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第二十話:訓練



 大友君達が遠征に行く場合、こそこそ隠れて行くのも難しいから、いっそ開き直って一緒に行ってしまえばいい。戦闘の時だけは、怖いから隠れているとか何とか言って引っ込んでいれば、そうおかしくもないだろう。


「と、私は思うのだけど」

「マリネが構わないならいいが……どうしてそこまでオオトモ達を連れていきたいんだ?」

 ユリアーヌが、不思議そうに首をかしげる横で、アレキスは満面の笑みでケーキを頬張っている。

「やっぱり、実戦を見て欲しいってのはあるわね。小林君とのあれこれを見て覚悟決めてる大友君を疑う訳じゃないけど、今回の遠征は血を見る事になるし、魔獣とはいえ生き物を殺す訳だから、大丈夫なのかなって」

「そういえば、マリネ達の世界は魔獣が居ないし、争いもほとんどないと言って居たな」

「そうね、だから生死に耐性がない。もちろん、戦争は起きているし、殺人事件も起こるけれど、それを体験する日本人てほとんどいないのよ。動物を殺す事も、加工された肉しか目にしないから意識していないし」

「聞く度に思うが、本当に平和な国なのだな」

「あちらの世界に居た時に感じた事は無いけれどね」

 その場の当事者になると、途端に見えなくなるのは何故だろう。


「そう言う事なら。ただ、荷物運びや雑用は手伝ってもらう事になるだろうが」

「それはもちろん。あ、私も手伝うけど、魔法は使わないからあまり期待はしないでね」

 空間魔法で荷物を収納してしまうと大友君達の前で出す事ができなくなってしまうし、風魔法で浮かせてという訳にもいかないし、付与魔法で筋力アップさせて大量の荷物を持ち上げて見せる訳にもいかないし。

「いっそサポート系魔法だけ使えることにしておけばよかったかな。ユリアと付き合ってる設定なら、私が魔法使えてもそこまで違和感なかったかも?」

 ユリアーヌは紅茶が気管に入ったのか激しく噎せ、アレキスが優しくその背を撫でてやっている。手つきは優しいが、顔に浮かぶ笑みがあくどい。

「そういえば、オオトモ達はその愉快な勘違いが続行中なんだったなぁ」

「大友君達の前でからかってこないでね。すぐに発散できないと、怒りを貯めこんで三倍に増やして返すのが私だから」

「真顔で言うなよ、おっかねぇな」



      *



 大友君達にはユリアーヌから話してくれる事になったので、私は残ったケーキをアレキスに渡して自室に戻ってきた。

 こちらの世界に来てから何度か魔法は使っているが、剣はほとんど使っていない。それに一対一ばかりで、多勢との戦闘も久しく行っていない。

 元々かなり安全に配慮した編成になっているとはいえ、想定外の事態は起こるものだ。その時に、自分がとれる手段がどれだけあるかが戦闘におけるリスクヘッジだと思う。

 部屋に備え付けられているクローゼットから、フード付きのマントを引っ張り出す。着用してから、その場で何度かジャンプしてみる。フードが脱げた。

「そりゃそうか」

 フードを被り直し、フードに魔法を付与して脱げない様にする。更に念のため、隠蔽魔法を自分にかけておく。もし素顔を見られても、すぐに私が誰かを認識することができなくなる、はずだ。

「よし、後は実践あるのみ」

 扉の外に誰も居ないのを確認してから、私は訓練所へと向かった。



 訓練所に向かうと当然の如く兵士達に訝しそうな顔をされたので、隠蔽魔法を一度解除して顔を見せれば、誰も彼も小さな悲鳴を上げながら数センチ飛び上がる。

「ど、どうしました勇者様」

「今度遠征に行くから、剣の練習がしたくて」

「あぁなるほど……しかし、今は勇者様のご友人も訓練所に居ますが」

「河野君かな? だったら予定通りというか、むしろその為に来たというか」

 十五年前にはまだ軍に居なかったのだろう新人達と一緒に、河野君は奥で練習をしているらしい。私がフードと隠蔽魔法までかけてやってきたのはそれを見越してだ。

 激しい戦闘になった場合、うっかりフードが落ちる危険もある。そうならないように練習をしておきたかったのだ。もし最悪脱げたとしても、隠蔽魔法の保険がある。戦闘をしながら、二つの魔法をどこまで維持できるかも確認しておきたい。

「それで、手合わせをお願いしたいのだけど」

「えっ」

 正面の男を見る。男はブンブンと首を振りながら「自分は訓練所の管理があるから」と言う。

 ならばと右を見れば誰もが一斉に視線を逸らす。左を見ても同じだ。

「ちょっと、軍の人間ならやってやろうという気概はないの?」

「勇者様相手にサシでやっても、瞬殺されるのが目に見えるしなぁ」

「あ、別にサシじゃなくてもいいわよ。多数戦を想定しているから、どちらかと言えば多い方が有り難いかな」

「マジで?!」

「勇者様相手に五人だ十人だなんて言ってられねぇ!」

「全員でかかれば一撃ぐらい入れられるかも!」

「「「うぉぉぉぉ!」」」

「じゃあ、全員でお相手いたします!」

 ざっと周りを見回す。最低でも三十人はいる。

「プライドはないの?!」

「そんなものは馬に食わせておけばいいんです!」

 兵士達が訓練用の木剣を天に掲げる。何事かと、奥で訓練していた新人兵士達がやってくる。その中に、河野君の姿もあった。

 フードを深く被り直してから、ため息を吐き出す。訓練所の壁に立てかけてあった木剣を、魔法で手繰り寄せる。

「そっちがいいなら、いいけど。魔法は使わない代わりに、全力で行くからね?」




 床の上に伸びている兵士が一人、二人。数える間も無く、次の兵士が斬りかかってくるので、軌道を読んで避けてから剣先を蹴り飛ばす。衝撃で兵士の手から剣が吹っ飛び、がら空きになった腹を木剣で突く。

 崩れ落ちる兵士を気にしている間も無く、左右から突きを放ってきた攻撃を避けるついでに、剣先に剣を添えて相打ちの軌道に誘導する。

 その先を見守る事無く、その場で飛び上がって空中でくるりと回転して、訓練場の天井を蹴り飛ばして加速しながら兵士の集団に突っ込む。予期していなかったのか剣先が下を向いたままの兵士を殴り飛ばし、振るわれた別の兵士の剣を剣で受け止めながら、振り抜かれた勢いを殺さずにそのまま吹き飛ばされて無理やり軌道修正させてもらい、吹っ飛びながら空中で姿勢を整えて着地、斬りかかってきた兵士に剣を投げつけ、誰かが落とした木剣を拾って再度突っ込む。


 一年間、訓練という訓練もやっていなかったので心配していたが、身体は鈍っていなかったようだ。想像と誤差無く機敏に動く身体が気持ちいい。

 身体の中を流れる血の一滴すら感じられそうな程に、神経が研ぎ澄まされる。

 千分の一秒の世界を動いているかのように、周りの流れが酷くスローに見えた。

 久しく感じた事の無い高揚感。唇が弧を描くのが分かった。



 最後の一人を剣で吹き飛ばす。訓練場内を見回し、他に立つ者がいないのを確認して、深く深呼吸を繰り返す。昂った精神を落ち着かせる。

「す、すげぇ」

「たった一人で先輩達を倒しちまった」

「誰だあのフードの女」

 訓練場の隅っこで、新人達が固まってボソボソと話し合っている。河野君は、じっとこちらを見ているだけ。探られているような気がして、なんとなくフードを深く被り直す。

「うわっ、またスゲーなこりゃ」

「団長!」

 訓練場の入口に現れたアレキスが場内の惨状に驚きつつ、踏みつけない様にひょいひょいと兵士を避けながら歩み寄ってくる。河野君が居るので、魔法を解除する訳にいかない。

 どうしようかと思った所で、アレキスが私の肩をぽんぽんと叩いた。

「良い機会だから紹介しとくぜ。こいつが、今度の遠征で来てくれる助っ人だ。見て分かったと思うが、すごい奴だが、コイツにおんぶにだっこで甘えすぎないよう、訓練はサボるんじゃねーぞ? のびてるこいつ等は暫くこのまま放って置け。良い刺激になっただろ。分かったら、自主練に戻るやつは戻る、休む奴はしっかり休む!」

「「「はいっ!」」」

 アレキスの言葉に、新人達が敬礼で答える。それから各自散っていく。河野君は最後までこちらを探る様な目で見てきたが、隣に居た兵士に話しかけられて二言三言話して去っていく。

「しかし派手に暴れたな」

「久々だったから、ちょっと楽しくて。それにしても、よく私だって分かったわね?」

「こんな事できるのが、マリネ以外にいる訳ねーだろうが」

 それもそうかと納得した。

 アレキスの手が、私のフードにかかる。しかし、動かない。

「ん? なんだこれ」

「脱げない様に、魔法で固定してる」

「魔法スゲーな」

「ちなみに、もしも落ちたとしても分からないようになってる」

 フードを外して、顔を晒す。しげしげと私を観察したアレキスは、肩を竦めた。

「見ている筈なのに、ちっとも頭の中に入らねぇ」

「闇魔法を応用した隠蔽魔法」

「ユリアが知ったら発狂しそうな新魔法また作ったのか」

「作ったつもりはないけれどね」

「……ユリアの前で言うなよ、泣くから」

 流石にいい歳して泣かないだろう。前回の召喚時は、私が新しい魔法をぽんぽん使いだしたら半泣きの顔をしていたが、あれから十五年経っているのだ。

「これだけやれば、正体バレないかなって」

「あぁ、大丈夫だろう。分かるのは、マリネがとんでもない奴だって知ってる人間くらいさ」

 アレキスの太鼓判も出たので、ひとまずほっとする。

 後は遠征までに、何か便利グッズでも作って置こうかな。



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