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好きだから、嫌いになって  作者: 滝沢美月
高2告白編:side松岡
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第60話  それでも好きだから



 図書館を出た俺は全速力で渡り廊下を突っ切り、部室棟に駆けこんで制服を脱ぎすててトレーニングウェアを着こむ。

 今日は部活は休みで個人メニューはすでに朝練で消化していたが、どうしようもなく走りたい気分で、俺は部室を飛び出した。

 サッカー部が練習している校庭の外周を走り、くたくたになるまで何周も走り続けた。

 本当に、足を動かすのがおっくうに感じるまで走って、へとへとになって部室に戻る。

 何も考えないでがむしゃらに走って、頭がクリアになる。

 何度も芹に気持ちを伝えようとして、そのたびにタイミングを逃して、それでも今回の決意はいままでとは違う。

 逃げられたんなら、逃げられないように追い詰めてやる。芹とちゃんと話すために、もう一度芹に会いに行くことを固く決意する。

 走ることになら、何も考えないでこんなにがむしゃらになれるのに、恋愛ではいつもぐだぐだ考えて、尻込みして――

 だけどくたくたになるまで走って、今までうだうだ考えてたことが馬鹿らしくなる。

練習しないとタイムが伸びないように、恋愛だってがむしゃらにならないと、上手くいきっこないんだ。

 また逃げられたとしても、芹が誰かを好きだとしても――それでも俺は芹が好きなんだ。俺の気持ちは変わらない。

 たったそれだけのことに気づくのに、すごく遠回りをした気分だった。



  ※



 翌日から俺と芹の攻防戦が始まった。

 俺が三組に行くと、芹は俺を避けるように教室から出ていったり、話しかけようとすると逃げていく。話があると言っても聞く耳を持たず、芹を捕まえられずに、図書館で逃げられてから三日が経っていた。

 必ず芹をつかまえると決めた俺は、やるべきことがはっきりとしてもう迷ったりしない。

 今日こそは絶対に芹と話しをするために、ぬかりなく準備する。まず、放課後に芹が図書委員会の当番や委員会の集まりがないことをクラスの図書委員に確認し、今日一日は休み時間も昼休みも三組へはあえて行かない。そうして、HR終了と同時に三組へと向かった。

 俺の願いが通じたのか、うちのクラスのHRはかなり早く終わって、鞄を持って三組に行くと、扉が閉められていてまだHR中のようだった。俺は教室の中が見える位置の廊下の窓側に立ち、三組のHRの様子を眺める。

 日直の掛け声で椅子を引く音が教室に響き、帰りの挨拶が済み教室がざわつきだしたのを確認して、俺は三組の後ろの扉を開けて教室に入る。

 教壇にはまだ三組の担任もいたが、HRは終わってるんだから気にしない。クラスに侵入してきた俺に、ちらほらとクラスの視線が向けられるが、それすらも気にせず、俺は窓側から二列目の中ほどの席の芹から視線を外さない。

 芹は椅子に座って荷物をまとめているところだったが、俺が教室に入ってきた事に気づいて俺を驚いた顔でずっと見ていた。

 とんっと芹の机に手をついて芹を覗きこむと、ぎこちない笑顔で俺を振り仰ぐ。


「あっ……、松、どうしたの?」


 芹の視線がちらっと教室の端に移動したのに気づいたが、俺は芹から視線を外さずに言う。もちろん、芹の腕をつかまえて。


「一緒に帰るぞ――」


 あたふたと俺を見上げる芹に返答する間も与えず、俺は芹の荷物を手早く詰めて、右手で芹と自分の鞄を持って、左手で芹の腕を引いて教室の扉へと向かう。

 芹だけじゃなくて、何人かの生徒が驚いた顔でこっちをみてひそひそと話しているが、今はそんなことはどうでもよかった。

 教室を出て階段に向かうと、芹が足を踏ん張って止まろうと抵抗したが力で敵うはずがない。


「待って、私、今日は図書――」


 芹が切羽詰まった声で言ったのを、強い口調でバッサリと切り捨てる。


「委員の当番は今日はないだろ。うちのクラスの図書委員に当番表見せてもらったから知ってるからな。嘘つくなよ」


 そう言うだろうと思っていたけど、予想が当たったことが可笑しくて――少し悲しかった。

 俺の言葉に芹が俯いて黙ったのを見て、俺はゆっくりと歩き始める。

 少し強引なやり方かもしれないけど、こうでもしないと話もさせてもらえないのだから、仕方がないだろ。

 図書館とか中庭とか人がいるところじゃなく、校内で二人きりで落ち着いて話せる場所はないかと考えて、部室を思いついた。

 部室棟に向かう渡り廊下を通っている時、俺に腕を引かれて大人しくついて来ていた芹が、小さく「ヒクッ……」って嗚咽をもらしたのに気づいて、胸が苦しくなる。

 泣くほど俺と話すのが嫌なのかと思うと、辛かった。

 涙のわけを聞きたかったが、必死に涙を我慢している芹に、なんと声をかけたらいいのか分からなくて、部室につくころにはもう泣いてなくて、俺は気づかなかったふりをするしかなかった。


「今日、部活休みで誰も来ないから。ここならゆっくり話せる……」


 もっと普通に話す予定だったのに、芹の涙に動揺して声がかすれる。

 部室のボタン式の鍵を開けて、スライドドアを押さえて電気をつけ、芹を中にうながす。

 部室棟は二階建ての白い建物。スライドドアを開けると靴を脱ぐスペースと靴棚、その先に一段高くなったカーペット敷きの約八畳のスペースがある。壁は掘り込み式の棚で、陸上で使う用具やスパイク袋、ユニフォームなど部活の道具と部員の荷物が入っている。

 芹が上履きを脱いで上がったのを見て、俺は押さえていた扉から中に入り扉をゆっくりと閉める。

 芹に話したいことはいろいろあって、一番言いたいこともちゃんと考えて、何度も練習して、ちゃんと言うつもりだった。それなのに俺の口から出てきたのは、俺も予想していなかった言葉だった。


「芹は……あいつのこと好きなのか――?」




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