第6話 アグリスの花
私はココとレノを乗せて空を飛んでいた。
アグリスの花が咲く山のふもとに行くために。
「ルアナが頂上まで乗せてってくれればいいんじゃないのか?」
『私もそうしたいんだけど、アグリスの花は神聖なものだから山登らなきゃいけないんだ。簡単には摘めない。苦労した者に訪れる奇跡の花。それがアグリスの花なの』
「へぇ……。なんでルアナはそんなこと知ってるんだ?」
まさか元は人間だからなどとは言えない。
どうしよう……。
『ふ、フローナから聞いたの』
「そうか」
なんとか難をのがれた。
こういう時にフローナは便利だと思う。
ココは私の背中で舟を漕いでいた。
「寝てもいいよ」
レノがいつにもなく優しい声で言う。
「うん……」
やがて、山のふもとに着く。
レノがココを背負い、山を登る。
『私が背負うよ』
「いや、大丈夫だ。仮にも女のやつに任せられるか」
ニコッと私に笑いかける。
その笑顔はとても輝いていた。
ドシンドシンと音をたてながらも軽々と登って行く私。
額に汗を滲ませながら登るレノ。
すやすやと心地よさそうにレノの背中で眠るココ。
「ルアナ……休憩させてくれ」
『うん。いいよ』
レノの息がきれている。
とても辛そうだ。
『レノ、やっぱり代わるよ』
「少し休めば大丈夫だ。余計な心配するな」
如何にも辛いって顔してるのに……。
レノは変わらず気丈に振舞う。
「ぅ……ん」
ココの目がゆっくりと開く。
寝起きと主張する寝癖。
その寝癖が私達を和ませてくれる。
「おはよう」
「ここ、どこ?」
「山の真ん中らへんだよ。お花までもう少し」
ココの顔が喜びに満ち溢れる。
そして、胸元を強く握りしめる。
キラリとココの胸元で何かが光る。
『そのロケットに何が入ってるの?』
「パパとママと撮った写真……。お守りなの」
お守り……。
やはり、ココのお父さんとお母さんは――。
「さて、そろそろ行くか」
「うん!」
私達は再び歩き出す。
どのくらい経っただろうか?
ココは相変わらず元気だ。
子どもというのは計り知れない。
「もう、山の上まで来たが……」
私が人間だったときに読んだ本によると、確か太陽と最も近い星だったはず。
意味はまったくわからない。
だが、ヒントにはなるのではないかと思う。
『本当の頂上ってどこだろう?』
「ここがそうだろ?」
『そうじゃなくて、一番高いところ』
「だったら……ココのいるところじゃないか?」
ココのいるところって……そんな危ないとこで走り回っちゃだめ!
「あっ……」
『ココ!!』
ココの体が傾く。
私はココの方へ走る。
「任せとけ」
レノが私の横を通り過ぎる。
――速い
ココが崖から落ちる寸前にレノがココの手をしっかりと掴む。
「なぁ、アグリスの花ってこれか?」
ココを掴んだまま私のもとへ。
その手には黄色の光を纏った花が。
その形は星形そのものだった。
本にあったことは本当だったんだ。
私はほっと息をつく。
「ありがとう――」
心なしかココの体が透けている気がする。
レノが握る手も……。
「おいっ」
『ココ……?』
「私ね……パパとママのところ行くの。お花のところまで連れてきてくれてありがとう……」
ふわっと身体が浮く。
――ココはもう……
レノは俯いていた。
自分の手を見つめて……。
ふと、ココの方に目を向ける。
『いな……い』
ココはお父さんとお母さんの待つお花畑に行ったのだと思う。
もう、はぐれないでほしい。
「帰ろう」
『うん――』
新神優亜です。
学校行事が迫り、中々時間がとれませんでした。
ココとのちょっとした冒険みたいな?
レノのかっこいい姿が見えましたでしょうか?
ではではまたお会いしましょう