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第十七話:お説教



「どんなに強くなったって、思い通りにいかないものね」

「悟り開いてんなぁ」

 アレキスと共に紅茶を飲みながら、部屋の窓から訓練場を見下ろす。そこでは大友君と河野君が、他の兵士達と混ざって剣の鍛錬をしている。


 大友君の宣言から数日、彼が残るならば当然河野君と千羽さんも残り、結局誰も帰らなかった。しかも大友君は魔王討伐に本気になり、自らユリアーヌとアレキスに直談判して、他の兵士達と共に訓練がしたいと志願したらしい。勇者としてではなく、一人の人間として実力を磨きたいという事だった。

 王様は狂喜乱舞だったとアレキスが苦笑いで教えてくれたが、頭の中で両手を上げて走り回る王様の図が思い浮かんで離れなくなったので、聞きたくなかった。

 ユリアーヌは小野田さんの勘違いが進行する事を恐れて、最近はほとんど顔を合わせていない。

 小野田さんは千羽さんと一緒に今までと変わらず魔法の訓練をしているらしいが、時々意味深な笑みを浮かべて見てくるのが怖いとアレキスに愚痴っているそうだ。頑張れ色男。


「もっと小さい時、力があれば何でも解決できると思ってた。絵本の中のヒーローが、強くなって魔王を倒して世界は平和になりました、めでたしめでたしってなるのが当たり前だと思ってたけど、でも実際はそんな単純なものじゃないって分かった。人には人の、魔族には魔族の理由があって、それはどっちが正義とかそんな事で割り切れるものじゃない。この世に生まれたすべてに、家族が居て友人が居て大切な人が居て。その人数や気持ちに、優劣を付ける権利は力があるだけのヒーローにはないのよね。まして十八の小娘にそんな事できる訳がない」

「マリネは、割とすぐ落ち込むなぁ」

「私は一度、間違えているからね。前回の時、魔王と王様をぶっ飛ばして帰るべきでもなかった」

「結果論だろ。後悔ってのは、選択した人間しかできないものだが、それに捕らわれすぎるのも良くない」

 さらっと言われたアレキスの言葉に、喉の奥で唸るしかできない。確かに、一理ある。

「マリネは何でも自分の所為にし過ぎなんだよ。俺は今回の召喚、セフザロット王の暴走を止められなかった事、反省しているけど後悔はもうしてねーぜ?」

「いやそれもどうなの?」

「マリネにまた会えたからな」

 ぐっと、言おうとしていた言葉が喉に詰まる。おそらく変な顔になっているだろう私を見て、アレキスは口角を上げた。

「きっとユリアも同じだぜ? むしろ、アイツはマリネが召喚出来たらいいのに、なんて思ってたんじゃないか」

「……なによ、それ。私は、呼ばれたくなかったのに」

「悪いとは思ってる。でも、マリネも言ったように、マリネにはマリネの思いがあって、ユリアにはユリアの思いがある。俺はどっちの気持ちも分かるから、どっちが間違ってるだとか判断できねぇな。ま、悪いとは思ってるけどな!」

「酷いよ……そんなの……」


 もう一度こちらの世界に召喚されて、私の努力なんてまるでなんの意味もなかったと言わんばかりに、この世界は何一つ変わっていなかった。

 流した涙も血も、何の芽も育てていなかった。


 そう、思っていたのに。


「それにマリネ、後悔は早いぜ。なんたって、今はまだ途中じゃないか」

 そう言うと、アレキスはおやつとして持ってきていたクッキーをぽいっと口の中に放り込む。この男、見た目に反して中々の甘党だと初めて知った。

「……アレクといると、落ち込んでいるのが馬鹿らしくなってくるわ」

「俺の特技だ。良く言われるんだ、お前といると馬鹿が移るって」

「それきっと褒められてない。……でも、ありがと」

 アレキスのように、私はそう簡単に開き直れない。

 でも、前を向く元気だけは持てた気がする。

「そうよね、まだ、途中なのよね」

「おう、そうだぜ。とりあえず、まずは今度の遠征での魔獣討伐からだ。そこで魔族への偏見を、少しでも解消したいな。……ところでマリネ」

「なに?」

「勇者オオトモ達に、マリネの正体は話さないのか?」

 アレキスの問いに眉根を寄せて、窓から離れて椅子に座る。手に持っていたカップをソーサーに置いて、小さく息を吐く。

「話したら、じゃあさっさと魔王を倒して来い、と言われても困るし」

「勇者オオトモだったら、マリネの話を聞いて協力してくれそうな気がするけどな」

「確かに、大友君はそうかもしれないけど、河野君と千羽さんは納得しないと思う」

「それもそうか。あの二人は、オオトモの事になると見境なさそうだからなぁ。むしろ、今まで黙ってた事とかスゲー言われそうだな」

 その姿が想像できて、思わずげんなりしてしまう。それを見たアレキスに、口の中にクッキーを突っ込まれた。

「ま、でもいずれは話す事になるから、心の準備はしておけよ? それと、オオトモ達の訓練は一応過剰にならないよう気を付けてるつもりだ。どうせマリネの事だから、自分の所為でオオトモ達にいらぬ苦労をかけた、と気にするだろうから先に言っておくが、そう思うのはオオトモへの侮辱だからな」

 ぐうの音も出ないとはこの事か。頭の片隅で考えていたことを見抜かれた。

「あれは、オオトモが自分で考えて覚悟決めてやってる事だ。それを否定したり、不必要な事だったと考えるのはやめておけ。真実を知ってオオトモが怒ったら、謝ってそんで反省すればいい。マリネは相手の気持ちを難しく考えて、逆に怒られるタイプだな」

「……悪かったわね」

 拗ねる私の口に、またクッキーが押し付けられる。突っ込まれるままにクッキーを食べる。アレキスはそんな私を見て、満足そうに笑った。



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