ハムスター 回転をどこかに絡めたショート1
ずっと心の中にあったので試しに書いたらなんか違う
燻製の分際でコイツは、夢中になってカラカラと回転する輪っかを回っているのだ。ああ、飼っているペットの話。僕は家でハムスターを飼っている。そいつの名前が燻製。
生まれてこの方僕はペットなんて飼ったことはなかったけど、ある日とにかく何かを飼っていようと思い立ち近所のペットショップに足を運んだ。
その時点ではまだ名前もついていない未来の僕のペット「燻製」はその初対面の段階で既にカラカラと回転するあの観覧車みたいのを回っていた。オスなのかメスなのかどうしてあんな体の模様なのか何を食べるのかどういうふうに飼うべきなのか何一つわからないままに僕はその永久装置みたいなハムスターを購入した。
買う際、ペットショップの店員は僕を見てこんなことを言った。
「本当はあなたなんかに売りたくないですよ。でもね、こっちも商売ですからそりゃ売りますよ。でもね、あんたにはペットなんか必要ないと思いますよ。あんたに必要なのは人間同士の関わりだ」
客商売をしている人間のセリフとは思えないそう言うセリフを吐かれたものの、僕は無言で所定の金銭を払い、そして燻製の籠を持って家に帰った。店を出るときに件の店員が「あんたのことだから餌のこととかも考えていないだろ?ほら、これやるよ」
そう言って何かの袋を数種類もらった。多分餌だろう。この流れで乾燥剤とか農薬とかだったら大変だからだ。
家に帰り着き僕が手洗いとうがいで一時間使ったあと、思い出して籠を見ると中の動物は僕のことをだるそうに見上げて、お決まりの様な面倒な感じで鼻みたいな部分をフンフンとさせた。それを見て僕は何かの袋を開けてその中身をあげてみることにした。
そのような形で我々の生活は始まった。
毎回餌をあげた後は手が臭くなって僕はその度に一時間手を洗った。燻製は燻製で餌を毎回もらえるなんて思っていないのかもらった餌を一度に食べないで備蓄している様子だった。その行為がなんとなく野生の動物みたいで僕には好感が持てた。躾も面倒なのでしていない。いずれ死ぬんだから好きにすればいい。外に出すつもりもない。出したところでどうせ鳥とかにさらわれるのがオチだ。まあ燻製は賢いのでそのへんも大丈夫だろうと思う。わきまえていると思うという意味で。偶にカゴ内の掃除とかはするけど正直手が汚れるのであまり好きではない。ただ求められる以上はしないといけない気がする。名前をどうして燻製にしたのかは覚えていない。
餌を上げると相変わらずくるくると輪っかを回る。多分それに僕はストレスを溶かしてもらっているのだと思う。本当に少しずつだけど。ただそれは決して愛らしいとか可愛らしいとかそういうのではない、ただ燻製が義務としてやっている感じがいい。そこには諦観があって多分それが僕にはいいのだ。それが僕にはちょうどいいのかもしれない。
その証拠に、手を洗う時間が最近は55分でも平気になった。ゼロになったらどうなるのか?燻製が死んだら元に戻っていくのか?それはまだわからないけど、とにかく燻製には感謝している。感謝はしているつもり。伝わっているのかどうかわからないけど。
また十個で考えています