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第十四話:炎上の運命



 私も帰るならば小野田さんの気が変わるかもしれないから、と言って再度説得に向かった大友君を見送る。おそらく無理だろうなと思ったが、それを言う程野暮でもない。


 大友君も、諦めきれないのだろう。

 もしもユリアーヌが本当は魔王討伐を望んでいたならば、恋心を持った小野田さんは鴨が葱を背負ってきているようなものだ。私には「そう酷い事にもならないだろう」と言ったが、あれは希望が多分に含まれていて、それは彼も理解している。

 本当は、そんな都合の良い事にはならないだろうと思っている。小林君がああなってしまった今、浅慮で行動をする危機感を彼も覚えたはずだ。

 あの言葉は、どちらかと言えば私を説得す為だったのだろう。もし小野田さんが帰らないと言ったら、私も帰らないと言い出すかもしれないと思って……。


 それにしても、ユリアーヌは任せろと言っていたけれど本当に大丈夫なのだろうか。

 ユリアーヌに、そういったイメージが全く湧かない。

 モテるかモテないかで言えば、確実に前者だろう。だが、彼はあまりにハードルが高すぎて、逆に異性として見られないようなそんな――。

「いやいや、三十にはなってる筈だし、私が首突っ込んでどうにかなる問題でもないし」

 むしろ恋愛経験値ゼロの私が首突っ込んで、炎上させる未来しか見えない。


 とりあえず、小野田さんが残ってしまうと私が帰還していない事に気付かれたら色々面倒くさい事になりそうなので、早めに解決して欲しいなと思った所で、部屋の扉がノックされる。

 返事をしながら扉を開ければ、ガチガチに緊張している兵士が王様が呼んでいると言うので、手早く出かける支度をして後を付いて行く。リアルに手と足の同じ側を動かして歩く人を初めてみた。

 可哀想だったので案内はなくても謁見の間には行ける事を伝えたら、今回案内するのは王様の私室だと言う。そういえばひっくり返ったんだったな、と思いだした。

 確かに私室は知らないし、私が勝手に行くわけにもいかないのだろう。少し距離を空けて、付いて行く。


 思っていたよりも客室から遠い場所にあった王様の私室に着くと、兵士は私は部屋に早々に押し込み、一目散に飛び出していった。そんなに私って怖いのかな、と思ったが、今までやってきた事を振り返れば当たり前かと思い直す。

 むしろ、平然と傍に寄ってくるユリアーヌやアレキスがおかしいのだ。

「来たか、勇者マリネ」

 数日ぶりに見たその顔は、随分とげっそりしている。

「呼び出しておいて、随分な挨拶ね」

「単刀直入に言おう。他の勇者、オオトモとコウノとセンバは帰還するそうだな。そして、オノダは魔王討伐の意思はないと聞いた」

「……それで?」

「そうなったら、誰も魔王を倒せる者がいなくなってしまうではないか!」

「そうね」

「そなた……人間を滅ぼそうというのか?」

「まさか。そんなつもりはないわ」

「ならば何故魔王討伐の邪魔をしたのだ! コバヤシ達の前に、魔族を名乗って現れたそうじゃないか。よもや、魔族に寝返ったのでは――」

 自然とこぼれたため息に、王様の肩が大げさに跳ね上がる。

「そんなつもりはないし、私、前回の時言ったわよね。魔族が魔物を生み出している訳じゃないから、魔王を討伐した所で人間に平穏が訪れる訳ではないと」

「確かに魔物に関してはそうなのかもしれない。しかし、魔族がいつ人間の領地に攻め込んでくるか、分からないではないか。魔族は人間よりも遥かに強力な魔力を有している。一度戦争になれば多くの人間の血が流れる事になる」

「だからやられる前にやれって? それも、異世界人の力でもって? ――ムシが良すぎるだろーが」

 胸の内で暴れる感情を、ぐっと飲み下す。それでも目に現れてしまったのか、目線のぶつかった王様は喉奥で小さな悲鳴をあげた。

「誰も傷つけたくないという考えはご立派だけど、建前で自分の本音を覆うのをやめて」

「わ、たしは……」

「今日はもう帰る。この話はまた今度、他に人の居るところでしましょう」

 返事を待たずに、踵を返す。

 これ以上話していたら、イライラで本当にどうにかなってしまいそうだった。


 足音荒く部屋を出てきた私を見て、扉の外で待機していた兵士の二人組が飛びあがる。それからおずおずと客室に案内するというので、道は分かるからいいと断った。

 戻りながら、腹の内をグルグルと暴れまわる凶暴な感情を抑え込む。

 どうしてこの国の王様に、私はこんな嫌悪感を覚えるのだろうと思ったが、今回の一件で少しわかった。

 同族嫌悪だ。

 人の為と言いながら、実際は自分の為でしかない。

 自分の認識している嫌な所を見せつけられて、腹が立っている。


「マリネ!」

 聞き覚えるのある声に、立ち止まって振り返る。綺麗な銀糸を乱しながら、ユリアーヌが駆けよってきた。

「マリネが、あの人に呼び出されたと聞いて慌てて来たんだが、話は」

「もう終わった、というか終わらせた。長時間あの人と二人で話なんて、私には到底無理だと学習したわ」

「……すまない、マリネ」

「なんでユリアが謝るのよ」

「あれでも、私の父だから」

「親の尻拭いを子供がするのなんて看護だけよ。まだあの人が王様である限りは、ユリアが謝るなんて高慢――ッ」

 ユリアの顔を見て、口をつぐむ。それから頭を下げた。

「八つ当たりだったわ。ごめんなさい」

「いや、その原因もあの人だろう」

「これは、私が未熟だからよ。……精神力も鍛えられたら良かったのに」

 不意に、白い指が私の頬を撫ぜた。何事かとユリアーヌを見上げる。

「何?」

「マリネが、泣いているのかと思って」

「そう簡単に泣かないわよ!」

 手を振り払おうとした所で、どさりと何かが落ちる音が聞こえた。音の方向に、私とユリアーヌの視線が動く。

 そこにはこちらを指さし目を見張る、小野田さんが立っていた。


 あぁ、やっぱり私は炎上させる運命らしい。



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