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第十二話:三人寄れば




「俺を除け者にするなんて、そんな酷い事マリネはやらないよなぁ?」

 ユリアーヌと肩を組みながら、満面の笑みを浮かべるアレキス。ユリアーヌの引きつったような笑みで、全てを悟った。



 あの後、行きとは違う人数が帰ってきた王城は、上を下への大騒ぎに陥った。

 大友君達から何があったのかを聞いた王様は、悪鬼羅刹に出会ったかのように顔色を真っ青に染め上げ、そのまま泡を吹いて倒れたそうだ。

 その場に居合わせたアレキスが王様を寝室に放り込んで、そうして私の部屋にやってきたのだが、諸事情で普段は掛けない鍵をかけていた為アレキスが大騒ぎし、気付いたユリアーヌがフォローの為に部屋を出た。

 そして暫く後に帰ってきたと思ったら、仲良さそうに肩を組んでいる。もちろん、一方的なのはユリアーヌの表情が語っているが。


 開けた窓から、慌ただしく兵達が駆けまわっている音が聞こえてくる。

 大友君達は、各々の部屋に引きこもっているようだ。王様は、未だに目覚めていないらしい。

「マリネは、人間と魔族の共存を目指しているんだよな?」

 アレキスの言葉に、コクンと頷く。

「なるほど、そりゃいくらマリネだって、一人じゃ難しいだろうな」

「……どうせ私は武力しか取柄がないから」

「あぁ、いやいや、そういう意味じゃねーよ。俺だけでも、ユリアだけでも無理だろうって事だ。一人で成せる問題じゃねぇけど、三人寄れば文殊の知恵って言うだろ?」

 この世界の言語は、日本語とはもちろん違っているが、転移特典なのか言葉も文章も読める。瞬時に意味が脳内で変換されているのか、何とも不思議だ。

 そして、こちらにも文殊の知恵のような意味の言葉があるのかと、変な所に反応してしまう。

「なら、今の流れは、そう悪くねぇかもしれねぇぞ」

「えっ?」

「おそらく、セフザロット王は今回の騒動を勘違いしている。勇者達と同じようにな。今回ひっくり返ったのは、おそらくマリネがキレると思ったからだ」

 悪鬼羅刹は私だったようだ。

「だから、いっそそう思わせておいて、クーデターでも起こしちまえば?」

「圧倒的脳筋思考!」

「結果だけじゃなくて、マリネは過程も気にしていると、私は言わなかったか……」

 アレキスの隣に座るユリアーヌが、頭を抱える。

「じゃあ、お前は何か考えがあるのか?」

「私は……とりあえず、国民に魔物の真実を知ってもらう事、だろうか」

「魔物の真実?」

「前回、マリネが言っていただろう……魔物は、魔族が生み出している訳ではなない、という事だ」

「あぁ、そう言えばあれから十五年経っても、全く広まっていないみたいね」

 私がそう言うと、ユリアーヌが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、アレキスは肩を竦めた。

「セフザロット王は、特別発表しなかったからな。王都の学校で使う教科書は修正したようだが、一文を削除したぐらいで大々的な訂正でもないから読み比べなきゃ気付かない」

「……どうして?」

「今更、魔物は魔力溜まりから自然発生する生物で、魔族は関係ないと言っても、魔族と人間の関係が変わるわけがないから……とは言っていたが、本当の所は、あの人は魔族を滅ぼしたいんだ」

 ユリアーヌの言葉に、感じてはいたが確信が持てなかった事がハッキリする。だが、どうして王様が魔族根絶を狙うのかが、私には分からない。


 魔族たちは、魔界と呼ばれる空気中の魔力濃度が高い地域に暮らしており、王国の土地を狙って大きく進行してきた事はない。何故なら、魔族は空気中の魔力濃度が一定の数値に到達していないと、身体能力が低下してしまうのだ。

 だから魔族達が、人間の暮らす土地を奪ってやろうと攻めてくる理由は無い。攻めてきたとしたら、それは純粋に人間の殺戮が目的だ。

 だがその様な争いは、書庫の本が正しければここ数百年起きていない。


「これは王族に伝わっている話だけれども、元々人間と魔族は同じ生物だったんだ」

「……その同じだった頃から、進化先が枝分かれして、人間と魔族になった?」

「そう。おそらく、魔界のような魔力の濃い所と、王都のような薄い所とで暮らしていたことによって、身体が環境に適用しようと変化したのだろう。だから、人間も魔族も、元は一つだった。そしてこの国に取って、全土統一は初代国王の頃からの悲願なんだ」

「何となく事情は飲み込めてきたけれど、逆に困難さを増した気がするのは私だけ?」

「マリネ、安心しろ。俺もだ」

「たださっきも言ったように、これはあくまで王家にだけ伝わっているから、国民達はそこまでの思いは無い。それよりも、日々暮らしていく中で魔物に襲われる恐怖感の方が大きいと思う」

「魔物は魔族がけしかけていると思っているから、魔族を倒したいと思って居るけど、魔族を倒した所で魔物が減る訳じゃない、むしろ魔界から溢れた魔獣が襲ってくる危険が高まる、という事を周知徹底する、って事ね」

「マリネ、俺の理解力が追いついていないから置いて行かないでくれ」

「簡単に言えば、ユリアの言う事には一理あるわって事。でも、どうやって?」

「アレク、今度魔獣狩りの遠征に行く予定があっただろう?」

「あぁ」

「そこで喧伝すればいい」

「でも、王様が文句言ってきそうな気がするけど?」

「そこでマリネだ。前回の時に、あの人はマリネの訴えを無視にしているからね、君には大きく出れない筈だ。何より、父上はマリネが怖い」

「……どうせ悪鬼羅刹ですよ」

「マリネ、それこそ君が手に入れた“力”だよ。この国の王様だって、君に逆らえないぐらいの、力。君にその力があるから、できる事だ」

 何か言おうとして、言葉が出て来なくて唇をかむ。ユリアーヌはそんな私を見て、目元を和らげた。

「マリネ、君は自身を過小評価し過ぎている。アレクはこれでも、剣術はこの国一番だし、こんな癖して部下にも慕われている」

「ユリア君? 言葉の端々におじさんは棘を感じるぞ?」

「そんな男も、君に一目を置いている。アレクは信じられないか?」

「……そんな言い方、ズルイ」

 否定できるなら、この場にアレキスは居ない。それが分かっていてユリアーヌは言うのだから、意地が悪い。

 唇を尖らせる私を見て、ユリアーヌとアレキスは視線を合わせて、それからニヤリとでも表現したくなるような笑みを浮かべた。



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