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第二十九話:くっころ



 私の祈りが届いた事って本当に少ない。

 例えば小さい頃は両親が帰ってきますようにと、見様見真似で祈っていたが叶った覚えは少ない。叶ったというのも元々月一程度に帰って来ていたもので、それもちょっと顔を出してすぐにいなくなってしまうので、それでは私の願いはほとんど叶ったと言えないだろう。

 ここ最近で言えば、二度と召喚されませんようにと思っていたら召喚されたし、つくづく神頼みに縁がない。

 逆に叶った事といえば、ダルの石化を解除する方法が見つかった事ぐらいだが、おまけで変態が発生したので、私を素直に喜ばせてくれない。

 神様なんて信じていない人間が、都合が悪いときだけ頼ってくるなという事なのだろうか。

 なら、神様を信じている人はどうやって信じられるようになったのだろう。

 本当に奇跡としか思えない、自分の努力と無関係の出来事で自分の願いが叶った時?

 でも努力が介在しない願いとはなんだろう。宝くじの一等とか? でも神様を信じている人の数と、宝くじの一等はイコールにはならないだろう。


 と、つい先程まで思っていたのだが。


「くっ、殺せ!」

 私の足の下で、魔力の縄に縛られ転がされた男が言う。

 どこかの変態と違う、青い髪の間から除く黒い角。マントと鎧をしげしげと眺めたが、尻尾の姿は無い。角だったり尻尾だったり、その辺りに統一は無いようだ。

 だがそんな事より、大事な事がある。

 ――この青髪は、変態ではなかった。


 火山地帯に文字通り飛んでやってきた私は、火口から現れたこの男と対峙した。

 男は私が縄で縛って連れてきた変態と、やはり仲間だったらしい。地面に転がされた変態を見て目を瞠り、そして剣を構えた。

 そこからは一方的にボコボコにさせてもらった。

 言い訳にならない言い訳を言うなら、若干面倒くさかった。いっそ揃って出てきてくれれば一回で終わるのに、と身も蓋もない事を考えていた。

 手加減なくボコボコにした末に変態にメタモルフォーゼした男の事を忘れていた訳ではないが、なまじ男が強い分、適度に手を抜くという事ができなかった。油断して怪我を負って痛い思いをするのは遠慮したい。

 そして抵抗も弱くなった男を魔力の縄で縛り上げた所で男の言った言葉が、先程の「くっ、殺せ!」である。

 どこかの変態だったら間違いなく「もっと強く縛ってもいいんですよ」とか「もっと強く踏んでください」とか言うに違いない所を、まさかの殺せ! だなんて、そんな……。

「今なら、神様を信じられる気がする」

「何故?!」

 遅れてやってきたヴァリエが、ツッコミを入れてくる。

「ヴァリエ、この男は変態じゃないわ」

「それだけで?!」

「だけ、じゃない! とっても大事な事だから!」

「いや、確かに変態は気持ち悪いから嫌だけど……」

 ヴァリエが、チラリと変態に視線を向ける。変態は私に踏みつけられている仲間を羨ましそうな目で見ている。気持ち悪い。

「……分かったかも、しれない」

「ほらほらー!」

 盛り上がる私の足下で、男が呻く。

「屈辱に耐えられず決死の思いで言った言葉を、ちっとも真面目に受け取られない屈辱で上塗りされた……ひどい……死にたい……」

「ヒュンケルト君、ならその場所と変わってくれないか? そうしたら私が君を殺してあげるよ」

「そういう気遣いはいらない……というより貴様は私の援護を何故しない?! 動けなくとも貴様なら魔法ぐらい使えるだろう? まさかこいつ等に寝返ったというのか!」

「寝返ってなどいない。ただ、私にとってカトリアス様よりもマリネ様が与えてくれる苦痛の方が、甘美だと気付いただけだ。ヒュンケルト君も縛られているから分かるだろう? この、動けそうで動けない、もがく程に皮膚に縄が食い込んでくる、この痛みの絶妙さを!」

「それがつまり寝返ったという事だろうが! そして分かりたくもない! ……まさかこの女、精神にまで効果のある魔法を?」

「ちょっと、放っておけば人に責任擦り付けないでよ。この男は自ら変態になっただけだから!」

 変態と男の会話を放置していたのだが、聞き捨てならない事を言われたので口を出す。それではまるで、私が変態を変態化させたみたいではないか。

「物理的な手法で変態を生み出したのはマリネ――」

「ヴァリエ」

 そっと名前を呼べば、ヴァリエは口をつぐんだ。

「まぁいいわ。とにかく貴方達から聞きたい事がいくつかあるのだけど」

「私が大人しく口を開くと思うのか?」

「思わないわね」

「ならばさっさと殺せ。私は、絶対に貴様等に寝返る事はない」

「そう……でも私も、誰かを殺すつもりはないの。ごめんなさい」

 魔獣は殺す癖にと思われそうだが、やはり言葉を喋り、コミュニケーションが取れるというのは大きい。私にはとてもじゃないが、手を下す事はできそうにない。

「でも、逃がしてしまうと後々面倒くさそうだし……とりあえず、縄で縛って転がしておけばいいのかな? 魔王城に牢屋ってあるかな?」

「牢屋はあるが……魔法を使って脱走する危険はないのか?」

「変態はちょっと難しいけど、このヒュンケルト君? はそんなに魔力は強く無さそうだから、ちょっと封印させてもらえば大丈夫かな」

「なっ! 何故私の名前を!?」

「いや、さっきあの変態が言ってたし、何だったら貴方の上司がカトリアスという名前だというのも分かったからね?」

「くっ……」

 何故か非常に悔しがっている。

 変態がポロポロと名前をこぼしていたが、変態話に意識を持って行かれて気付いていなかったのだろうか?



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