第14話 王城の夜
新神優亜です
「ありがとね、レノ、ルアナ」
「なんだよ、改まって言うことじゃないだろ」
「そう……なんだけどさ。王族として一応感謝の言葉ぐらいは言っとかないと」
「サーシャってさ……王族っぽくないよね」
私はポツリと言った。
ふと、呟いたようなものだった。
でも、サーシャは笑った。
「王族っぽくない……って私は散々言われたの。みんなに。お父様やお母様にも。でも、辛くなんかなかったわ。だって、いつも相談出来る相手がいたから。辛いって思うことより、幸せって思えることのほうが多かったの」
「それが俺だったってわけだ。っと……暗くなってきたな。ルアナ、帰ろうか」
レノに言われ外を見ると茜色だった空が少しずつ闇に包まれていた。
いつの間に……。
「そう――」
「泊まっていけばいいじゃない。部屋なんかいっぱい余ってるし、レノもドラゴンさんも疲れたでしょ?」
「まぁな……でも悪いしな……」
「何でもいいから泊まっていきなさい。久しぶりに色々話したいの」
胸に謎の違和感があった。
もやもやとした形のない何かがある気がした。
「そう……言われちゃあな。ルアナ、それでいいか?」
「えっ……あ、うん。いいよ」
ぼーっとレノを見ていたため返事が遅れてしまった。
それを不安に思ったレノが私をじっと見る。
「大丈夫か?」
「うん。怪我、してないよ」
「そういうことじゃなくてな。何かあったか?」
「……ううん。何も」
特別何があった訳ではない。
ただ、もやもやするだけ。
「何かあったら遠慮しないで言えよ」
優しい言葉と私を撫でるレノの手。
しばらくして胸にあったもやが限りなくなくなっていった。
そうして、私たちはサーシャのお城に泊まることになった。
地下図書館から出て歩きながら喋っていた。
が、そこで問題が起きた。
「ドラゴンさんの……ベッド……」
サーシャのつぶやきにすかさずツッコミを入れた。
「流石に私のベッドはないでしょ。床で寝るから大丈夫だよ」
「なくはないんだけど、今そこにはちょっと人が入ってて……」
……あるんだ。
しかも、そんな大きいベッドのある部屋に泊まってる人って凄すぎる。
サーシャが近くに歩いていた使用人を止める。
「今日、私の友人をこの城に泊めたい。部屋はどこなら案内できる?」
「只今案内出来るのは大部屋一つにございます。他は……」
「一部屋だと!?こんな広い王城で案内出来るのは一部屋しかないのか!」
「申し訳ございません」
「どうしましょう……一部屋しかないとは……」
「大部屋ならルアナと一緒でも大丈夫じゃないか?」
それもそうだ。
こんな広い城の部屋に一人でなんて嫌に決まっている。
レノと一緒なら落ち着くしね。
「……そうですか。なら、ドラゴンさんのために部屋の方にカーペットを敷かせるね」
「只今ご用意致します」
サーシャに止められていた使用人が足早に去っていった。
どんな部屋なんだろう……。
私は期待に胸を弾ませる。
「じゃあ、準備してる間にご飯にしましょう。あ……でも人は用意できない……」
「サーシャ、誤解だ。ルアナは人なんか食べない」
……食べたことない訳じゃないんだけどね。
魔力がなくなると死んじゃうし。
そういえば、最後に魔力をもらったのっていつだっけ……。
「ルアナこれうまいぞ」
レノが私の分の料理をお皿に山のように乗せ、持ってきてくれた。
山のよう……と言うより山だけど。
どうやったらお皿からはみ出ないのかというほど盛られていた。
「ん……おいしい」
「だろ?」
弾けるレノの笑顔。
誰が、いつ見てもこれは見ているこちらも笑顔にしてしまうだろう。
楽しい夕食は進み、私たちはお腹いっぱいになった。
レノも食べ過ぎたようで椅子でぐでーっとしている。
「お部屋の用意が出来ました」
待ってました。
それにしてもおいしそ……あれ?
私、なんでこんなに食べたのにおいしそうって……。
「ルアナ、行くぞ」
「う……うん」
大丈夫。
動けないほどではないけど、早く魔力の補充をしないと何があるかわからない。
「レノたちを案内する部屋はね、私のお気に入りなの。ここよ」
一つの部屋の前で立ち止まり、ドアを開ける。
赤いカーテンに天井には大きなシャンデリア。
「流石は……王城だな」
レノも苦笑いを浮かべている。
ベッドにはしっかり天蓋もついていた。
憧れない……ことはないんだけどね。
この姿じゃあ無理だし。
「それでは、ごゆっくり」
「もう行くのか?」
「公務を果たさないとね」
「そうか……あんまり無茶するなよ」
「わかってる。おやすみ、レノ、ドラゴンさん」
「おやすみ、サーシャ」
「おやすみ」
パタンと閉められたドア。
この豪華すぎる部屋には私とレノの2人だけになってしまった。
「なぁ……るあ――」
「明日も早いし寝ようっ!」
「まだこんな時間だぞ?」
「いいから!ほら、早くベッド入りなよ」
このまま話していると、レノに気づかれてしまうかもしれない。
いや、もう気づかれているのかもしれない。
心配はかけたくないの。
「ルアナが床なのに俺だけベッドなのはなぁ……」
そう言ってレノは私のお腹の辺りにきた。
お腹を撫でながら
「ここで一緒に寝ればいいだろ」
「風邪引くよ。レノは人間なんだから」
「ルアナ……あったかいから大丈夫さ。しかも、俺がベッドで寝てたらその間にルアナがどこかに行っちゃいそうな気がしたからな」
よく……わかったね。
レノが寝てる間に一度戻ってフローナと会おうと思ってたのに。
「こうしてたら眠くなってきたな……」
「……うん」
「ルアナ」
「何?」
「いなくなるなよ。お前がいなくなったら俺が風邪引くぞ」
「……わかってる」
私はレノを包み込むようにして眠りにつく。
夜は……動けない。
だから、明日早く戻るしかない。
今はゆっくり寝て、また明日……。
「ルアナ!起きろ!!」
「……ぅあ?」
レノに体を揺さぶられ起こされた。
朝日が眩しい……。
「街に魔物が出たらしい!昨日の狼のようなっ……」




