徹底的に……
化身顕現、オーバーソウル。
仰々しく言っているがそんな大それたモノではない。
ただ単に、オレの魂に刻まれているオレをオレの身体にしただけ。
元に戻したって言った方が良いのか?別段魔力の消費が多いとかは無いからな。
あぁ、でもこの染み渡る様な高揚感?全能感?は、オレのモノだ。
久しぶりの全身を変えたが……腹減って来たな。目の前の糞共を喰ってしまいたくなる。腹を壊しそうだ。
まぁ、それは先ず無いからな~。前世なら身体を作り替えていたから身体は常にキレイで新品、オレに劣化というモノがないから人王と天族の女王にこの事を言ったら荒れ狂っていたな……。荒れ狂っていたが、アイツらもあまり劣化というモノが無かったと思う。
今は、スキルがあるから起こり得ないが…。
──ん?糞共がオレを見て固まってるな。
あぁ、称号の『化身竜王』の解放とスキル『竜王の威圧』に当てられて動けんのか……。
動かんのなら丁度良い。化身変化の応用技がちゃんと使えるか試すとするか。
化身変化、棘鋼竜ニルドレア。化身場所・背中!
棘鋼竜ニルドレア。
オレ、メタリファスに付き従った属性竜軍団の一つ〈鋼〉の将軍であり、〈鋼〉の二つ名を持つことを許された竜。
コイツは、翼を持たないため空を飛ぶことが出来ない代わりに全身に鋼の棘を持った竜だ。全身鋼の癖に物凄く軟らかく硬いのも特徴で棘が折れても液状化して元に戻したり違う形にしていたから、第二のオレとも言われていた。本人は、繊細な性格だったから肩身が狭かったかもしれない。
ニルドレアの棘を背中に生やし、すぐに棘を液状化させ攻撃してきた糞共を一人残さず刺し貫いて逃がさない様にしておく。急所は刺していないからまだ誰も死んでいない。
「ま、待って…ぐれ!…オレは……雇われた……うっ……だ、だけだ……。弟の奴を王にぃっ……!させるからって!あ、あの神官の、爺に……!だ、だから……命、だけは……!」
何にも訊いていないのにハンマー野郎が色々とゲロってやがる。自分の命が危なくなったからすぐに手の平を返したな。
……ってかやっぱりあのクソジジイ、黒だったか。弟ってのは父親の弟という意味か?会った事無いから判断出来ない。
「あの碌でなしの弟を王にするために?どう考えても傀儡の王じゃない……」
あっ、王妃が反応しているから本当なんだ、今の話。
「た、たのむ……いの…がああああぁぁ!?」
化身変化、炎身竜アグニーラ。化身場所、背中の棘。
炎身竜アグニーラ。
属性竜軍団、〈炎〉の将軍で、身体の八割ぐらいが炎で出来た竜だ。物理的な攻撃は全て外れる、何故なら当たった瞬間に体が炎になって散ってしまうからだ。例え弱点でもある水を食らっても直ぐ様蒸発するから相手はどんどん水の量を増やしていく。そして最後は爆発するんだよな。タチが悪いことに爆発しても、顔、手足、尻尾、翼、炎ではない所が残っていたらソコから再生するという倒すのがクソメンドイ竜だ。倒したいなら海に叩き落とすか、体全てを巻き込む魔法による攻撃を何発も撃ち込む必要がある。
常に炎を出しているが、燃やす燃やさないを選べるご都合主義な炎だ。──だが、熱いのは変わらないので密集している場所には行かせないし近付かさせない。その時のアグニーラの哀しげな顔が頭の中に浮かぶ。
糞共の体に刺さって体内にある部分を炎に変えて中から想いっきりの火力で燃やす。アグニーラの炎は、燃やす燃やさないだけでなく、対象が塵に成るまで炎を留めることもできる。
留まる力は、呪属性が含まれてるから聖属性と水属性を併せた魔法による解呪と消火をしなければ、本当に塵に成るまで消えない。
糞共を燃やした後、母さんと王妃、キヨメさんと今後の事を話し合い、母さんを乗せて王城に乗り込み、王─父親と王妃の残った子供─双子の姉弟を捜しに行き、生死を確認したらすぐに連れて逃げることになった。
「もし、あの子たちが…その……」
「わかっています。エルは、無事であることを祈っていて下さい。キヨメ、分かっていますね」
「はい、ワタシの幻術と結界で必ず御守りします」
今から行うことの確認と子供の安否。一緒に行きたそうだったが、キヨメさんは、防御専門で攻撃が苦手なため確実に相手を倒すために王妃にも残ってもらうことになった。
「では、行きます。リュート、お願い!」
その言葉に短く、ガウッと鳴き返し王城に一直線で突撃する様に翼を広げて空を飛ぶ。
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───王城・王の間
豪華な飾りと神秘的な造りの王の間に大人三人と似た顔の子供二人の計五人が閉じ籠っていた。
「ハァ……ハァ……クソッ!まさか叛逆されるなんてな……誰主導だ?……いや、あの二人か?……あり得るな」
弟はなんとなく分かるアイツは、自尊心と野心の塊だったからだ。王の座欲しさに事に及んだのだろう。
神官の爺、コイツも候補に入るのは理由がある。コイツらの宗教の神殿造りに金をあまり出さなかったからだろう。俺は、その宗教の神─唯一神を認めていないからだ。俺が縋るのは自分の力と嫁と決めているからだ。
「……お父様……」
「……父上……」
先ほど、王の間に閉じ籠る前に自分とエルティアの子供である双子──姉のウルティアと弟のウルヴァンを庇い右肩に攻撃を受けてしまった。
直ぐに子供を抱え王の間に入って、扉と周辺の壁に鋼属性と聖属性を併せた結界魔法を全力全開で発動させてなんとか生き延びている状態だ。
一緒にいるもう二人は、自分の側仕えの騎士と双子のお世話係で自分より歳が十は上の侍女。
結界魔法が壊されて敵が入って来たら全員殺されるだろう。……いや、自分は国民の前で処刑される可能性があるかもしれない。子供だけでも逃したいが出口は一つしかないから出来ない。
家族と側近にだけ見せるだらけた雰囲気は鳴りを潜め、培った知識を振り絞ってこの状況を打開する策を探す。
双子は必死な顔で考える父親をじっと見つめ、騎士と侍女は死しても仕える御方を守る覚悟をした時、出入口の扉と壁に張った結界に罅が入り直ぐに壊され、叛逆者が押し寄せる。
「ルークス・フォン・アスティラ王よ、貴方の王政はこれで終わりだ」
そう言って出てきたのは自身の弟─ロクスだった。
「ハァ……やっぱりお前か……こんな下らない事をしやがったのは…」
「クックック、今の状況ではそれは負け犬の遠吠えにしか聞こえんな?あぁ、そうだ貴方に味方する者はもう居ませんよ、貴方の他の子供と王妃は雇った者に今頃は殺されているでしょうね」
それを聞いた瞬間、殴り殺したい衝動に駆られるがその衝動をなんとか抑え込み、状況を打開する策を考えるが……。
「長引かせるのは愚策。今、この場で引導を……」
手を挙げ攻撃の準備をさせて命令を下そうとした瞬間、玉座の後ろの壁が勢いよく壊され白銀の竜とその頭に乗る黒装束の者が乱入してきた。
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王城に向かいながら気配探査で探り人の多い場所を見つけ、母さんに合図しそのまま壁面に突貫する。頭は一応ニルドレアの鋼にしてある。
壁面をぶっ壊して中を見ると玉座付近の五人を囲う兵士たち。
五人を見た瞬間に母さんから「玉座付近の五人を掴んで」っと言われ直ぐに腕を蛇の胴の様に化身変化して五人を潰さない様に掴む。まわりの奴らには、スキルと称号の解放を全力で叩きつけ恐怖でその場に縫い付ける。
色んな汁が垂れ流しになるが知ったことか。
頭に乗っている黒装束─母さんがその隙を逃さず、状態異常を引き起こす煙幕──闇属性魔法のダークネス・スモークを発動させて壁とか飾りを壊しながら王城を蹴って西の方へ向かって飛び去る。
掴んだ五人の確認をしながらヒカリたちが居る場所まで行くが目立つから途中から魔王から取った幻魔法や光属性魔法で姿を隠しながらの徹底振りで向かった。