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好きだから、嫌いになって  作者: 滝沢美月
高2編:side芹香
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第8話  聞いてしまったうわさ



 怒涛の期末試験も、来てしまえばあっという間だった。

 試験最終日、図書館のカウンター当番になってしまった私は、初日に行われてすでに手元に帰ってきた数学の答案用紙と教科書を抱えてカウンターに座っていた。


「これ、返却お願い」


 そう言ってカウンターに二冊の本が置かれて顔をあげると、陸上部の菱谷(ひしや)君が立っていた。

 菱谷君は一年の時同じクラスで、今は松と同じ四組。同じ陸上部で松と仲良い菱谷君とは、私も必然的に仲良くなって、話す事も多かった。


「菱谷君、今日は部活休み?」


 本を受け取って背表紙を開いて、返却手続きをしながら話しかける。


「さすがに、今日はね」


 菱谷君はそう言って肩をすくめて見せる。

 まぁ、そうだよね。試験最終日くらい部活しないでゆっくり休みたいよね。

 私は苦笑をもらして、図書カードを菱谷君に渡す。


「松は一緒?」


 なんとなく聞いたんだけど、菱谷君が不思議そうに片眉をあげて首を傾げる。


「松岡なら用事あるとかでいそいそと帰ったけど、俺はてっきり芹香ちゃんと一緒だと思ってたけど?」

「えー、私は今日部活休みだってのも聞いてないんだよ?」


 まさか、っておどけて言うと、「そうみたいだね」って菱谷君が苦笑する。

 お互い、松が一緒にいるのはこの人だろうと思っていて空ぶったから、おかしくって笑ってしまう。私は松と一番仲がいいのは菱谷君だと思っているし、菱谷君は私が女の子の中では一番中がいいという認識らしい。


「ふーん、菱谷君おいて松が用事ねぇ~」


 何してるんだろうって想像しても分からないけどふふっと笑みをこぼすと、菱谷君が「そう言えば……」って言ってカウンターに肘をついて私に顔を寄せてくる。

 試験最終日の図書館なんて、そうとうなガリ勉か図書館マニアじゃないと来ないのよ。だから図書館の中に人はほとんどいない。カウンター当番の相方・七海君と役員の先輩は本を棚に戻す作業中でカウンターにはいない。

 ちなみに菱谷君はどちらにも該当しない、借りていた二冊の本の返却日が今日だから、単純に返却のためだけに来たのね。

 つまり、カウンターには私と菱谷君だけで、内緒話するにはもってこいってこと。


「松岡が最近、好きな子いるみたいなんだけど……」

「あー、その話なら知ってるよ」


 私がうんうん頷くと、少し以外というように、菱谷君が目をすがめる。


「なに? 芹香ちゃんと松岡ってそんな話もするんだ? ちょっと以外……」

「よくするわけじゃないけど、この間たまたまね」

「ふーん、でもそんな話もするってことは、やっぱ二人は友人関係なわけ?」


 私はまたこの話題かと思って少し苦笑して頷く。


「友達だよ」

「前にも聞いたことあったじゃん? その時も二人揃って友達だって言うの、ちょっと疑ってたんだけど、ほんとなんだ」


 少し納得したというように頷く菱谷君の瞳はくるくると色が変わって、何かを真剣に考えているのが伝わる。


「じゃあさ……」


 ちょっともったいぶっていた菱谷君の顔に視線を上げる。


「その好きな相手って藤堂さんだって、知ってる?」

「……っ!?」

「あっ、そこまでは知らないんだね」


 菱谷君のとんでも情報に驚いて声も出せないでいた私の表情を見て、菱谷君が一人で理解してくれる。


「俺もこの間たまたま聞いただけなんだけど、あいつもすごい子好きになるよな。学年一の美少女ってどんだけ競争率高いんだか」


 一人で苦笑をもらしている菱谷君の言葉は私の耳をスルーして、私は考えていたことをぽつっと言葉にしてしまう。


「松が好きなのが、美咲ちゃん……?」


 掠れた小さな声、だけど菱谷君にはしっかり聞こえてしまったらしい。


「あれ、芹香ちゃんって藤堂さんと仲良いの?」

「うん、今同じクラスで出席番号が近いんだ」

「あー、なるほどね。藤堂さんと同じクラスになったことがない松岡がどうしていきなり藤堂さんを好きになるのか不思議だったんだよ、むしろ芹香ちゃんを好きって言われた方がしっくりくるくらい」


 菱谷君の爆弾発言に私はなるべく動揺しているのを悟られないように苦笑する。


「いや、それはないし」

「なんで? ありでしょ? 友達っていってもあんなに仲良くしていたら恋愛に発展する可能性ゼロって言い切れる?」


 好奇心に輝く瞳で熱弁されてビックリしたんだけど、私の疑わしげな視線に気づいた菱谷君がくっと片目を閉じるから、半分冗談でからかったんだって分かってため息をもらす。


「ゼロですよ~。私はいま恋愛する気ないし」

「ふーん……」


 私の言葉になぜだか意味深に返されて、うっと言葉に詰まる。なんだろうな、なんか菱谷君の目が三日月のように細くなっている気がするのは、気のせいなのかな……


「そっ、それにしても……そうなんだぁー。松が美咲ちゃんのことねぇ」


 ふふふっと笑った私に、菱谷君が眉根を寄せる。


「なんか芹香ちゃん、その笑い方は不気味だからやめた方がいいと思うよ……」

「えっ、そう? 分かった、気をつけるよ」


 そう言っているそばから、笑みが止まらなかった。

 その後、少し世間話をして帰る菱谷君を見送り、カウンターに一人になってふふふっとまた笑みがこぼれる。

 だってさ、松が好きなのは美咲ちゃんなんだよっ!

 美咲ちゃんに松のことが好きって言われてから、松が好きなのって誰なんだろうってすっごく聞きたかった。今度教えてくれるって言いながら、その今度は来なくて、ずーっともやもやしてたんだよね。

 そのもやもやが吹っ飛ぶ情報に、笑わずにいられないでしょ!

 だってだって、松と美咲ちゃんは両思いなんだよっ。すごいっ、嬉しいっ!

 今すぐにも美咲ちゃんにメールして知らせてあげたいくらい気持ちが興奮していたんだけど、ふっと冷静になって思いとどまる。

 こういう気持ちって、友達から聞くよりもやっぱ本人から直接聞かないとダメだよね~。

 うん、これは美咲ちゃんじゃなくて松にメールしよう。さりげなく美咲ちゃんが松のこと好きだってアピッて告白するように背中を押してあげよう。

 とにかく、その時の私は、二人が両思いだって知っているのが私だけで、私がなんとかしてあげなきゃっていう気持ちでウキウキしていた。

 ああ~、早く閉館時間にならないかなぁ……

 松に電話したいっ!

 高ぶる気持ちにきゅっと瞳を閉じて、もう数学のテストの復習どころじゃなくて、そわそわと時間が経つのを待った。




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