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第二十六話:変態

サブタイにも書いてありますが、変態が出現しますのでご注意ください。



 魔力で作った縄で雁字搦めに締め上げられた白髪の男を、足で転がしながら何も付いてはいないけれど無意識に手をパンパンと打ち鳴らして汚れを払う。

「さて、一刻も早く帰ろうか。ディーも心配しているだろうし」

「そうですね」

 先程からヴァリエと視線が合わない。口調も、余所余所しい。

 まぁ、分かる。これは引いているというやつだろう。

「ハァ、ハァ……マリネ様の御御足おみあしで蹴られている……」

「キモイ喋るな」

「あぁっ、申し訳ございません! この愚かで卑しい豚めに、罰をッ!」

「だから喋るなって」

 手加減なく蹴り飛ばす。

「ありがとうございまぁぁぁぁ――!」

 変態の声が、森の中へと吸い込まれて消えていった。ちょっと強く蹴り過ぎたらしい。見失うと面倒くさいので、回収しなければ。

「ねぇ……あの、本当にアレを連れて行くのですか?」

「石化魔法を解いてもらわないといけないからね。そうしたら速攻捨てるから」

「なら、いいですけど……」

 そう言いつつも、ヴァリエは私の十歩後ろを付いてくる。距離感が切ない。


 巨木の根っこから現れた男に突きつけた二択は抵抗という答えだったので、殺さない程度にボッコボコにした。

 男の口ぶりからしても厄介ごとの香りしかしないし、何よりディーを泣かせた恨みがある。それと、こちらを下等生物と蔑んだのもなるほどの頑丈さがあったので、手加減の仕方が分からなかったのもある。

 気付けば男は私の足の下で荒く熱い吐息を吐き出しながら恍惚としていた。頭には一切手は出していない。ちょっと魔法でビリビリさせたり足でグリグリしただけだ。


 森の中を進んだ先、藪の中に顔から突っ込んで足だけが生えた男を見つけ出したので、魔法で引っ張り出す。なるべく触りたくない。

 だがこの男、中々の魔力を持っているため、長時間その肉体に干渉するような魔法が使えない。仕方なく蹴って転がすしかないのである。

 縄のように外部に干渉する物ならば問題ないのだが……とそこまで考えて、妙案が浮かんだ。

「あぁ、縄で引きずればいいのか」

「そんなっ! マリネさまの御御足おみあしでのご慈悲をッ!」

「よし、縄にしようそうしよう」

 魔力を練って縄を作り、男の足にひっかける。そのままズルズルと引きずる。

「あっ……うっ……地面とこすれて、これもっ、またこれで」

 引きずられながら身悶える男を、ヴァリエが自動車に引かれた蛙を見るような目で見ている。それから小走りで私の隣に並んだ。

「真面目な話、貴方はあの男をどう考えているのです?」

「変態」

「真面目に」

「私には分からないわよ。ダルかディーが知っているといいのだけど……」

 私達を男が“異界人”と呼んだ事からも分かるが、どうやらこの世界には私達以外にも他の世界からの干渉があるようだ。

 そして、後方の引きずっている男をチラリと見る。そのお尻付近から生えている黒い尻尾。真っ白い髪に真っ白い服に、黒い尻尾。先が鉤爪のように鋭く尖ったそれは、私達の世界の人間が想像する魔族に近い見た目をしている。

「なんだか、この世界の捩じれの原因が、想像ついてきたような気もする」

 とりあえずは、ダルの問題を解決しよう。

「ヴァリエ、空飛んで帰ろう。その方が早い」

「……えぇ」

 ちらと後方を振り返ったヴァリエは、しかし何も言わない。


      *


 男が聞きなれない呪文を唱える。すると白い魔力がダルに向かって一直線に伸び、ダルの身体へと吸収される。部屋の中を白い光が覆い、眩しさに手を眼前にかざす。

 光が落ち着いた後、ベッドの上には柔らかそうな肌色をしたダルが、ちょこんとベッドの上に腰かけていた。

「ダル様――!」

 感極まったディーがダルを抱きしめた。苦しそうだが、ダルは小さな掌で宥めるようにディーの身体をぽんぽんと労わる。

「マリネ様、ご命令通り致しましたこの豚めに、ご褒美を」

「当然の事しておいて強請ってんじゃねーよ」

 窓の外に向かって蹴り飛ばす。

「ありがとうございますぅぅぅぅ――!」

 変態の声が遠ざかって聞こえなくなった。流石に縄はほどいてあるので、あの変態の魔力なら飛行魔法ぐらいは容易く使いこなせるはずだし、ボコボコにした時に男の再生能力も確認してあるのでこの程度で死にはしないだろう。たぶん。

「マリネ、すまない。てをわずらわせてしまったようだね」

「気にしないで。元々魔力スポットには行こうと思っていたから。それよりも、早速で申し訳ないけれど、先程の変態について聞きたい事があるのだけど」

「わたしがしっていることは、すべてはなそう。まずは、なにがあったのかおしえてもらえるだろうか」

「分かった」

 なるべく簡潔に、を意識しながらダルに森に行った時の出来事を話す。私が話している間に、案の定変態が壁をよじ登って再度部屋に侵入してきたが、大人しく私の隣の地べたに這いつくばってじっとしている。そんな所に居ても踏まないぞ。

 私の話を相槌を打ちつつ黙って聞いていたダルは、私の話が終わるとじっと変態を見つめた。

「かれはマリネとおなじ、このせかいのにんげんではない。そしてマリネとちがって、かれはしんりゃくしゃだ」

「侵略者? そうなの?」

 足元の変態を見るが、男は何も答えない。

「マリネは、しょこのほんをよんでいたね?」

「一応」

「そうせいきはよんだかい?」

「……記憶にほとんどないけれど」

「あんた、何の為に読んでたのよ……」

 ディーの冷たい視線が突き刺さる。さっと顔を逸らした。


 ダル曰く。

 魔族側に伝わるこの世界の成りたちは、まず最初にこの世界に魔力スポットが生まれ、そこから色々な生物が生まれた。そしてその中から人間が生まれる。

 しかしその人間たちは力を持たない為、魔力で強化された獣達との争いを恐れ、新天地を求めて旅立った。残った人間たちは知恵で持って戦った。

 いつしか残った者達の肉体に変化が訪れ、魔獣にも打ち勝てる魔力を身に着けた。

 つまり、人間も魔族も元は同じ生き物だ、というのが魔族側の創世記だ。

 人間バージョンでも魔族は元は同じ生き物でありながら、その身に大量の魔力を宿した者達が結託して国を作って出ていった、というようなニュアンスになっている。


「わたしは、このはなしがきになってね」

「例えばどのあたりとか?」

「まりょくからせいめいがうまれるだろうか、とか」

「根本からなんだね」

「ことづては、せいかくにつたわることのほうがすくない。もじがうまれたのも、きっとだいぶおそいだろう。だが、すべてがつくりばなしとも、おもえない」

「つまり、創世記の中でもダルは何かを真実だと思ったって事よね?」

 私がそう言うと、ダルはできの良い生徒を褒めるようにニッコリ笑った。見た目は完全に赤ちゃんなのだが、その笑みに違和感がない。

「そう。そしておそらく――」

 刹那、ビリビリと空気を震わす魔力の波動に思わず身構える。足元に居た男を踏ん付けてしまったのか、気持ち悪い声が聞こえた気がしたが無視した。

「何、どうしたの?」

「なにかがきたようだ」

 戸惑うディーにダルが説明している間、魔力の源を探る。そして行きついた結果に、思わず「あっ」と声が零れた。

「何、この男の仲間?!」

「いや、えっと、これは」

 バタバタと俄かに外が騒がしくなる。私は頬を掻きつつ、ディー達を見た。

 辿った魔力の先、書庫に現れた二つの反応。

「あの、私の仲間みたいです」

 隠蔽魔法と魔力紋で使えない筈の魔法陣を使って、ユリアーヌとアレキスが魔王城に現れていた。



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