スペース・オペラは始まらない!!
書いてみたかった悪役令嬢話。ファンタジーというよりSF?
(あ、これ乙女ゲームの世界だ・・・)
私、ライラ・ブラックは医務室の天井を見上げながら思い出した。この世界が恋愛&シューティングゲーム『恋するスペース・オペラ』であることを。そして、自分が死亡エンドの悪役令嬢である事も。
舞台は宇宙歴2017年。宇宙への進出を果たした人類は地球連合軍を中心に、更なる銀河開発を進めていた。軍の取引先の令嬢であるライラは親のコネで入隊。ヒロインと同じ部隊に配属される。数々の苦難を実力と機転で解決し、活躍するヒロイン。ヒロインに好意を抱いていく攻略対象達。ライラは嫉妬をつのらせていく。
そしてあるデブリでの任務中、ライラはヒロインを事故に見せかけて殺そうとする。具体的には、デブリにビームを打つフリをしてヒロインの機体を銃撃するんだよね。そこに颯爽と現れたルートの攻略対象がシールドでガード。打ち返されたビームで機体爆発・・・。その映像がバッチリ残っていて、当たり前だけど攻略対象は無罪。悪役令嬢は退場する。
そんな死に方、絶対嫌だ!!!
爆死だよ?爆死!四肢四散するよ?いや、そういう問題ではないけど、爆死する悪役令嬢ってなかなかいないよね!?
「恋愛&シューティング」の名の通り、恋愛ゲーム要素とシューティングゲーム要素があって、恋愛は会話の選択肢・シューティングは『O-ship』という機体に乗ってミッションを遂行するゲームだった。ライラはO-shipのパイロットになりたくて入隊したんだっけ。つまり、O-shipのパイロットにならなければ良いのでは?
「ライラ・ブラックさん。目が覚めましたか?」
カーテンの向こうから声がかけられた。
「はい!」
シャッとカーテンが開けられ、1人の女性がこちらをのぞいている。
「試験官のライトです。筆記試験の後、倒れたのは覚えていますか?」
「あ、えっと、そうなんですね。ご迷惑おかけして申し訳ありません」
「いいえ。緊張の糸が途切れて倒れる人って、何年かに一人いるのよ」
・・・緊張でライラが倒れるだろうか。
「この後、O-shipの試験だけど、受けられるかしら」
「はい、体調は・・・」
待てよ。これはチャンスではないか?O-shipのパイロットにならなければ、爆死エンドは免れるのでは?私はライラと違ってO-shipへの憧れは無い。すごく良いアイディアではないだろうか。
「体調は・・・ダメかもしれません」
「そう。残念ね。O-shipのパイロットを目指していたんでしょ」
「はい。でも、緊張で倒れるようではパイロットとして、どうだろうという思いもありますし、持病だったらと思うと・・・」
「確かに、体力勝負ですからね」
ごめんなさい。ライラは体力馬鹿です。健康体です。だから任務に耐えられたんだろうな・・・。馬鹿なのに。そうか、筆記試験の知恵熱で倒れたんだ。きっと。
「では、入隊試験は筆記試験のみが評価されます。本日は帰って結構ですよ。お大事にね」
「はい。ありがとうございます」
優しい試験官さん。更にごめんなさい。ライラは馬鹿です。きっと、筆記試験の結果は悲惨です。入隊できないと思います。
さよなら、私のスペース・オペラ。こんにちは、お嬢様生活!!
だと思っていました。
きっと、筆記試験の結果は悲惨だったと思います。ごめんなさい。謝ってばかりですが、本当にごめんなさい。親が圧をかけて入隊させてくれました。何が「転属試験もあるから、ライラちゃんなら大丈夫」なんでしょう。転属したくありません。事務職バンザイ!!
入隊後1週間の研修中は、とにかく人にかかわらず過ごした。ボッチですよ。後ろ指さされているボッチですよ。きっと「あれが裏口入隊の・・・」とか言われているんです。本当だから否定できない。更に、宿舎は個室でした。かなりグレードアップされた・・・。気楽でイイヨネ。一人は大好きだよ。勉強の遅れも取り戻せるしね。ライラは参考書を買って満足するタイプだったらしく、量だけはあったので助かった。あ、ヒロインや同期の攻略対象は遠目に見ました。流石の美形でした。
そして配属先は兵站部でした。癒着ですね。ありがとうございます。取引先の企業が実家です。ブラック株式会社・・・ブラック企業か笑えない。きっと押し付けられたんだろうな・・・。とにかく、私は真面目に働きます。
最初は使い走りのような業務です。こんなに電子化されていても事務用品って必要なんですね。「〇〇課に届けて、サイン貰って来て~」が大半です。ただ、量が多いし、基地が広くて届けるのが大変です。まあ、無重力だから重くはないんですけどね。は!まさか、これがお嬢様待遇?簡単な仕事だけやらせておく・・・みたいな!!
無重力は楽しいです。こんな感覚(ライラは経験あるけど)私は初めてですから。感覚は体が覚えていたので、無様な事にはなりませんでした。良かった。荷物を抱えながら無重力スキップを楽しんでいると、後ろからクスクス笑う声が・・・。
「ごめん。楽しそうに荷物を運んでいるなって思ったから・・・」
見られていた。恥ずかしいと振り返ったソコには・・・攻略対象様が!えー!!マジか。ここ、君達の部署より遠いよね?まあ、絶対に会わないのは無理か。さりげなくしないと・・・。
「す、すみません。真面目に運びます」
「あ、違うんだ。本当に楽しそうだなって思っただけ。無重力好きなの?」
「はい」
会話終了!さあ、去れ!!
「ねえ、同期入隊のブラックさんだよね」
「あ、はい」
流石、爽やか攻略対象。私を知っていたか。
「俺、調査部のアルフレッド・ジーン。ヨロシク」
「はい。よろしくお願いします」
「ブラックさんって、あんまり同期と話してないよね」
攻略対象に関わりたくなかったんだよ。誰かと仲良くなりたかったよ。
「人が、に、苦手で・・・」
「そうなんだ。でも、同期同士仲良くした方が良いと思うんだ」
分かります。でも、関わりたくないんです!こうなったら伝家の宝刀!!
「わ、私、親の口利きだから・・・みなさん、実力だから嫌だろうなって」
これでどうだ。声がかけにくくなったろう。
「ふふ。そんな噂気にしていたの?研修だって一生懸命受けていたじゃないか」
「・・・口利きだから、人より頑張らないと」
「だから、噂なんて気にする必要ないよ。そうだ。調査部の連中は気にしてないよ。今度、一緒にランチでもどう?」
「えっと」
爆死エンドは回避したと思うけど、攻略対象には近づかない方が良いよね。ここで断れる人になるんだ自分。私はNOが言えた元・日本人。
「決定!明日、昼休みに迎えに行くから。じゃあまた」
「え?あの!私・・・」
アルフレッドは無重力の中を爽やかに去って行った。強引だな攻略対象。
あぁ、五月病で明日は休んでしまいたい・・・。
Side アルフレッド
ライラ・ブラックは同期の中でちょっとした有名人だ。軍と取引のある大手企業のお嬢様。筆記試験の後に倒れた黒髪の美少女。そんな彼女を妬んだ「裏口入隊」「親の口利き」なんて噂話があるけど、研修中の真剣な様子を見ていれば嘘だって誰でも分かると思う。
これは同期入隊のカレン・ブランシュとレオナルド・アオキも同意見だ。カレンとレオはO-ship試験のときに、偶然セルを組んだ仲で、なんとなく一緒にいるようになった。カレンは活発さと利発さが顔に現れている、明るい栗色の髪の美少女だ。レオは見ためはクールだが、冗談が好きな良いやつだ。入隊してすぐに、こういう友人ができたことに感謝している。更に、配属先も一緒で良かった。
先輩からの指示で人事部に書類を届けに行く途中、楽しそうに荷物を運ぶ後ろ姿を発見した。噂のライラ・ブラック。彼女が跳ねる度に、黒のポニーテールが無重力のなかでたなびく。思わず、声を出して笑ってしまったら彼女が振り向いた。
「ごめん。楽しそうに荷物を運んでいるなって思ったから・・・」
「す、すみません。真面目に運びます」
「あ、違うんだ。本当に楽しそうだなって思っただけ。無重力好きなの?」
「はい」
口数がすくない。緊張しているのかな?それとも元から?
「ねえ、同期入隊のブラックさんだよね」
「あ、はい」
「俺、調査部のアルフレッド・ジーン。ヨロシク」
「はい。よろしくお願いします」
「ブラックさんって、あんまり同期と話してないよね」
研修中はほとんど一人で受講していた気がする。
「人が、に、苦手で・・・」
「そうなんだ。でも、同期同士仲良くした方が良いと思うんだ」
「わ、私、親の口利きだから・・・みなさん、実力だから嫌だろうなって」
そんな噂を彼女が気にしていたなんて!味方がいるって教えてあげなきゃ・・・。
「ふふ。そんな噂気にしていたの?研修だって一生懸命受けていたじゃないか」
「・・・口利きだから、人より頑張らないと」
「だから、噂なんて気にする必要ないよ。そうだ。調査部の連中は気にしてないよ。今度、一緒にランチでもどう?」
「えっと」
彼女は迷っているようだった。ここは押しておこう!
「決定!明日、昼休みに迎えに行くから。じゃあまた」
明日、彼女を迎えに行こう。俺の友人たちと一緒に。噂話なんて気にするなって。
ここから始まるスペース・オペラ・・・?