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好きだから、嫌いになって  作者: 滝沢美月
高2学園祭編:side松岡
52/76

第52話  気になって



 芹と藤堂さんとの三人で始まった昼休み。

 つぅーっと冷や汗が背中を伝ったが、藤堂さんがすごく自然に話しかけてきて、芹も普通に話してくれて会話は弾んで、楽しく弁当を食べることが出来た。

 結局、なぜ芹も呼んだのか分からなかったが、今回だけだろうと思って深く考えなかったら……次に、中庭に呼ばれた時も芹が一緒だった。

 ええっと……マジで、藤堂さんはなにを考えてるんだろうか……?

 しかも、中庭には俺達の他にも昼メシを食べてる生徒はたくさんいて、なぜか俺達は注目の的になっていた。

 藤堂さんとの約束でこうして週二回昼を一緒して、昨日の日曜日も一緒に出かけた。これも約束だったから。


「昨日は楽しかったね。また行きたいなぁ」

「また行こうぜ」


 俺はにこっと笑う。昨日は藤堂さんのリクエストでショッピングモールに買い物に行った。女の子の買い物って長いけど、俺は結構楽しめたから、今度は芹とか菱谷とかみんなで行くのも悪くないと思って。

 俺の中で、芹への気持ちが揺るがないものとなって、藤堂さんと自分の関係は友達だと言う認識をしてしまったせいか、期間限定のお付き合い中だというのに、俺にその実感はあまりなくて、一緒に昼メシ食べることにもほとんど抵抗はなかった。

 まあ、俺って交友的だし? 芹とも、気持ちを自覚する前の本当に友達だと思ってた時も、一緒に出かけたりしてたから、藤堂さんとも普通に友達感覚だった。

 だから、話しかけられれば普通に話すし、笑いかけられれば笑い返す。

 ただ――芹が今日ほとんど話してないことを視界の端にとらえて、藤堂さんと会話しながらもずっと芹のことが気になっていた。

 芹はもくもくと弁当を食べて、藤堂さんに話を振られれば頷いたりしているが、なんだか元気がないように見えた。

 だから、芹がため息をもらしたのも気づいたし、蓋を閉じた弁当箱の中身がぜんぜん減っていなかったのも知っていた。


「芹香ちゃん、もうご馳走さま?」


 芹の行動に首を傾げて藤堂さんが尋ね、芹が複雑な笑みを浮かべる。


「うん……ごめん、先に教室戻るね……」


 その声も、元気がないように聞こえる。芹は弁当箱を片づけてシートから立ち上がり、渡り廊下の方へと歩き出してしまった。

 その後ろ姿を見つめていると、澄んだ声がかけられる。


「芹香ちゃんのことが、気になる――?」


 振り返り藤堂さんを見ると、そこにはずっと浮かべていた笑みが消えて、真剣な表情で俺を見ていた。その瞳に一筋の憂いが浮かんで、俺は言葉に詰まる。


「…………っ」

「追いかけたいなら、追いかけてもいいのよ」


 首をこくんと傾げた藤堂さんに、俺は何か言うよりも先に、体が動いていた。

 藤堂さんがどんな気持ちでそう言ったのか考えることよりも、藤堂さんに気を使うよりも、芹のことが気になってしかたがなかった。



 俺は中庭と渡り廊下を突っ切って、芹の後ろ姿が消えた方へと全速力で駆けた。陸上部の俺が本気を出せば、歩いている人間に追いつくのなんてすぐだった。

 芹を見つけた俺は、腕を掴んで引き寄せる。だが、芹は足を地面に踏ん張って、振り向かなかった。


「芹……?」

「なに? 松」


 なんでもないような声なのに俯いた芹が泣いているような気がして、胸が締めつけられる。

 どうして泣いているのか分からなくて、そんな自分がもどかしいし、振り向こうとしない芹が俺を頑なに拒絶しているのが伝わって、俺は渋々掴んだ手を離した。


「あ、いや……最近、芹、元気なくないか?」


 最近――というほど、最近は芹と話したりしていないし、三組にもなんとなく行きづらくて行っていない。


「そんなことないけど?」

「弁当も半分以上残して、そんなことないわけないだろ?」


 声に冷たさが帯びているのは、俺のことが嫌いになったからなんだろうか。胸がズキズキ痛む。それでも、俺は芹のことが心配だったから。芹の顔をちゃんと見て話がしたかったから。


「こっち向けよ、芹香」


 自分でもなんて情けない声出してんだよって思う。けど、切羽詰まってんだからしかたないんだ。

 芹は俯いたまま振り返り、その勢いのまま俺の胸をとんっと押した。


「松には関係ないでしょ」


 そう言って、芹は走って行ってしまった。

 俺は、突き放すような冷たい声音に心臓が凍りつくような心地で、これ以上後を追いかけることも身じろぐことも出来なかった。




松岡side始まってから、松岡株が急暴落……

ヘタレ男を応援してあげてくださいっ!!


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