第二話:二度目はやりません
と、思っていたのに。
「うわっ、マジで掌から火の玉がでたぞ!」
「体が軽い! 絶対身体能力も上がってるって!」
ユリアーヌと再び大広間に戻れば、勇者の力を得てはしゃぐクラスメートの姿。
マジか。
「ユリア、作戦変更。帰還を希望する者だけ帰すわ」
「いいのか?」
「ゲーム感覚で楽しんでいる人間を無理に返しても、反感を持たれるだけだからね。帰った後に恨まれるのも、面倒くさい」
「……分かった」
ユリアーヌが頷いたのを確認して、私はしれっとクラスメートの中に紛れ込む。誰も私が居なかった事には気づいていないだろう。自分達の身体に起きた変化にはしゃいだり、戸惑ったりしている。
「勇者様方、先程は失礼いたしました」
戻ってきたユリアーヌが、軽く頭を下げる。それから魔王討伐の険しさを説明し、帰還希望者を募った。
クラスメートが友人達と相談するのを、私は後方から一人眺める。
「倉賀野さん」
予想外に声をかけられ、私の反応が一拍遅れた。横を見れば、大友君が友人達を引き連れ、私の隣に立っている。
「倉賀野さんは、どうするの? 僕達は、残る人が少しでも居るならば、残ろうかと思って居るんだけど」
「……私も、残る人が居るなら残る事にしようかと」
「貴方が残った所で、手助けになるとは思わないけれど?」
大友君の後ろにいた千羽さんが、眉をしかめて私を見た。
あぁ、面倒くさいなと思ったが、顔に出さないよう気を付ける。
千羽さんは、大友君が好きなのだろう。彼の傍に近寄る女を毛嫌いしている。彼女の好意に気づいていないのは、大友君本人くらいだろう。
報われなさ過ぎて可哀想な人だ。告白でもさっさとすればいいのに。告白は恥ずかしいけど、他人に威嚇する事はできるという、その乙女心が私には分からない。
「たぶん、運動部系は残ると思うけど、大丈夫か?」
千羽さんの横に居た、河野君が首をかしげつつ訪ねてくる。
学校での私はどこの部にも所属していないし、体育は召喚前は平均的な成績だった為、戻ってからも変化しないよう手を抜いていた。運動ができるイメージがないのだろう。心配しているというよりは、邪魔にならないかという点を気にしているのが何となく読み取れる。
「どうにも駄目そうなら、途中で抜けさせてもらうから」
「無理はしないようにね?」
心配しています、という言葉を顔に張り付けたような表情で、大友君が言う。私は素直に頷いた。
結局、クラスの半数以上が帰還を望んだ。運動部所属の生徒は数人が早々に教室を飛び出していたので、今回の召喚に巻き込まれていないのが幸いしたのか。大友君のグループが五人、他に四人、そして私の計十人。
帰還組はその場に残り、居残り組をユリアーヌの部下達が別室に案内する。私はその列を抜けて、大広間に戻った。
「あれ、倉賀野さん?」
気づいたクラスメートの猿渡さんが、不思議そうに首を傾げる。私の、片手に納まる挨拶を交わす一人だ。彼女が帰還を選んでくれて、良かった。彼女に辛い思いはして欲しくない。
私は、帰還の呪文を唱える。彼女の目が、私の紡ぐ意味不明の言葉の羅列に、目を見張る。
クラスメートの足元に幾何学模様が浮かび上がり、広い光が辺りを覆う。眩しさに目を眇めながらも、呪文の詠唱はやめない。
光が収まった後、その場には私とユリアーヌ達しか残っていない。無事に帰れたようだと、ほっと息を吐き出す。
そして誰も居なくなった途端、その場に居た全員が跪く。
「勇者マリネ、貴方には何とお詫びしたらいいのか」
「その話はもう終わったでしょ」
「しかし」
「やめて。怒りをぶり返させたいの? それに、いくら詫びたって私はもう魔王討伐はしない」
私の宣言に、兵達の表情が曇る。それでも、私は自分の意思を曲げるつもりはない。
「一度魔王はぶっ飛ばしたんだから、二度目はやりません」




