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好きだから、嫌いになって  作者: 滝沢美月
高2告白編:side松岡
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第58話  近くて遠い存在



 学園祭が終わると、すぐに模擬試験が二つも立て続けにあり、部活命の俺でも少しは勉強しないとヤバイという気持ちになる。

 十月の初めには秋の大会もあって、部活の練習時間も長くなり、部活がない日も自主練習をしたりして帰りが遅い日が続いていた。

 学園祭の時――芹を保健室に運んだ俺は、そのまま芹に会うことはできなかった。

 不甲斐ない自分が情けなくて、あいつに嫉妬してる無様な姿を見せられなくて――

 それに、芹に構わないでと言われたことを思い出して、どう芹と接すればいいのか分からなくなる。

 伝えたいことはたくさんあるのに、俺のことを避けてる芹を捕まえて無理やり話をするのは、自分の気持ちばかりを押し付けるようで、それはダメだと思う。

 とりあえず、模試が終わってから……そう思って。

 模試が終わると、大会が終わってからにしよう――そうやってずるずる芹に告白することを先送りにしていく。でも。

 一緒に帰ることも遊びに行くこともなくなって、三組に芹に会いに行くこともできなくて、芹を側に感じられないことにやるせなくなる。

 このままではいつまでも芹と距離を置き続けて、先に進むこともできない。

 前に進もうって決意したはずなのに、いざ、その状況にすすめることになると怖気づいて……こんなんじゃ前の情けない俺のままでダメだって思う。

 俺の背中を押してくれた美咲のためにも、俺自身のためにも、ちゃんとしなきゃいけないと思うのに、俺と芹の間に気まずい距離が出来ていて、そのことに愕然とする。話したいのに話させてもらえなくて、どうしたらいいのか分からなくなる。

 三組に行くと、芹がちょうど渡瀬と一緒に教室を出て行くところで声をかけそびれ、その様子を側で見ていた美咲が苦笑する。

 

「松岡君、お昼、一緒に食べない?」


 そう言って美咲は俺を中庭ランチに誘って、そこで話を聞いてくれた。


「松岡君、もっと強気でいかないと」


 涼しげな顔でかなり強気な発言をされて、口元が引きつる。

 昼メシを一緒に食べるという約束も学園祭までだったが、美咲はこうして昼メシを食べながら俺の相談に乗ってくれる。他の場所で話すよりも、恒例となってしまった中庭ランチ。今更、俺と美咲が一緒にいるのを見ても、これ以上変な噂がたつことはないだろうっていう理由。


「…………っ」


 ぐうのねもでない俺に、美咲はため息をつく。呆れている、そんな表情すら綺麗に整っていて、絵になるからすごいよな。


「芹香ちゃん、最近は七海君と一緒にいることが多いわよ」


 首を横に傾げて美咲は言い、弁当のおかずをぱくっと口に入れる。


「七海って……」


 つぶやいた俺は、顎に手を当てて視線を草の生える地面に向ける。

 知らない名前だが、芹と仲が良くて俺が警戒している人間なら一人いる。学園祭で芹に駆けよってきて、保健室の外ですれ違った。そいつの顔を思い出して、ぎゅっと眉根を寄せる。


「芹と同じ図書委員のヤツ、か……?」

「そうよ。芹香ちゃんと七海君、すっごくいい雰囲気。ぐずぐずしてると二人、付き合いだすかもよ?」


 美咲の言葉にぎりっと奥歯を噛みしめる。

 七海ってヤツを見た時から、ずっと頭に警戒音が鳴り続けていた。七海が芹を好きなんじゃないかって思ったし、もしかしたら、芹も――

 嫌な想像に頭を大きくふって、手に持っていた菓子パンの袋を破ってかぶりついた。


「今日、言うよ――」


 俺はぐっと拳を握りしめて、決意の籠った声で言った。



  ※



 放課後、掃除当番が長引いて焦って三組に行くとすでに芹の姿はなくて、さぁーっと冷たいものが胸を襲う。

 もう帰ったのか、それとも校内にまだ残ってるのか――

 言おうと決めた、今日、芹を捕まえて言わなければ、俺はまた尻ごみして気持ちを伝えることも、芹と普通に話すこともできなくなりそうで、俺は焦れる気持ちに教室内を見回して、去年の同じクラスだったヤツに芹がどうしたか聞いてみようと思っていたら、ぽんっと後ろから背中を叩かれて、ばっと振りかえる。


「わっ、ビックリ……」


 ゴミ箱をもった美咲が後ろに立っていて、瞳を大きく見開いていた。

 きっと、その時の俺はかなり切羽詰まった顔をしていたんだろう。


「美咲……、芹ってもう帰っちゃったのか?」

「私も掃除だったから……ちょっと待ってて」


 そう言った美咲は、教室の後ろにゴミ箱を置きに行き、窓側で話している数人の男子生徒に声をかけて何かを話して戻ってきた。


「芹香ちゃん、今日も図書館に行ったみたい」

「図書館……?」


 委員の当番なのかとも思ったが、美咲の言葉に引っ掛かる。確か、「今日()」って言ったはずだ……

 俺が眉根を寄せて見つめると、美咲は首を横に傾げて苦笑する。


「松岡君は放課後は部活で図書館なんか行かないから知らなかったと思うけど……」


 そう前置きして美咲は言った。


「学園祭が終わってから、芹香ちゃんは七海君と毎日、図書館で勉強してから一緒に帰ってるみたい。一度、図書館で見かけて芹香ちゃんに確かめたから……」


 そう言って申し訳なさそうに瞳を伏せる。

 芹が毎日、あいつと……?

 美咲がそのことを知っていて俺に言わなかったのは、きっと俺を不安にさせまいと黙っていたんだろう。ただでさえ気持ちを伝えられなくてぐだぐだして、芹と普通に話す事も出来ない俺に、やきもきさせてしまっただろう。

 ちょっと前までの俺なら、きっと芹に会いに行くことも出来なかった。でも。


「行くよ、図書館――」


 進むしかなんだよ――

 尻込みしそうになる自分を叱咤して、顔をあげる。

 もし、もう手遅れだとしても、俺はちゃんと芹に気持ちを伝える。伝えないと、何も始まらないんだ――




松岡、三度目の決意!


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