第二十三話:初めての経験
残酷表現(魔獣討伐)があります。ご注意ください。
移動は恙なく進み、目的地の街まで辿り着いた。
今日一日はゆっくり休んで、明日から魔獣狩りの予定になっている。
街の隣にある森の中から魔獣を呼びよせるという香を焚き、一網打尽にしようというのがざっくりとした作戦であった。
私はどう動くかは決められていないが、その場その場でフォローをしてくれと、これまたざっくりとアレキスに頼まれている。
大友君達は部隊後方で、怪我した兵達の手当てなどの支援を担当し、ユリアーヌは香がきちんと森の奥まで届くように風魔法で届ける役らしい。
夕食の時に見た大友君達三人は、だいぶ緊張しているのか食が進んでいなかった。
ちょっと心配だったので、宿の女将さんに頼んで調理場を借り、お茶漬けを作ってみた。これならさらっと食べられるだろうと思ってだったが、大友君は喜んで食べてくれた。河野君と千羽さんは特に何も言っていなかったが、残さず食べてくれたので一安心。
見ていたらしいアレキスに強請られたが、出汁の用意がそこまで無かったので諦めてもらった。以前の召喚時にある程度和食は広めているが、まだ出汁の取れる昆布や鰹節もどき達は貴重品なのだ。
翌日、すっきりした表情の大友君達に、宿で待っている旨を伝えて部屋でマントを装備して何食わぬ顔で再度合流する。もちろん、フードの魔法と認識阻害の魔法は忘れずに掛けてきた。
「それじゃ、助っ人が居るからって気を抜くなよー」
という気の抜けたアレキスの掛け声の元、香が炊かれる。
人間の嗅覚では何の香りもしないが、紫色の有毒そうな煙が森の入り口辺りに立ち込める。それをユリアーヌが魔法で森へと送り込む。
早速現れた魔獣達を、兵士達は淡々と倒していく。森の浅い所にいる魔獣には、流石に手こずる事はないだろうと、とりあえず傍観に徹する。
ちらりと後方に視線をやれば、緊張した面持ちの勇者三人組がいた。今の所怪我人などは出ていないので、彼らも眺めている余裕がある。その余裕が逆に、目の前の虐殺を直視させてしまう。
「気になるか」
隣にやってきたアレキスが、小声で問うてくる。
「アレク、お願いしたいのだけど」
「言われなくとも。無理そうなら下げるさ」
「ありがとう」
「礼はいらねぇ。むしろ残られても邪魔になるからな。礼ならユリアに言っておけ。こういう時は死体は残して魔獣を呼びよせるんだが、あいつ等には酷だろうからって、魔法で片づけてる」
確かに、倒された魔獣はユリアーヌの魔法によって燃やされている。それに血の匂いも、肉の焼ける匂いもしない。おそらくユリアーヌがこちらに届かない様にしているのだろう。
「私の我儘で彼らを残しているのに、面倒を押し付けてごめんね」
「馬鹿言え、これくらい普通だろ。むしろ俺達は前回、お前に何もしてやらなかったってのを、噛みしめてる所だ」
ふと、昔を思いだす。
私の初陣も、この近くの森だった。その時についてきた兵士は、今よりもっとずっと少なくて、そして誰も一緒には戦わなかった。
流石に香は使わなかったが、一人で森に入って一人で魔獣と戦った。
私が最初に殺した魔獣は、兎の魔獣だった。発達した後ろ足で俊敏に動き、隙を見つけて蹴りつけてくる。だが、見た目はほとんど兎だった。
私は、その魔獣を殺す事を躊躇い、何度か攻撃を受けた。その時には十分すぎる訓練をこなした後だったので致命傷にはならなかったが、それが逆に私を躊躇わせた。
明らかに兎の魔獣は私よりも弱かった。それが、私に弱い者いじめをしている気分にさせた。
致命傷を負わせる事を躊躇い続けている間に、物音に釣られて狼の魔獣もやってきた。鋭い爪と牙を持つ狼は、避け続けるのが難しかった。
咄嗟に振った剣が、兎の胴を捉えた。切り裂かれた兎は、辺りに血を撒き散らしピクリとも動かない。
動揺している間に、狼に飛びかかられ押し倒された。目の前に迫った牙に、咄嗟に風魔法を浴びせる。木の幹に勢いよく激突した狼の魔獣も、動かなくなった。
辺りに血の匂いが立ち込め、私は嘔吐してしまったが、この匂いを何とかしないともっと魔獣がやって来てしまうと思い、二匹を魔法で燃やす。その肉の匂いで、再度吐き気を催した。
「確かに、何もしてもらってないね」
「すまん」
「でも、今はもうどうでもいい……って事もないけど、そこまで気にしてない」
辛くて、悲しくて、でも誰も助けてくれない。
魔王を倒せと剣を握らされ、逃げたくても逃げ場所が無い。
でも、不思議と恨みは湧いてこない。
吹っ切れた、とはこういうものなのだろうか。
「っと、ちょっと大物出てきたみたいだから様子見てくるね」
「お? おぉ、気を付けてな」
意外そうな顔をするアレキスに見送られて駆け出す。
魔法で身体能力を強化して、鞘から剣を抜く。
熊の魔獣が、立ち上がって威嚇する。周りの兵士達は、腰が引けつつも剣を構えた。
「援護お願いします!」
そう言って、兵士を飛び越え熊に斬りかかる。私に斬られた魔獣は、そのまま仰向けに倒れて動かない。
「え、援護の隙がありませんでした」
後方の兵士が、おずおずと報告してくる。私もまさか一撃だとは思わなかった。
私たちの頭上を飛び越えて、炎の魔法が魔獣を燃やす。流石にこの距離だと、肉の焼ける匂いは漂う。
後ろに視線を向ければ、ユリアーヌがこちらに杖を向けている。ありがとうと伝えたくて、でも距離がある相手にどうやって伝えればいいのか分からなくて、とりあえず手を振ってみた。ユリアーヌも杖を振り返す。
そうか、誰かと一緒に戦うってこういう感じなんだな、と初めての経験にちょっとドキドキした。




