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好きだから、嫌いになって  作者: 滝沢美月
高2編:side芹香
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第9話  恋のキューピッド



 逸る気持ちを押さえて、家へ向かう道を足早に歩いた。

 本当は学校を出たらすぐにでも松に連絡したかったけど、こんなことメールでは言いにくし、電話するなら家で落ち着いての方がいいだろうと考えて家へと急いだ。


「ただいまぁ~」


 靴を脱いですぐに二階の部屋に行こうとしたら、居間から顔を出したお母さんに呼び止められる。


「芹香、おかえり。ちょっと夕飯の準備手伝ってくれる?」

「うー、うん……」


 ここで手伝わないなんて言ったら、お母さんすねちゃって後が大変なんだよね。私は渋々頷くしかない。


「着替えたらいくよ」

「お願いねぇ~」


 機嫌良くそういって居間に戻るお母さんの後ろ姿を見送って、私は重い足取りで階段を登る。

 階段を登って奥にある自分の部屋に行って、入り口に置かれた衣装棚の上に鞄を置いて、手早く制服を脱いでハンガーにかけて、すぐに階下へと向かった。

 台所に掛けてあるブルーのストライプのエプロンをつけて、お母さんに声を掛ける。


「なに手伝ったらいい?」


 言いながら素早く台所に視線を向けて、今日の夕飯はコロッケだと見当をつける。


「コロッケの衣つけ、お願いしていいかしら」

「うん」


 私は台所のすぐ横にあるテーブルを綺麗に拭いて、その上にキッチンシートを広げ、小麦粉とパン粉を左右に用意し、冷蔵庫から卵を出してボールに割り入れてとき卵を作って準備完了。

 ポテトコロッケとクリームコロッケの原型に順番に衣をつけていく。

 料理はわりと好きなんだよね。小さい頃からよく手伝っていたっていうのもあるけど、お母さんがあまりに不器用で、子供のこっちが見ていてはらはらするというか……

 中学は部活で帰りが遅かったからあまり手伝うことはなかったけど、高校になってからはまた手伝うことが多くなった。

 衣をつけ終わったコロッケをお皿に乗せ、テーブルの上を片付けて流しで手を洗う。


「他はなにか手伝う?」


 お母さんは不器用で、すっごい料理をする手つきは危なっかしいのに、料理が大好きでいつも時間を掛けて手の込んだ料理を作ってくれて、しかも美味しいんだからすごいと思う。

 手つきだけで言ったら、絶対私の方が上手だと思うけど、味では完敗なんだよね~。だから手伝ってって言われるのは嬉しい。それで、味を盗むんだぁ~。


「とりあえずー、今は大丈夫かな。手伝ってくれてありがと」

「うん、じゃ、部屋に行ってていいかな?」

「いいわよ。夕飯出来る時に呼ぶね」


 お母さんから一応了承を得て、私は落ち着きなく早足で階段を登る。

 部屋の扉を閉めてふぅーって一息ついて、携帯携帯~って鞄の中を探すと、携帯が着信を知らせてピカピカと点滅している。

 私はその着信が、松じゃないかって直感する。

 いつも松って、こっちが連絡しようと思っている時にタイミングよく連絡くれるんだよね。

 そわそわしながら携帯を開けて、新着メールを開くと、予想どおり松からのメールだった。


『今日、委員の仕事だったんだってな? さっき菱谷に会って聞いた。試験最終日なのに大変だったな。お疲れ!』


 その文章を読んで笑みをもらす。菱谷君と松って、どんだけ仲良しなのって。

 たしか最寄駅が一緒って言ってたから家が近いんだろうけど、別々に帰って会うなんて、そうとう仲良しでしょ。

 まだメールには続きがあって、スクロールを動かす。


『日曜、暇だったら一緒に映画行かない? チケット二枚もらったから』


 私は今すぐにでも伝えたい気持ちを押さえる。

 松に美咲ちゃんと両思いだって伝えたかったけど、こうなったら日曜に直接会った時がいいと思ったの。まぁ、直接なら学校でもいいのかもしれないけど、松と二人でいるところを美咲ちゃんに見られて、変に誤解させるのは嫌だったから、手早く了解のメールを送った。



  ※



 二日間学校を挟み、日曜日。待ち合わせのグランモール公園に少し早く着いた私は、そわそわと辺りを見回す。金曜日は平常授業、土曜は校内模試で慌ただしく、試験期間中から松が私の教室に来ることもなかったから、松と会うのは一週間ぶりになる。

 ゆっくりと顔をあげると、空は澄みわたるブルー。太陽の日差しが煌々と輝き、芝生が潮風に優しく揺れている。良いお天気に、これからする良いことを思えば、自然と笑顔になってしまう。


「芹、香……」


 戸惑うような声に振り向けば松が立っていて、驚いたような顔でこっちをじぃーっと見ているから、私は首を傾げる。


「松、どうしたの? 私の顔に何かついてる?」

「あっ、いや……いつもと違うからビックリした……」


 そう言われて、松がなんの事を言っているのか理解する。


「あー、これ?」


 スカートの横をちょっと引っ張って、松を下から覗きこみ照れ笑いする。

 今日の私の格好は、モノクロのボーダーのマキシ丈のスカートに肩ひもがレースになっている黒のタンクトップ、その上からキャロットオレンジのカギ針ニットのボレロを羽織っている。

 普段はズボンばかりでスカートなんて滅多に履かないことを松は知っているから驚いているのだろう。まあ、スカートだって履かないわけじゃないけど、基本はズボンだからね……

 なぜ今日はスカートかって? それは単にズボンを洗濯しちゃってスカートしかなかったからなんだけど、あまりにもじぃーっと見つめられて、私は少し唇を尖らせて尋ねる。


「似合わないかな?」


 すると、松が一瞬、その瞳に甘い輝きをきらめかせて、ふっと笑ったの。


「そんなことないよ、可愛い」


 白い歯を見せて笑った松の左の頬に、くりっとくぼんだえくぼの方がかわいいんですけどっ!

 私は興奮する内心を隠して笑う。


「おしゃれな松にそう言ってもらえると嬉しいな」

「なんだよそれ」

「えー、だって、松っておしゃれだって女子の間では噂なんだよ?」

「噂かよ、芹がそう思ってるわけじゃないんだな……」


 そう言って松がちょっとふてくされたように視線をそらすから、私はそれがまたまた可愛いく思えてしまう。けど、男の子に可愛いなんて言ったらダメだよね?


「そんなことないよ、私も松のことおしゃれだと思ってるよ」


 そんな話をしながら、ワールドポーターズの映画館に向かって歩き出した。




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