覚醒
それからは力を試す日々だった。
人里をさけ、ただひたすらになにが出来るのか手当たり次第に試した。
まずは食事のための狩り。
獲物がどこにいるのか、それを探す"力"を得た。
近づくと逃げられた、気付かれない"力"を得た。
弓で飛んでいる鳥を狩ろうとした、狙いが外れない"力"を得た。
得意としていた弓術の頂点を知った。あれだけ一生懸命狩猟で鍛えた力が、こうも簡単に塗り替えられることに少しため息が出た。
次はモンスターとの戦闘。
どんなステイタスや能力を持っているのか気になった、それを見る"力"を得た。
何をもって行動しているのか知りたくなった、考えを読み取る"力"を得た。
友好的になれないものかと考えた、従属させる"力"を得た。
だんだんと仲間が増え行動がし辛くなった、異次元を作りだしモンスターを自由に召喚&帰還をさせる"力"を得た。
魔法の使い方も調べる。
今覚えている魔法は治癒と時空と精神魔法、だから他に何があるのか試した。火・水・土・風・雷・聖・闇魔法を覚えた。
魔法のレベルの違いを試してみた。F級火魔法 《ファイア》 を発動すると小さな火の玉が出現した。
次にC級火魔法 《ファイアトルネード》 を発動すると、辺り一面が火の海になった。僕は慌てて時空魔法 《リストラクション》を発動し、なかったことにした。
最後にG級火魔法 《カタストロフィ》 を試す。さすがに地上で放つのは危険そうだったので、異次元を作りその中で発動した。……世界が燃えた。
魔法を試す間巻き添えをくらわせぬよう、どんな攻撃でも死なずに堪えさせる"力"を得た。
ステイタスが自身に与える影響が気になった。
ステイタスは体力・魔力・力・耐久・敏捷・精神があった。魔力はすでにあげていたので他のを上げてみる。
体力を上げる。すると、短剣を体に刺したままでも痛みを感じず問題なく動けるようになった。
力を上げる。すると、空に放った矢があっという間に見えなくなり落ちなくなった。
耐久を上げる。すると、短剣が体に刺さらなくなった。
敏捷を上げる。すると、数歩踏み出すだけで森を通り抜けた。
精神を上げる。すると、《ファイア》 が数メートルの火の玉に変わった。
このままでは地上で生きていけないので、思った通りに能力をコントロールする"力"を得た。
初めて見た海という存在。その広大さに感動し、その中で過ごせないかと考えた、海で生きる"力"を得た。
多種多様な生物がいた。彼らの生態に興味が湧いた、自身を自在に変化させる"力"を得た。
――――思うがままに行動し、そのすべてが実現した。
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アジュールが村を出てから6年、時間はあっという間に過ぎた。
当時150cmほどだった身長は180cmを超え、全身が無駄のない筋肉で引き締まっている。髪は白いショートヘア、瞳の色は青、人を魅了する色気を有した整った顔立ちをしている。
一方、身に着けているものはその中身に比べてあまりにも貧相だった。衣類は一般の農村民が着ているような布の服。ロングボウを肩にかけ、腰にはありふれたブロンズナイフ。
そのアンバランスさは、アジュールがそもそも村民だったこと、そしてこの6年間人里を避け研鑽に明け暮れていたことに起因する。
要するに、これ以外の恰好をしたことがなかったから、装備を整えるということが思い浮かばなかったのだ。
そんな彼は今とある火山を登っていた。
〔ローグ火山〕
バルザード大陸の南東にある山々の中でも一際大きいこの火山は、古来より龍が住む山として人々から畏怖と信仰を集めている。
ここから最も近い王国セレスティア王国では、100年に一度生贄となる巫女を奉納し王国の繁栄を祈る風習があり、14年前にも当時の第三王女ミストレスが生贄に捧げられていた。
だがアジュールはそれを知っているわけではない。彼は龍の気配をこの山から感じ、ぜひともに過ごしてみたいと考えここを訪れていた。
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「ははっ、すごいな。これが火山か!あたり一面を覆う熱気、すべてを焼き尽くすようなマグマ、それをものともしないモンスターたち!」
この環境に適応するためにこのモンスターたちはどんな成長を遂げたのか。う~ん興味深い。ドラゴンに挨拶を終えたら、こいつらに話を聞いてみるか。
俺がここに来た理由、それは、ドラゴンという永遠を生きる種族の考え、その叡智を学びたいと思ったからだ。6年間の旅の終わりにドラゴンに会いに行くことは道中からずっと決めていた。
その圧倒的な力をなんのために使ってきたのか、その考えは俺の今後の方針を大きく決定する予感があった。
……そんなことを考えながら歩いていると、空から全身が赤い鱗に覆われている2体のドラゴンがやってきた。
『愚かな人間よ。此の地は炎龍王イフリート様が支配する領域である。今すぐ立ち去れ。さすれば命までは奪わん。』
炎龍王イフリート。なるほど、この地から感じる強い力はおそらくそいつのことだ。ある程度の実力者とは思っていたが、王の一角に出会えるとは! 幸先がいいな。
「俺の名はアジュールという。古代より生きる貴殿らドラゴンの叡智を学びにやってきた。ぜひ、炎龍王殿に合わせて頂きたい。」
俺は姿勢を整え、彼らに問う。しかし、どうも反応が悪い。
『人間風情が!我らの警告を無視し、あまつさえ王への謁見を望むとは! その報い、死をもって償え!』
2体のドラゴンは全身から俺への殺気をだす。その殺気に周りのモンスターたちは一斉に逃げていく。
『『炎龍の息吹』』
高熱の炎が俺を襲う。しかしそれは防がれる。
火山に入る際に唱えた水魔法 《アクア・ヴェール》 、本来は熱気への耐性を付与する魔法だが、アジュールほどの術者が使用すればあらゆる熱を遮断する鉄壁の防御壁となる。
『少しはやるようだ。ならば最大火力で一瞬で消し炭にしてやろう』
先ほどよりも込められている魔力が強くなっている。だがそれでも俺には届かない。
「やめておけ、お前たちでは俺には勝てない。そして、俺はお前たちを害するつもりはない。王へ合わせてもらえないか。」
自分たちの全力のブレスを受けても涼しげな顔を崩さないアジュールに、ドラゴンたちの怒りさらに強くする。
『我らを愚弄するか!どこまでも図に乗ったその態度、万死に値する!』
彼らは互いの魔力を共鳴させ一つの魔法を唱える、A級火魔法 《メテオ》 を。
天より巨大な隕石がアジュールへ降り注ぐ。街一つ容易に滅ぼすその魔法はアジュールを跡形もなく消し飛ばす。彼らはそう確信していた。
「しまった。」
俺は自身の失態に気付く。 《メテオ》 を使えるとなると、こいつらはただの先兵ではなく側近レベルの可能性が高いな。もう少し自尊心を刺激しない態度をすべきだったか?これから友として過ごそうというのにいきなり大失態だ。
この 《メテオ》 はこのまま何もしなくても問題ないが、こちらも同程度の魔法で打ち消したことにしたほうがいいか。
ならば――
「《氷結界》」
A級水魔法 《氷結界》 。自身の周りを氷の結界で覆い、その中に侵入したもの全てを凍らせる。落ちてくる隕石はあっけなく凍り、アジュールに触れることなく崩れ落ちた。
『1人でA級水魔法を唱えるだと!? ただの人間がこんなことできるはずがない! お前は一体!?』
動揺が広がるドラゴンたち。アジュールが彼らに話しかけようとしたとき、今までのドラゴンとは違う圧倒的力が上空に現れた。
『我が名はイフリート。人間よ、汝の目的を答えよ。』




