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好きだから、嫌いになって  作者: 滝沢美月
高2告白編:side芹香
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第68話  カフェ日和



「休みの日に呼び出してごめんね」


 試験明けの翌日土曜日、駅前のファミレスで陽太君と向かいあって席に座る。

 落ち着いたらでいいって言われてたけど、週明けて学校で会う前にちゃんと自分の口から伝えておきたかったから。


「いいよ、話って昨日のことでしょ? 聞かせてって言ったのは俺だから」


 向かいの席でコーヒーに口をつけた陽太君は、そう言って複雑な笑みを浮かべた。


「うん……」


 私は小さく頷いて、テーブルの下に隠された手を無意味に動かす。俯いてから陽太君をまっすぐに見て言う。


「ごめんなさい。陽太君とは付き合えません」


 頭を下げて一息に言い、ちらっと陽太君の顔を見ると、切なげに目元を細めて微笑んだ。


「陽太君にはすごく感謝してるの、私が辛い時に側にいてくれたのはいつも陽太君で、いつも私のことばかり気遣ってくれて、陽太君のまっすぐな想いに答えたいって思った。でも……」


 ずっと辛いのを隠して私の隣にいてくれた陽太君とちゃんと向きあいたい――

 そう思ったけど、私の心を占めるの松のことばかりだった。松のことを忘れようとしない卑怯な自分は、陽太君と付き合うなんて出来ないと思った。


「やっぱり、私は松のことが好きなの……」


 くしゃっと前髪をかき上げて、震える唇に力をこめる。


「陽太君はそれでもいいって言ってくれたけど、松を諦める努力もしないのに、陽太君に甘える卑怯な自分にはなりたくないよ。付き合うなら、やっぱり自分が好きな人とじゃないと――」


 陽太君に告白されて楽な方に流されて頷こうとしたけど、できないって思った。もし、あの時、松が追いかけてきてなかったとしても言おうとしていた言葉。

 どうか誠意が伝わってと願って、強く瞳をつぶる。


「芹香さんらしいね――」


 艶やかな余韻を含んだその声にドキッとして振り仰げば、私の視線をとらえた陽太君の瞳が強くきらめくところだった。

 いつもの春の日差しのような柔らかい笑みを浮かべた陽太君が眩しくて、切なくなる。


「いいよ。断られておきながら、しつこく友達としてでもいいってはじめたのは俺だから。あの時――頷いてほしいと願いながら、芹香さんは頷かないんじゃないかって思ってた。ううん、違うな。頷かない芹香さんだから好きになったのか」


 首を傾げて言った陽太君が、うっとりするほど甘い瞳で私を射止めるようにまっすぐ見つめてくるから、ドキドキしてしまう。


「ありがとう……」


 甘い陽太君の言葉に照れて、もごもごとお礼を言った。


「えっと、それとね――」


 私はもう一つ、陽太君に伝えなければならないことを口にした。


「松と……付き合うことになりました……」



  ※



「なんで、こいつがいるんだ……!?」


 ちょっと不機嫌な松の第一声に、私は苦笑するしかなかった。

 陽太君と会った後、私は結衣と約束していた二丁目のケーキ屋さんに来ていたのだけど――

 結衣と八木君が並んで座って、向かい側に私。その横には陽太君がふんわり笑顔を浮かべて座ってる。

 松はぎゅっと眉根を寄せた顔で口をパクパクしながら、陽太君を指さした。

 そんな松を結衣がにやにやして見つめ、八木君が人当たりのいい笑顔を浮かべている。

 陽太君と八木君ってふんわりキャラで似てると思ってたけど、こうして見ると陽太君は天然で、八木君はちょっと後ろに黒いオーラが見える気がするのは、八木君が結衣を手なづけてるからかしら……?

 思考が脱線してることには気づかず、ぼんやりとそんなことを考えてると、松がぶるぶる震えて声をあげる。


「ってか、なんで菱谷までいるんだよ……っ!!」


 松が振り返った視線の先、お店の入り口横のショーケースの前で菱谷君と美咲ちゃんがケーキを選んでいた。

 松の声にこっちを見た菱谷君はしれっとした口調で言う。


「ケーキ食いに来て悪いかよ~」


 ちらっと視線を正面に向けると、八木君が「ん? なに?」って笑顔で首を傾げた。

 今日、私達がこのお店に来ることを菱谷君が知ってるのは八木君がリークしたんじゃないかなって思うけど、怖くて聞けない。ってか、私も人のこと言えないし……

 つぅーっと背中に嫌な汗が伝う。

 昨日の電話の時に美咲ちゃんに遊ぼうと言われて、結衣とケーキ屋さんに行く約束してるからって言っちゃったんだよね。「一緒に行ったらダメかな?」って可愛い声で美咲ちゃんに聞かれたら、断るなんてできないじゃない?

 いちお結衣には美咲ちゃんも一緒でいいか確認したんだけど、松にはそのことを伝えるのを忘れていた……

 それに陽太君も。さっきまでファミレスにいて、お昼一緒に食べようって誘われたから、この後、松達と会う約束してるって言ったら、一緒に行きたいって言われて……以下略。

 菱谷君がいたことには私もびっくりしたけど、美咲ちゃんや陽太君を連れてきてしまった自分がどうこう言える立場じゃないし。むしろ、菱谷君もいてくれてよかったというか……

 ケーキを注文し終わった菱谷君と美咲ちゃんが席に戻ってきて座ると、結衣がにやっとした笑みを浮かべて言う。


「まあ、いいんじゃない? ケーキはみんなで食べた方がおいしいんだから」


 その言葉に、みんな頷いたり笑顔を向ける。松をのぞいては――

 私は立ち上がり、松の背中を押しながらショーケースに向かう。


「ほら、私達もケーキ注文しよう」


 私はケーキを選んでいるふりをして、ちらっと松を見る。松は不機嫌を露わにした顔で、ショーケースじゃなくそっぽを向いていた。


「松、怒ってる……?」


 ちょんと松の服の裾を引っ張って尋ねると、こっちを見た松がふいっと視線をそらす。

 あっ、怒ってる……


「ごめんね、今日のことを美咲ちゃんと陽太君に言ったのは私なの。結衣と八木君もいるからいいかなって……」


 そう言っても松がずっと黙ってるから、泣きそうになる。こんなことで怒らせたくなかったのにな――そう思っても、どうしていいかわからなくて困っていたら。

 ぽんって頭を撫でられて振り仰ぐと、そこに決まり悪そうに目元を染めた松が私を見つめていた。


「怒ってないよ……」


 ぶっきらぼうな言い方だけど、松がこういうことに嘘をついたりしない人だって知ってるから、胸のつかえがすっととれる。


「芹はケーキなにするのか決めたか?」

「んー、チーズケーキかモンブランで迷ってるんだよね」


 松からショーケースに視線を映して言うと。


「じゃー、俺、チーズケーキにするから、芹はモンブランな」

「えっ……」

「半分ずつ食べればいいだろ?」


 そう言って笑った松の左のほっぺにくりっとくぼんだえくぼを見つけて、微笑んだ。




陽太君、芹香に天然って言われちゃってます……

次話、ヘタレ松岡、みんなにボロクソ言われます(笑)

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