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好きだから、嫌いになって  作者: 滝沢美月
高2学園祭編:side松岡
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第53話  あと二日



 芹を追いかけられなかった日からあっという間に時間が経って、ついに学園祭が始まった。

 期間限定の付き合いが終わるまで、あと二日――



 学園祭一日目は部活の出店で当番で、校庭に張られたテントの下に大きな鉄板で焼きそばを作る。格好は黒Tシャツにエプロンとバンダナという毎年の決まり。全部自前でそろえるから、エプロンもバンダナもみんな柄はバラバラだけど、いちおう統一性をもたせてるってことで。

 しかし、黒Tは暑い……

 試食会ではこの世の食いものとは思えない不味さだったけど、なんとか売れる味になった。ってか、ほんと、どうやったらあんなに不味く作れるのかが不思議だ。

 藤堂さんは午前中クラスの当番と言っていたから、休憩中に菱谷と一緒に少し覗きにいった。

 三組の執事&メイド喫茶はそれなりに客が入っていた。きっと、本格的な衣装がすごく目を引いているのだろう。美人の藤堂さんが当番だからなおさら、人が多いみたいだった。

 菱谷もちゃっかり藤堂さんのメイド姿を写メしてたが、俺は芹もこのメイド服を着るのかな……とか想像してしまった。



  ※



 昼の混雑した時間が過ぎた頃、芹と渡瀬がやってきた。


「やっほ~」


 渡瀬が片手をあげて明るい声で言い、俺は焼きそばをいためる手を止めて、首に下げていたタオルで汗を拭った。


「藤堂さんと芹香ちゃん、いらっしゃい」

「焼きそば二つね」


 渡瀬の注文に、いま鉄板の上で出来上がったばかりの焼きそばを透明のトレイに詰める。


「芹、今休憩中?」


 追いかけて行った時、俺には関係ないって言われてへこんだけど、でも、それで気まずくなるのは嫌だった。なにより、芹がこうして陸上部の出店に来てくれたことが嬉しくて、心なしか頬が緩んでしまう。


「うん、私は今日も明日も午前中担当だから」

「そっか」


 芹も普通に答えてくれたことに、胸の内で安堵する。俺も明日の午後は休みだけど、藤堂さんと回る約束していることは黙っていた。

 焼きそばをつめたトレイを輪ゴムで止めてそこに割り箸を挟み、持ちやすいようにビニールに入れる。ふっと視線をあげると。


「松は? 美咲ちゃん午前中接客当番だったと思うんだけど、見た? 美咲ちゃんのメイド姿」


 小首を傾げて芹がそう言ったから、俺は視線を横にそらす。

 分かってるけど、芹に藤堂さんとのことを聞かれるのは複雑だった。

 黙ったまま袋を差し出すと、芹がかわりに焼きそばの代金を渡して来たから、それを手で押して断る。


「いいよ、俺のおごり」


 芹が来てくれたことが嬉しかったし、今年の学園祭は一緒には回れないと思うと、このくらいはしたかった。


「でも……」


 芹は金を払わないことを渋っていたけど。


「あー、芹香ちゃん、ほんといいからね」

「そう? それなら……ありがとう」


 菱谷もいいよっていうのを聞いて、素直にお財布をしまった。なんだかそれが気に食わない。

 俺が言った時はすごく渋っていたのに、菱谷の言うことは素直に聞くのかよ。

 きっとその時の俺は、すごく不機嫌な顔をしてたと思う。そのことに芹だけが気づいてて、俺の方をちらちら見ていた。そんなことに気づいていない渡瀬が能天気な声で話しかけてくる。


「ねっ、松岡君は休憩いつなの?」


 俺が答えるよりも先に、横から菱谷が出てきて答える。


「俺達はさっきまで休憩だったから見てきたよ、藤堂さんのメイド」


 からかう口調で言って、俺の脇腹を菱谷が肘で突く。口元がにやついてるのを見て、俺は菱谷から視線をそらす。

 二学期が始まって――たぶん原因は、中庭の一件だろうけど――俺と藤堂さんが付き合ってるという噂はいっきに校内に広まったらしい。まあ、藤堂さんの信者は多そうだから……

 当然、菱谷もすぐに俺のところに真相を確かめに来た。俺が好きなのは芹だって、自分の中の強い気持ちに気づいて、藤堂さんにもそのことを伝えた後だったけど、菱谷はもともと俺が藤堂さんを好きだと誤解してるし、付き合っていないと言えば嘘にもなるし、無言で肯定するしかなかった。


「あー、そうなんだ。じゃ、頑張ってね」


 芹は視線を泳がせて言い、店から離れようとしたが、芹の腕を渡瀬が組んでいて、渡瀬が動こうとしなかった。それから、口元ににやっとした笑みを浮かべる。


「芹香が松岡君に話があるって言うんだけどぉ~」


 明るい口調で言って、ちらっと渡瀬が芹に視線を向ける。

 芹が俺に話――?


「結衣っ!」


 芹が慌てた様子で渡瀬の名を呼んで、二人は顔を寄せ合ってひそひそと小声でなにかを話す。

 なんだ……?


「芹……?」


 話って何だろうって思って、探るように首を傾げると、芹が勢いよく腕を振ってあたふたした口調で言う。


「なんでもないから、気にしないで。じゃあね」


 ひきつった笑みで早口で言い、芹は渡瀬の腕を引いて行ってしまった。




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