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旅立ち3

「山賊! 山賊が攻めてきたぞ!」

 時刻は真夜中。村中にけたましい鐘の音を響かせながら、アントンさんが叫んでいる。目を覚ました僕はベッドから飛び降りる。


 山賊、敵、なぜ、どれくらいの数、そんな疑問が頭の中を埋め尽くす。考えてる場合じゃない、早く準備をして迎え撃たないと。


 弓と短剣を装備し部屋を出ると、同じタイミングでカイト兄ちゃん、マリア姉ちゃんも出てきた。


「アジュール、打って出るぞ! マリアはみんなを頼む。」

「もちろん!」「ええ!」

 マリア姉ちゃんに残りのみんなを任せ、孤児院を出た。そして―――



 目の前には地獄が広がっていた。

 民家は焼かれ、血の匂いが立ち込めている。男女の叫び声が聞こえる。どれも今まで聞いたことがある声。それは今まさにイスト村が蹂躙されていることを示していた。


 孤児院は村のはずれにある。が、ここに迫ってくるのも時間の問題なのは明白だった。


「ひどい。どうしてこんなこと。」

「くそっ! ゆるせねぇ。」

 悲しみと苛立ちが押し寄せてくる。今すぐ村へ助けに行きたい。けど、その間に孤児院が襲われたら?だめだ、ここから動けない。どうすればいいのかわからず、僕は立ちすくんでしまう。



「アジュール! まずはここを死守する。お前は物陰に隠れ、弓で援護してくれ。」

 カイト兄ちゃんの声で意識が戻る。そうだ、まずは孤児院の安全を確保しなきゃ。


「わかったよ、カイト兄ちゃん。」

 僕は近くの林の中に移動した。ここなら方向はばれても木に隠れれば正確な位置はわかりずらい。援護には最適の場所のはず。


 隠れるのと同時に、村の方から2人の男がやってきた。村の人じゃない、山賊だ、敵だ。


「ぎゃはは、おいガキ。いっぱしの剣士気取りか?」

「有り金全部よこしな、女もいるならさっさとだせ。そしたら楽に殺してやるよ。」

 馬鹿笑いしながら、山賊どもが近づいてくる。だめだ、話し合いなんてできるわけない。斃さなきゃ、僕たちはみんな死んでしまう。


「ふざけたこと抜かしてるんじゃないぞ。村のみんなの敵、お前ら楽に死ねると思うなよ。」

 カイト兄ちゃんが、剣を構える。カイト兄ちゃんは強いけど1対2は厳しい。僕が1人減らさなきゃ。


 カイト兄ちゃんが左の男に切りかかる。1対2にもかかわらず1人だけに絞ったその動きは、つまりは信頼しているからだ。僕が、もう1人を斃すことを。


 生まれてこの方人を殺したことなんてない。だから震える。こいつらが村のみんなを殺してるゴミであっても、人の命を奪うという行為に怖気づく。けどやらなきゃ、やらなきゃやられるんだ。


「チッ」


 意を決して放たれた弓は、右の男の無防備な頭を撃ち抜いた。


「なっ、くそ、弓兵が隠れてやがるのか!」

 仲間がやられたことに動揺した左の男をカイト兄ちゃんの剣が襲う。


「地獄で詫びろ!」

 男の首はあっさりと肉体から離れた。飛び散る血を浴びながらカイト兄ちゃんは立っていた。先ほどまでと一転、怒りに満ちていた顔が、悲しさに溢れていた。


 無理もない、弓で殺した僕でさえ震えが止まらない。カイト兄ちゃんは剣で切り殺したんだ、その手には残っているはず。



 人を殺した感触が。




 けど、震えるのは後にしよう、嘆くのは後にしよう、まだ何も終わってないんだ。



 ―――――ゾクッ。



 な、なんだこの身の寒気。村の方からだ、見れば5人の男たちが近づいてくる。その中に一際背の高い、両手斧を持った男がいた。


 間違いなくあいつがリーダーだ。やばい、あいつはやばい。もしかしてカイト兄ちゃんよりもつよ・・いやそんなわけない。けど訴えている。本能が、ここから逃げろと。


 ただでさえ1対5絶望的な状況だ。それにあんなやつ、相手にできるわけがない。何とかしなきゃ、気付かれていない僕が何とかしなきゃ。


「よう、若い剣士。うちのやつらが世話になったな。この村の奴らはあまりに歯ごたえがなくて飽き飽きしてたところだ。俺ともちょっと遊んでくれや。」

 余裕の態度でカイト兄ちゃんに近づいてくる。


 だめだ兄ちゃんが殺される。

 弓を引き絞り狙いを定める。狙いは一点、リーダー格のその頭。カイト兄ちゃんにさらに一歩踏み出した瞬間手を放した。


「おっと。」

 ありえない。奴らのリーダーは簡単に斧で矢をはじいた。


「誰かはわからねーが、さっきから殺気がダダ漏れだぜ。こんなお粗末な狙い、目を瞑りながらだって防げるもんさ。おいお前ら、あっちの林に弓兵が1人隠れている。俺の前に連れてこい。」

「了解だぜ、バルトロのアニキ」


 まずい。バルトロと呼ばれるリーダーの命令を受け、2人の山賊がこちらに向かってくる。


「いかせるか!」

 カイト兄ちゃんがこちらに向かう山賊に向かって切りかかる。


 しかしその剣は簡単に防がれる。「兄ちゃん、お前の相手は俺だ。」剣を防いだ斧でそのまま、カイト兄ちゃんを叩きつける。



 くそっ、早くカイト兄ちゃんを援護しないと。まずは近づいてくる2人を斃す。やつらは二手に分かれてこちらに近づいてきている。狙いを分散させるつもりなんだろう。



 地の利、距離、そして相手が油断していたことが幸いした。精神を研ぎ澄ました一撃は、向かってきた山賊1人の命を刈り取る。まずは1人。しかしそいつを斃した時、もう1人を完全に見失っていた。集中しろ、どこだ、どこにいる?全神経を集中しあたりを警戒する。


 がさっ。後ろから音が聞こえた。とっさに弓を手放し、腰の短剣を引き抜く。


「調子こいてんじゃねーぞ、くそガキ!」

 山賊が剣を振り抜く。とっさに避けるも、左腕が切られた。痛い、意識が飛びそうだ。歯を食いしばり、右手の短剣を相手の喉めがけ突き刺す。


「うおおおお!」

「ぎゃあああ!」


 大振りで隙だらけの山賊の喉に短剣を突き刺し抉る。山賊は断末魔を上げ、糸が切れた。


「はぁ。はぁ。」

 切られた腕の痛みで意識が朦朧としてくる。カイト兄ちゃんの援護を、この左腕では満足に弓が射れない、それでもできる限り。



 孤児院前に視線を戻すと、カイト兄ちゃんとバルトロが戦っていた。いや戦いというにはあまりに一方的。けど生きてる。生きてるなら助けられる。

 そう思い弓を拾った時に気付く。おかしい、バルトロの後ろには山賊が1人しかいなかった。僕が斃したのは2人。じゃあ、残りの一人はどこへ・・・・?



 ―――――ぐさっ。



 剣が体を突き刺していた。それを見た瞬間。僕は意識を手放した。


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