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第二十八話:次から次へと



 私のざっくりした説明に、アレキスは頭を抱えた。

「えーっと、つまりあの男はマリネ達とは違って自らの意思でこの世界にやってきて、俺達人間にとっても魔族にとっても敵になるって事でいいんだよな」

「そうね」

 呻くアレキスの隣で、ユリアーヌは顎に手を添えて考え込んでいる。

「それで、なんでそんな男が一緒にいたんだ?」

「あぁ、それはその……ちょっとボコったら、新世界の扉を開けちゃったみたいで」

「はぁ?」

「まぁ深く気にしないで」

「いや、気になるだろ」

「気にしない。いい?」

「お、おう……」

 アレキスを鋭い視線で見つめれば、納得してはいないだろうがとりあえず頷いた。どうせこの後あの男が戻って来れば、嫌でも意味は分かるだろう。

「ダルさんは、どうしてあの男が侵略者であると確信できるのですか?」

 考え込んでいる様子だったユリアーヌが、ダルに質問を向ける。

「そうだね。ひとつは、あのおとこがさいしょにむけてきた、わたしたちへのてきたいしん」

 私達を下等生物だのなんだの言ってきた様子から見ても、これから一緒に仲良くしましょうという気配はなかった。

「もうひとつは、そうせいきのいわかん」

「違和感?」

 ユリアーヌ達が現れて中断していた話に戻ったのを感じて、私もダルの声に耳を傾ける。

「われわれまぞくと、にんげんはもとはおなじいきものだった。これは、にんげんもおなじけんかいだったと、きおくしている」

「そうですね」

「ならば、なぜわれわれは“まぞく”なのだろう、とおもっていてね」

「……ん?」

 ユリアーヌが首を傾げる。私も首を傾げる。アレキスはすでに話に置いて行かれたのか、ぼんやりした顔で窓の外を見ている。

「ぞくというのは、ちすじのつながりだ。まぞくとにんげんは、そせんをおなじにしている。なのに、なぜ“まぞく”になったのか」

「人間とは違う魔力や寿命を持つことから、差別化しようとしたのでは?」

「たしかに、それがふつうだろう。でも、まぞくがひととはちがうちからをもったのは、あるひとつぜんのへんかではないはずだ。もしそうならば、にんげんがまかいでくらせば、まぞくになれることになる」

「待ってダル。もしかして、ダルはあの男が本来の魔族だと?」

 ダルは、ニッコリと笑みを浮かべる。その顔が答えだ。

「確かに、魔族と人間の創世記、どちらも元は同じ祖先だったというのを書いているから、その重なりを偶然だと考えるのも不自然だとは思うけど……」

「生命の起源を伝え残しておける程の昔からの話だ。しかもご丁寧に、魔族は人間から変化したと残しているから、書き残していた者達は魔族の変化を見ていた……」

「おそらく、かつてひととまぞくは、ともにてきにたちむかった。そのてきが、“まぞく”だった。そして“まぞく”ということばがうまれたあと、われわれまぞくのしんかがすすみ、そうせいきのなかのまぞくと、われわれまぞくがかさなった」

 こめかみを揉み解してみるが、ダルの言葉がうまく吸収できない。とにかく、あの男は敵って事でしょ、と私の中の脳筋な部分が囁く。まぁ、それで間違いはないだろう。

「えっと、つまりダルが言いたいのは、あの男は人類にとっての敵、って事よね」

「そうだね」

 私が考える事を放棄したのが分かったのか、ダルが穏やかな笑みで答える。不出来な学生を温かく見守る教師の眼だ。

「もしかしてダルさんは、あの男が我々の認識している意味での本物の魔王だと?」

「あのおとこはせんぺいで、まおうはべつにいるとおもうけれどね」

 つまり、二周目になってとうとう裏ボスが現れた?

 いや、裏ボスだとしても、私はもう魔王をぶっ飛ばす気は無いのだけれど……無いのだけれど、石化されたダルを思いだす。

 確かにダルは、魔王の頃に比べれば魔力はほとんど失ってしまったと言える。それでも、知識と経験はそのままそっくり残っている。そのダルでさえ、ディーを庇って自分の身を守る事ができない魔法を受けたのだ。

 そんな魔法を使う男が先兵。


 裏ボス、大苦戦必至じゃない?


 あの男程度なら軽くあしらえる自信はあるが、裏ボスは間違いなくもっとずっと強いはずだ。

 そんな相手が本気で挑んできた時に、私は傍観していられるだろうか。

 ――そんなの、無理に決まっている。


「やっぱり、あの男を締め上げてイチからゼロまで吐かせないと駄目そうね」

「マリネ様がお望みであれば! このランペリオス! 締め上げられるのもやぶさかではありません!」

 いつの間に復活していたのか、窓の外から勢いよく男が魔法で飛び込んでくるので、反射的に窓の外へと蹴りでもって吹っ飛ばしてしまった。

「……ハッ! 思わず蹴り飛ばしちゃった!」

「スゲーな、全く動きが見えなかった」

 アレキスが、呆れた様な顔でこちらを見てくる。しょうがないではないか、もはやあの声を聞くだけで反射的に足が出てしまうのだから。

「面倒くさいけど、ちょっと行って回収してくるね」

 窓枠に足をかけた所で、地を揺らす衝撃が火山の方から伝わってくる。遅れて濃密な魔力の波がぶわりと駆け抜けていく。

「ちょっと、何よ、今の!」

 ディーの叫び声に、窓の外、ふわりと空中に浮いて戻ってきた白髪の男が気真面目そうな動きでメガネを指で押し上げる。

「どうやら、私の仲間がやってきたようです」

「あぁ、もうっ! 次から次へと!」

 魔力を編み上げ縄のようなひも状にした後、男に向かって放り投げる。私の意思に従って、縄が男の身体を縛り上げる。きつく締め上げれば絞める程に、男が恍惚とした表情を浮かべるのが本当に気持ち悪い。

 どうしてこうなってしまったのだろうかとため息を吐きつつ、次に現れたらしい男の仲間がまともなままでいてくれたらいいなと祈ってみた。



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