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第一話:二度目の召喚


 私は過去に、突如として異世界に召喚され、勇者として魔王討伐をさせられた。

 不満しかなかったし到底納得できるものではなかったが、倒さなければ元の世界に帰れないと言われ、私は渋々剣を握った。

 別に、元の世界に特別な思い入れはなかった。正直に言って人付き合いが苦手で、挨拶を交わす程度が片手の人数程居て、親友と呼べるほどは居ない。親も仕事人間で、一か月以上顔を合わせない事もザラだった。

 だが、拉致誘拐を自分達の為に行うような奴らが居る世界に居たくなかったし、それに、放っておけば次の被害者が呼ばれるだけだ。

 私のように居ても居なくても変わらないような人間とは違う、例えば私の片手で収まる挨拶を交わす相手筆頭のクラスメート、大友君が居なくなればクラスどころか、学校中がパニック間違いなしだ。

 彼は私のような面白みもない女相手に挨拶を欠かさずしてくれるし、その顔に浮かべた微笑は陽だまりのように温かい。いつも穏やかな彼の周りにはたくさんの友人が常にいて、その整った顔に魅了されるのは年齢も性別も超える、つまり歩く人間タラシである。


 不満しかなかった。なぜ私が、と思った。

 でも、死んだところで後腐れないだろう私は、都合がいいのかなと自嘲的な笑みが浮かんだ。



 人生で一度だって握った事もない剣は、ずっしりと重かった。命を奪う武器と考えれば、それでも随分な軽さだ。

 私を召喚した実行犯、ユリアーヌからは魔法を教わり、剣は他の兵士と混ざって軍団長アレキスから教わった。


 そして数多の苦難の末に、ようやく魔王をぶっ飛ばし、もう勇者召喚という名の拉致はやめろと国王もぶっ飛ばし、召喚の儀が記された魔法書を燃やし、帰還できたのが一年前。

 幸いにも時間の経過がなかったので、神隠しと騒がれることも、無断欠席を咎められることも無かったが、剣を振るい魔法を扱い魔王と戦った私の身体は筋力的に変貌していたが、野暮ったい制服さえ着ていればバレない。剣ダコや皮が何度も剥けて女の子らしさを失った手だけは誤魔化せないが、そこまで把握しているような人間関係は作っていなかった。

 ただ、戻ってきて最初の頃は、大友君の探る様な目線にたじろいだ事もあったが、彼は踏み込んでくるほど厚かましい人間でなかった。




「勇者マリネ、謹んでお詫びを――」

「詫びとか、そういう問題じゃないでしょう?」

 今、私の眼前には、端正な顔を歪め地面に額を付けて詫びる自称大賢者、ユリアーヌ・バルタネロが居る。


 彼は意気揚々と召喚したクラスメートの前で召喚と魔王の説明をはじめ、その途中で後方に居る私に気づいて、そのお綺麗な表情を可哀想な程に真っ青に染めた。

 魔王を倒した後に、城に戻って暴れまわった私に殴られた腹部の痛みを思い出したのか、腹を抑えながらその場を部下に任せて去る彼の後を、気配を消して追いかけ、そして今に至る。


 彼の長い、絹糸のような銀髪が毛足の長い赤い絨毯の上に広がる。

 私は彼の後頭部を見下ろしながら、傍の椅子に腰かけてため息を吐き出す。

 正直に言ってしまえば、怒りは振り切れてもはや呆れしかない。召喚の魔法書は全て焼却処分したというのに、よく今回の召喚が成功したものだと、むしろ拍手したい気分だ。

「ユリア、もう顔を上げて。そんな形だけの詫びより、今後の話をしましょう。こちらの世界と私達の世界では、時間の流れが違うのでしょう? 貴方の顔、お綺麗なのは変わりないけれど、前よりも老けてる」

「あれから、十五年が経った」

「……そう、十五年、ね」

 短いな、という言葉は済んでの所で飲み込んだ。


 前回の召喚で、私は魔王を討伐した。そして魔王の魔力を飲み込み、元の世界へ帰る力を手に入れた。

 しかしこの世界の魔王は、一度討伐したら終わりではない。また別の魔族が新たに魔王になり、そして人間と生存権を巡って争う。

 それは元の世界の戦争と変わらない。人間には人間の、魔族には魔族の理由があって、互いに争う。そこに他世界の人間を巻き込むな、と言いたい。


 魔王は、年月によってその魔力を強大化させる。

 十五年、それは前回の召喚時に私が調べた限りで、最短ではないだろうか。


「これから喋るのは、私の推測よ。できれば当たってない事を願うけれど」

 この世界の国王は、怠惰だ。自分達の問題を、他人に平気で擦り付ける。だから――。

「流石にいくら何でも、最初は自分達でやってみようかな、とは多少考えたでしょう。そうね……たぶん第二王子辺りが、お伴数人引き連れて旅立ったんじゃないかしら。あの女にできたなら俺もできるだろう、とか舐めた事言って。それで返り討ちにあって、這う這うの体で逃げ帰ってきて、親馬鹿な国王様は、私にぶっ飛ばされた痛みも忘れて、貴方に勇者召喚をやらせた……とか、そんな感じ」

「それは……」

「違う?」

「……お伴は、数人じゃなくて数十人連れて、だけ訂正しよう」

「余計に残念さが増すのね。どうせ血反吐吐くほども頑張らないで、剣も魔法の練習もしなかったんでしょ。私は貴方達にさせられたのに。帰るには魔王を倒さなきゃいけないって言われて、毎日剣振り回して、剣ダコできて、マメが潰れて手が血まみれになろうが……目から汗が流れようが」

 ユリアーヌの顔が、痛ましげに歪む。

 勝手に呼び出しておいて、同情するとは良いご身分だ。例え本人が望んだことではなくても、実行したなら同罪だ。私がこの男を許す事は無い。

「まぁいい、貴方達の怠惰さは知っていたから。それよりも、この後の事を考えましょう」

「この後、というのは」

「幸い、こちらに戻ってきて私の魔力は完全に戻ったようだから、生憎だけども、私のクラスメートは元の世界に戻させてもらう」



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