プロローグ
何の変哲もないホームルームが終わり、帰ろうと席を立つ。
教師が去った後の教室は一斉に騒々しさを取り戻し、部活が待ち遠しかった生徒は足音も軽く教室後方のロッカーに飛びつく。早いものはすでに教室を飛び出している。
いつも通りの日常だった。そして異変はいつも、唐突に起きる。
机の横に引っ掛けてあるカバンを取ろうとした刹那、教室全体が白色の光に包まれた。足元に浮かびあがる幾何学模様に内心舌打ちする。その見覚えのあるマークが何を意味するのか、教室内で知っているのは私くらいだろう。
反射的に身体に力を巡らせようとして、“こちらの世界”では無意味だったことを思い出し、廊下へと視線を移すがすでに扉は消失していた。
誰かが思い出したように叫びだす。止まっていた時が動き始め、さざ波のように困惑と意味不明の事態への恐怖が電波する。
腰を下ろすための椅子も、いつの間にか姿を消していた。カバンを引っ掛けていた机も、カバンごと消失している。まぁ、たとえカバンを掴んでいたところで、こちらの世界の物をあちらに持ち込むのは難しかっただろうが。
身体に覚えのある力が漲ってくるのを感じながら、自然とグループごとの塊ができあがるクラスメートを見て後方へと移動する。
いつの間に力を込めていたのか、握りしめていた拳が震えていた。
光が収まった後、目の前に広がるのはまるでヨーロッパの城を思い起こさせるような、ロココ調の柱が立ち並ぶ大広間。
クラスの正面、教卓があった位置に立つのは、腹の立つほど穏やかな笑みを浮かべた、以前よりわずかに歳を取った自称大賢者ユリアーヌ・バルタネロ。
――あぁ、やっぱりか。
混乱に騒めくクラスメートの後方で、私はひっそりとため息を吐き出した。
どうやら、私は再度召喚されてしまったようだ。
怠惰なクソ野郎どもの世界に。