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第70話  君の隣で



 中間試験が終わるとまた模試があって、その結果がHRで配られて教室内がざわついている。


「芹香ぁ~、どうだったぁ……?」


 泣きそうな顔で結衣に聞かれて、首を傾げてあいまいに答える。


「んー……」


 そこに美咲ちゃんがやってくる。みんなでケーキ屋さんに行った日以来、美咲ちゃんは結衣とも仲良くなって、最近はこの三人でいることが多い。


「二人ともどうだった?」


 美咲ちゃんの涼しげな表情からは模試の結果はわからないけど、きっと悪くはないんだろうなぁ、と思う。


「私ヤバいよぉ……このままで大学行けるのかなぁ……」

「まだ一年以上あるから大丈夫だよ」


 泣きごと言う結衣に苦笑すると、結衣がギロッと私を睨んで手の中に隠していた模試の結果表を奪い取る。それを見た瞬間、顔が引きつるのをみて、ぎこちなく笑うしかない。

 ひょいっと美咲ちゃんが、結衣が持つ私の結果表を覗きこむ。


「わぁ、すごい、全部A判定」


 感嘆の声をあげられて、恥ずかしくなる。まあ、勉強あれだけ頑張って来たから、A判定じゃないとどうしようもないんだけど。


「美咲ちゃんは?」


 結衣の恨めしそうな視線から逃れるように美咲ちゃんに話を振ると、美咲ちゃんはほんのちょっと口角をあげて笑う。


「私は普通」


 そう言って机の上に置いた美咲ちゃんの結果表はA判定もあればBもCもあった。まあ、D判定がないのがさすがというか。

 美咲ちゃんは四大じゃなくて専門学校に行くから、模試結果はあまり気にならないみたい。

 それまで黙りこんでいた結衣が、ぎゅっと拳を握りしめて私をまっすぐに見上げて言った。


「私も放課後、芹香と一緒に勉強するっ!」



  ※



 今までは図書館で勉強するなんて想像も出来なかったけど、最近ずっと放課後は図書館で勉強してしまったから、すっかり習慣になってしまった。もともと、静かすぎると勉強出来なくて、家で勉強する時はいつも音楽をかけてやっていたから、図書館のざわつきは耳に心地よくて勉強ははかどるし、分からないことがあっても誰かに聞けるから。

 松と付き合いだすことになって、松が部活の日はあいかわらず図書館に行き、勉強したり本を読んだりしながら松を待っていた。

 模試の結果がそんなに悪かったのか――結局、結衣の結果は教えてくれなかったけど、たぶん悪かったんだろうな――一緒に勉強すると言った結衣と図書館二階の談話室に行く。

 そこには――陽太君がいる。

 私は迷わず陽太君が座る机に近づき、向かい側に座った。後からついてきた結衣がちょっと眉根を寄せて私と陽太君を見るから、二人して苦笑して結衣を見返した。


「そんな顔でみないでよ、結衣」

「だって……」

「学校の図書館なんだから、陽太君がいてもおかしくないでしょ」


 というか――相変わらず、私と陽太君は図書館で一緒に勉強してる。別に約束したり、示し合わせて来てるわけじゃないから後ろめたいことは何もないけどね。

 もともと陽太君は、私と一緒に勉強する前から、放課後は図書館で勉強していたらしい。そんな人に、来ないでなんて言えないし、松を待つのに図書館は一番いい場所なんだよね。この時期、放課後の教室は暖房が切れちゃうけど、図書館は最終下校時間までは温かいし。

 もちろん、今まで通り隣に並んで座ったりはしない。でも、あえて離れて座るのも居心地悪くて、席が空いていれば、同じ机の向かい側に座ることにしていた。

 それに――


「陽太君はたぶんうちのクラスで一番頭いいんだよ。分からないところは私もよく教えてもらってるの」


 結衣だけに聞こえるように耳元で囁くと、結衣の瞳が疑わしげな視線から一転する。

 勉強してて分からないことがあった時、陽太君がいてくれるとすごく助かるんだよね。だって先生より分かりやすいし。

 まあ、松が図書館に私を向かいに来た時に、陽太君がいるのを見てすっごく不機嫌になったけど。友達として図書館にたまたま居合わせるのに問題があるだろうか……

 松が不安になる気持ちは分かるけど、本当に私と陽太君はなんにもないんだから、としか言いようがない。

 それに他に誰か誘うにしても、美咲ちゃんはバイトで帰っちゃうし他の子もだいたい部活やってるしね。結衣は、図書館で勉強なんて、絶対嫌だって言うし。


「渡瀬さんが図書館来るなんて珍しいね」


 陽太君にいつものふんわり笑顔で言われると、嫌味には聞こえない。


「私も勉強しようかと思って……」


 歯切れ悪く言う結衣に、ふわふわの笑顔を向けた陽太君は、視線を手元の問題集に戻して勉強を再開した。

 私も椅子をひいて座り、鞄から問題集を取り出して勉強をはじめると、結衣も黙って席に座った。

 黙々と問題集を解いてしばらくして隣の結衣を見ると、結衣が机にうつぶせて寝ていて、笑ってしまった。

 向かい側に視線を向けると陽太君も薄く笑ってて、二人でくすりと笑いをもらした。



  ※



 図書館の中の人がどんどんと減っていき、松と菱谷君と八木君が図書館の階段を登ってきた。


「お疲れ様」


 顔をあげて言うと、松が笑ってからちょっと顔を強張らせる。視線の先を追えば陽太君を見ていて、首を傾げる。


「菱谷君と八木君も部活お疲れ様~」

「二人とはちょうど部室出たとこで会ったんだ。結衣は……?」


 八木君が言い、結衣に視線を向けて呆れたため息をつく。


「うーん、図書館で勉強して待ってるって聞いた時、大丈夫かなって思ってたけど、こんなことだろうと思ってた」


 結衣は私の隣で小さな寝息をたてて、いまだに寝ている。


「結衣、帰ろう」


 八木君が結衣の肩を揺さぶっている。


「芹、帰ろうぜ」

「あっ、うん」


 松に言われて私は、問題集を閉じて片づけをはじめる。ちらっと視線を向かいの席に向けると、陽太君はもうこっちを見てなくて、黙々と勉強していた。


「陽太君はまだ帰らないの?」


 荷物を全部片付け終わって、まだ勉強してる陽太君に尋ねる。


「うん、もう少しきりのいいとこまでやるよ」


 もう少しっていっても、あと十分くらいで最終下校時間になってしまう。


「少しなら待つよ、一緒に帰ろうよ、ね?」


 陽太君に言ってから松に同意を求めて視線を向けると、松は片眉をあげて私をじぃーっと見る。


「えっ、なに?」


 帰り道だって一緒だし、みんなで帰った方がいいと思って言ったんだけど……


「別に」


 ぷいっと視線をそらした松は、ちょっとふてくされたような口調で言う。

 松の隣で菱谷君がにやにや笑っていて、まだ寝てて八木君に起こされていたはずの結衣が、大きなため息をついた。八木君が苦笑して結衣の肩をぽんっと叩く。

 えっ、なに――?


「帰りますか~?」


 呆れたような声で結衣が言い、陽太君がくすっと笑って問題集を閉じた。



 図書館を出て、正門を抜けて、大通りの歩道を菱谷君と松、八木君と陽太君が前を歩く。その後ろを私と結衣が続く。


「ねえ、なんでさっき笑ってたの?」


 先を歩く男子達とは少し距離があって、それでも前には聞こえないような小さめの声で尋ねる。

 結衣は眉尻を下げて呆れたようにふぅーっとため息をつく。


「なに?」


 訝しんで視線を向けると、結衣が困ったように笑う。


「芹、みんな二人に気をつかってたんだよ……」

「は?」

「芹と松岡君が二人で帰るように」

「なんで?」


 意味が分からなくて、首を傾げる。


「みんな一緒の方向なんだから、一緒に帰ればよくない?」

「よくない!」


 すごい意気込んで言われてビックリする。


「二人は付き合いだしたんだから、二人で帰ったり、もっとラブラブになりなよ」

「はぁ……」


 覇気のない返事が気に食わなかったのか、結衣がぎゅっと眉根を寄せる。


「啓斗に口出ししない方がいいって言われてたから今まで我慢してたけど、芹、松岡君に対する態度が変わらなさ過ぎだよ。もー、ぜんっぜん、彼カノっぽくない、友達にしか見えないよっ!」


 憤慨して言う結衣に、コクンっと首を傾げる。

 それっていけないことなのかな……?


「私は松が好きって言ってくれて、自分の気持ちも伝えられて、すごくすっきりしたし、前みたいな仲いい関係に戻れて満足なんだけど……」


 そう言った私に、結衣がはぁーっと大きなため息をついて吐き捨てた。


「もー、芹、にぶすぎ。そんな中学生の付き合い方は卒業してよ……」


 そんなこと言われても……

 ぶすっと唇を尖らせて顔をそらすと、ちょうど振り返った松と視線が合う。その瞳が強くきらめいて、私はにっこりと笑い返す。

 いまはこんなふうに、松の隣にいられるだけど幸せなんだもの。




付き合いだして1ヵ月後くらいの話です。

付き合いだしても友達のような芹と松岡の二人の関係に周りがやきもきするお話を書いてみたくて。

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