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好きだから、嫌いになって  作者: 滝沢美月
高2編:side芹香
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第7話  図書委員会と複雑な心境



 委員会の行われる図書館二階の談話室へと向かい、一つの机に私は七海君と並んで座る。時間まではまだ少しあって、七海君が私に話しかけてきた。


「名雪さんと一緒に図書委員会することになるなんて、すごい偶然だね」


 そう言って笑った七海君に私も笑い返す。

 七海君とは中学も違うし、今年初めて同じクラスになったんだけど、実は去年も図書委員会で顔を合わしていた。そんなに話をするほどの仲ではなかったけど、お互い顔と名前を覚えていて、また同じ委員会になったことにすごい親近感を抱いていた。

 図書委員会の集まりは月に一回。カウンター当番の振り分けの発表と図書館だよりの配布。カウンター当番は基本、昼休みをクラス委員が担当、朝と放課後が役員とクラス委員で担当することになっている。昼休みに比べて朝や放課後は受け持ち時間が長いし、クラス委員より役員の方がカウンター当番は多い。だから、役員になりたがる人はそんなにいない。

 本当は、去年の秋に役員にって声をかけられていたけど、役員になって勉強する時間が減るのが嫌で、丁重にお断りさせて頂いた。

 そんなこんなで図書委員の先輩には少し顔を会わせづらいんだけど、なぜだか今年も図書委員になってしまったのだった。

 今日の集まりでは、カウンター当番の発表と図書館だよりの配布、それと来月六月に行われる古本市の話をして、いつもよりは少し長い会議を終えた。

 図書館だよりを一度教室に置きに行ってから帰ることになるのは少し面倒だけど、こんな重たいのを持って帰ることもできない。


「今日はちょっと長かったね。これは私が教室に持っていくね。お疲れ様」

「えっ、いいよ。俺が持っていくよ」

「だめだよ、そう言って七海君は前回教室まで運んでくれたでしょ。だから今月は私が運ぶね」


 さりげない仕草で図書館便りを手に持って立ち上がろうとする七海君を制止する。

 七海君が図書館便りをがっしりと掴み、私は必死の形相でその腕を掴む。変な格好で椅子から腰を浮かした私は七海君としばし視線があって……同時に吹き出してしまった。


「あっ、あはは」

「くすくす、どっちも譲る気はないみたいね」

「女の子に仕事を押し付けるなんて出来ないよ」

「あら、七海君は紳士なのね」

「そんなつもりはないけど?」


 私の言葉に七海君は苦笑をもらす。


「分かった、じゃあ、一緒に教室に持っていこう。それならいいでしょ?」


 春の日差しのような温かい眼差しで微笑まれて、私はその妥協案に頷き返した。


「じゃっ、これは俺が持つよ、行こっか?」


 ふわりと微笑む七海君に、なんだか結局は丸めこまれたように感じてちょっと不満だったが、鞄を持って私は七海君と図書館の一階へと続く階段を下りた。



「へぇ~、じゃあ、七海君は教育学部ってもう決めてるんだね」

「うん、父が高校の教師をしてて、物心ついた時には憧れっていうか……単純かもしれないけど、自分も教師って仕事がしたくなったんだ」


 はにかんで首を傾げる七海君に、私は大きく首を振る。


「単純なんかじゃないよっ! えらいと思う、ちゃんと進路のこと考えてて」

「そういう名雪さんだって、決まってるんだろ? 進路」

「うん」


 即答すると、七海くんがふわりと優しい笑みを浮かべる。


「高二の段階で進路決めてるのって結構少ないけど、名雪さんはそうなのかなって思ってたから」

「そうだよね、周りはまだ進路決めてない子のが多いもんね。決まってるって言うと逆に変な目で見られるっていうか……」

「俺、嬉しいよ。名雪さんと仲良くなれそうで」

「私もっ!」


 ぱっと顔を輝かせると、七海君は爽やかな笑顔で笑い返してくれた。

 二年のクラス分けは、一年の時に提出した進路希望調査によって、一組が私立文系、二組が私立理系、三組と四組が国立共通希望の生徒にクラス分けがされている。よって三年でのクラス替えはなくて、今のクラスで二年間過ごすことになる。ちなみに私は三組で、松が四組。一年の時同じクラスだった子も結構いるし、仲の良い結衣とも同じクラスで嬉しいんだけど、美咲ちゃんとも七海君とも仲良くなれてより残りの高校生活が楽しくなりそうでウキウキする。

 そんな気持ち、吹き飛んでしまう出来事が起こるとも気付かずに――



  ※



 協力するといいながら、特に何も出来ないまま日は流れて、すでに六月末。

 期末試験を一週間後に控えて、昼休みも教科書を広げながらお弁当を食べていた私は、ふっと窓の外に視線を向けて、はぁーっと重いため息をついた。


「芹香、どうしたの?」


 一年の時から同じクラスで親友の渡瀬 結衣(わたせ ゆい)が私の視線を追って窓の外を見て、「あぁ~」と納得したような声を出す。


「最近よく一緒にいるの見かけるよね、松岡君と藤堂さん」


 二階の校舎から見える中庭の端、渡り廊下で、松と美咲ちゃんが仲良さそうに話している。

 今まで、松も美咲ちゃんも私を通しての知り合いって程度でしかなかったのに、美咲ちゃんが私に気持ちを打ち明けてくれてから、こうして二人が一緒にいるのをよく見かけるようになった。

 美咲ちゃんは誰もが認める学年一の美少女、松もそれなりに女子には人気がある美男子。注目を集める二人がいれば、噂にもなる。

 結局、協力してなんて私に頼まなくても、美咲ちゃんは一人で松に接触しているし、松もまんざらでもない様子に、一人気張っていた私が馬鹿らしくなる。

 私が手伝うまでもないじゃん……

 美咲ちゃんが最近、私に構ってくれないのが、なんだか楽しくない。

 松はいい奴だし、二人が付き合うなら祝福するつもりだけど、松に美咲ちゃんを取られるような心境の私は、なんだか素直に喜べなくて、眉間に皺を寄せて渡り廊下に視線を向けていると、結衣が的外れな事を言ってくる。


「松岡君とられちゃって寂しいんだ?」

「なっ、違うよっ! 松なんてどうでもいいし。私はぁ~、美咲ちゃんが最近かまってくれないのが寂しいの。松なんかのどこがいいんだろう……?」


 ふてくされてつぶやいた私を、結衣は一瞬驚いたように見て。


「それ、本心で言ってる?」


 真剣に見つめられて、私は速攻で頷いたら、なぜだか結衣はけらけらとお腹を抱えて笑いだした。

 私には切実な悩みなのに、何がおかしいのか私にはさっぱり分からないわ……




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