊下を進む。

 ちょっと魔王城を離れている間に、随分魔族と打ち解けている。おそらくディーが何か魔族達に話しておいてくれたのだろう。こういう所、本当に魔族達は私情にとらわれず臨機応変に対応できるなと感心する。私だったら、正直無理だ。


 ダルの私室に戻れば、そこにはダルとヴァリエとアレキスだけが居た。ディーの姿は無い。

「ディー様は仕事に戻られました」

 私の視線を察したヴァリエが教えてくれる。

「そっか」

「おう、マリネ。新しく捕まえたっていう侵略者の様子はどうだ?」

 アレキスが、片手を上げて話を振ってくるので、変態を部屋の隅に転がして三人の傍に近寄る。

「話を聞きだすのは無理そうね。アレキスみたいな脳筋タイプだけど、頑固で」

「一言余計じゃないか?」

「大丈夫、私も脳筋仲間」

「それは大丈夫って言うのか……?」

 アレキスが首をひねった。ダルはクスクスと笑っている。

「こんごよそくされるたいおうは、ディーにまかせてあるから、マリネはいちど、にんげんのおうじょうにもどるといい。きっと、ともだちたちがしんぱいしている」

「おっと、そうだな。特にオオトモがスッゲー心配していたから、顔見せて安心させてやってくれ。大人しそうな顔して、アイツ結構無茶するから」

「そうね……でも……」

 ちらりと後ろを振り返る。部屋の隅に放り投げた変態が、捨てられた子犬のような顔でこちらを見ている。置いて行かれる気配を察したのだろう。

「アレは置いて行けそうにないし……」

 別に表情に騙されている訳ではないが、男の魔力的に暴れられたらディー達にだいぶ迷惑がかかるだろう。かといって、連れて帰ったら大騒ぎ間違いなしだ。

「マリネの隠蔽魔法? ってやつで見た目を誤魔化せられないのか?」

「レジストされるのよね。アレでも、魔力があるから」

「マリネ様と共にある為ならば、この不肖ランペリオス、マリネ様の魔法に一切抵抗いたしませんよ」

「そう? でも魔法で運んで行こうとした時、私の魔法弾いたじゃない」

「魔法で運ばれたら痛くないので」

「あ、そっか」

「マリネお前……結構毒されてきてるぞ……」

 男の発言にドン引きの様子を見せるアレキスを見て、確かに良く考えたらすごく気持ち悪い発言だったなと気づいた。ナチュラルに納得していた自分が恐ろしい。

「じゃあ、やってみるから抵抗しない様に」

 そう言って、男に隠蔽魔法をかける。確かに、男の言う通りすんなり魔法がかかるのを感じた。とりあえず、尻尾を見えなくすれば見た目は普通になるだろうかと、尻尾を見えない様にしてみる。

「どう、アレキス」

「尻尾が消えた」

「ん、成功」

「存在自体を見えなくするのかと思ったが、いいのか?」

「人一人見えなくするのは流石にキツイし、他の人に見えないからって私の進行方向に潜り込んで踏みつけられようとされても困るし」

「流石マリネ様、私を熟知しておられる」

 アレキスが憐れみの視線を向けてくる。まるで私まで変態みたいではないか。

「でも、どう言い訳するんだ?」

「魔族の人に人間拾ったんだけどと言われて、押し付けられたって言う」

「……えぇ?」

「しょうがないじゃない、本当の事言う訳にもいかないし」

「諦めてぶちまけちまえばいいのに。遅くなれば遅くなるほど、どんどん気まずくなるぞ」

「……わかってる」

 いっそ、召喚されてすぐ打ち明けていれば、と思う。それか彼らが旅に出ると言った時でも良い。でも、言えなかったばかりにズルズルと引っ張って、そしてどんどん言えなくなっていく。

「マリネ、一つ教えてやる。あの時こうしていれば、のあの時は今なんだぜ?」

「なにそれ」

「どうせ、もっと前に話していれば、と思っているんだろう? だったらこれから先も、マリネは今この機会に打ち明けていればと思う時が絶対来るって事だ。そう思う時のあの時、が今なんだよ」

「……」

「ま、忠告はしたからな」

 肩を竦めるアレキスを恨みがましく見てしまうが、アレキスは何も間違った事は言っていない。間違っているのは私だ。そう分かっているのに、言う勇気のない意気地なしなのも、私だ。


 精神的に強くなれたらいいのに、心の鍛え方だけは分からない。



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