旅立ち5
ギフト【狂戦士化】は、発動時に殺意の対象になっていたものがすべて死ぬと解除される。それによって、アジュールは意識を取り戻した。
「(これ・・・は・・・?)」
アジュールが周りを見渡すと、そこにはこの村を襲った山賊どもの死体が転がっていた。足元には両手両足を失ったバルトロがいた。バルトロの頭はアジュールによって踏みつぶされている。
「(そうだ、僕がこいつらを・・・。傷も癒えている。これはいったい?)」
『ギフト【創造主】発動』そういえば頭の中でそんな言葉が響いていた。意識を集中すると、はっきりとわかった。自身にギフトが宿っていることを。そしてその力を。
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【創造主】・・・この世すべてを創造する。
【狂戦士化】・・・ギフト発動時、痛覚を遮断し、身体能力を大幅に上げる。そして殺意の対象である相手をすべて殺すまで、理性のタガが外れ、暴れ続ける。
【自動再生】・・・ギフトが常に発動。あらゆる傷を、即死でない限り一瞬で治す。
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ギフトが3つもある。ギフトの複数持ちなんて聞いたことがない。そういえば、【創造主】が発動したとき"クリエイトギフト"と・・・・?
「アジュール・・・よかった。あなただけでも生きていてくれて・・・」
【狂戦士化】を使用した反動で意識が定まっていなかったアジュールだが、マリアの声で引き戻される。そして絶望する。マリアのそばに横たわる、兄の姿に。
「カイト兄ちゃん! 目を開けてよ!」
駆け寄り、横たわるカイト兄ちゃんに精一杯声をかけた。しかし、一向に返事がない。心臓も止まってる。信じたくない現実がそこにはあった。
「そ、そうだ! マリア姉ちゃん! 治癒魔法で!」
「む・・ぅっ・・・りよ・・・」
嗚咽しながらマリア姉ちゃんは答える。
「私の呪文じゃレベルが低すぎる。さっきから何回試しても駄目だったわ・・・。そして死者を生き返らせる魔法なんて・・・できるわけ・・・・」
「そ、そんな・・・」
マリア姉ちゃんは涙が止まらず、もはやしゃべることすらできない状態だった。
最愛の夫を無くしたマリア同様、アジュールも最愛の兄を無くし、気が狂いそうだった。しかしそれでも意識を保てたのは、残った男として兄の代わりに自分が動かなきゃという使命感があったからだ。
「ほ、他のみんなは・・・」
僕がつぶやくとマリア姉ちゃんは首を横に振った。「う、そだ。うそだうそだ!」ばあちゃん、マグルス、ビッキーみんなまで・・・?
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ」
アジュールの嘆きが村中に響いた。
もはやアジュールは理性を保てなかった。たった数時間前には元気だった家族が殺された。その事実が信じられなかった。
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「いかなきゃ。」
アジュールはふらつきながら、立ち上がる。
「どこへ・・・?」
マリア姉ちゃんも会話できる余裕がほんの少し出てきたのか、僕に尋ねた。
「村の様子を見に行くよ。もしかしたら僕たち以外に生き残っている人がいるかもしれない。」
「気を付けて。・・・ごめんなさい、私は・・・。」
マリア姉ちゃんは一際ショックが大きいだろう、家族4人が死んでいる姿をその目で見てきたのだから。
「いいんだ。・・・言ってくる。」僕はマリア姉ちゃんに微笑みかける。そして山賊の死体から弓と短剣を奪い取ると、村の方へ向かった。
村は悲惨な状況だった。焼かれていない家はない、男たちや年寄、子供は皆殺しにあっていた。見張り台ではアントンさんが鐘に寄り掛かるように死んでいた。背中には無数の矢が刺さっている。最後まで僕たちのために警報を鳴らし続けてくれたんだろう。その姿が勇敢で、そして痛ましかった。
残っていたのは若い女性たち16人だけだった。彼女らは拘束され、金品や食料と一緒に荷馬車に乗せられていた。彼女らを解放する。すると、それぞれ家族や恋人のもとに向かっていった。そして、村中に悲鳴が聞こえた。
村には残りの山賊はいなかった。孤児院前に集まっていた10人が残りすべてだったんだろう。僕は警戒を解除すると、マリア姉ちゃんの元へと戻ることにした。
道中、緊張の糸が途切れ、近くの切株に座り込む。
「これから・・・どうなるんだろう。」
もう何も考えたくなかった。家族が死んで、村のみんなが死んで、どうすればいいのか。導いてくれる大人はいない。この現実を受け入れたくなかった。
そんななか、自身に宿ったギフトのことをふと思い出す。【創造主】というギフトは"この世すべてを創造する"らしい。マリア姉ちゃんは言っていた、死者を生き返らせる魔法なんてできるわけないと。だったら、そんな呪文を使える自分を作り出せないかと。
思った瞬間、頭の中が一気にクリアになった。そうだ!ギフトを作るなんてできるこの【創造主】なら!
それは藁にも縋る思いだった。しかし、アジュールは一心不乱に念じた。
ギフト【創造主】発動:クリエイトスキル【治癒魔法】⇒ランクG
ギフト【創造主】発動:クリエイトステイタス【魔力】⇒無限
奇跡は起きた。いや、奇跡ではない、【創造主】はそんなこと当たり前にできる。なぜなら"この世すべてを創造する"ことができるのだから。
いてもたってもいられなくなった。急いでマリア姉ちゃんの元へ!カイト兄ちゃんの元へ!座り込んだときに置いた弓や短剣。それらを拾う時間すら惜しかった。
「どうしたの、アジュール? 村で何かあったの?」
アジュールのあまりに慌てた様子に、マリアは村でさらに悲劇が起こるのかと不安がよぎった。
「話は後にして! カイト兄ちゃんを助けられるんだ!」
「え!?」
驚くマリア姉ちゃん。ごめん、説明する時間も惜しいんだ!カイト兄ちゃんに近づいて治癒魔法を唱える。人智を超えたG級治癒魔法を。
「《リザレクション》」
その瞬間、カイトの体は光に包まれた。眩しい、けれども暖かい光。光が消えた瞬間そこには、カイトが目を開けて立っていた。切られた腕も、そんなことが初めからなかったかのように繋がっている。
「う・・・そ? カイト? カイト!!」
マリア姉ちゃんがカイト兄ちゃんに勢いよく抱きつく。それを抱きかかえながらカイト兄ちゃんはつぶやく。
「俺は、バルトロに殺されたはずだ・・・。なのになぜ?」
「それは・・・」
マリア姉ちゃんが僕へ振り向く。カイト兄ちゃんも僕へ視線を向けた。
「僕が、カイト兄ちゃんを生き返らせたんだ。G級治癒魔法を使って。」
「アジュールが? お前治癒魔法なんて使えたのか?」
生き返ったばかりで意識がはっきりしないのか、カイト兄ちゃんはたどたどしく尋ねてくる。
「アジュール、あなたG級治癒魔法といったの!? 魔法はF~Sのレベルだけのはずよ? G級なんて聞いたこともない。」
「僕も詳しいことは分からないんだ。だけど今の僕はそれができる。そして、ばあちゃん、マグルス、ビッキー、それだけじゃない村のみんなも助けることができる。」
「人を生き返らせるなんてまるで神様みたい。」
マリア姉ちゃんは、F級治癒魔法を修めている。だからこそ、僕がやったことの異常さがよりわかるんだろう。
「僕が怖い?」
僕だったらきっと怖い。人智を超えた得体のしれない魔法を使う人間。それがたとえ身内だったとしても、きっとその力に恐怖する。
「ふふっ、ばかね。そんなことあるわけないじゃない。あなたは私の大切な家族を助けてくれた。そして何より、あなたも大切な家族なのよ。」
そういいながら、マリア姉ちゃんは僕を抱きしめてくれた。たまらず僕は泣き出した。僕は幸せ者だ。涙をふき、マリア姉ちゃんから離れると孤児院内へ歩き出す。
「ばあちゃん、マグルス、ビッキーを助けてくるよ。カイト兄ちゃん、マリア姉ちゃん、その間お願いがあるんだ。村のみんなの死体をできるだけ一か所に集めてほしい。僕も後で向かうから。」
「わかった。」「わかったわ。」
「でも大丈夫なのか?これほどの魔法、そんなに連続で使用出来るものではないだろう?」
確かに、本来ならそもそも唱えることすらできないのかもしれない。けどきっと、大丈夫。体中から魔力が溢れてくる。どれだけ使ってもきっと切れることはないだろう。
「大丈夫さ、だって僕は2人の弟なんだから!」
僕は家族の元へ走り出した。「ははっなんだそれは。」後ろからはそんな笑い声が聞こえていた。