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好きだから、嫌いになって  作者: 滝沢美月
高2学園祭編:side松岡
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第51話  背中合わせの二人



 好きだと思って、それだけで満足で。

 友達のままでもいいと思って、足踏みして。

 やっと気づいたのは、藤堂さんと期間限定の付き合いをはじめてから。俺が芹じゃない誰かを好きだと誤解されることが、胸がつぶれるほど苦しかった。

 そんな誤解を、芹にしてほしくなかった。そう思ってはじめて、俺の中の気持ちがはっきりする。

 俺は芹が好きだ。芹が俺のことをどう思っていても、俺の気持ちは変わらない。もし、芹に気持ちを受け入れられなくても、今の関係を壊すことになっても、前に進もうと思う。もう迷わないと決めたんだ。

 そのために、俺は藤堂さんに会いにいった。


「松岡君から連絡くれるなんて、はじめてだよね?」


 藤堂さんは花が綻ぶような笑顔を浮かべて言い、俺は罪悪感に胸がちくちく痛んで、それでも言わなければならないことを口にする。


「藤堂さん、ごめんっ」


 勢いよく頭を下げて、俺は危うくテーブルに額をぶつけるとこだった。

 駅前の喫茶店の中、向かいの席に座った藤堂さんは瞳を大きく見開いている。俺はごくんと喉を鳴らして、言葉を続ける。


「俺はやっぱり芹が好きだ。藤堂さんとの付き合いが終わったら、俺は芹に告白するよ。芹が俺のこと友達としか見てなくても、今の関係が壊れるとしても、もう自分の気持ちを押さえることはできない――」


 気持ちを伝えたい――それが俺の今の気持ちだった。

 藤堂さんは瞳をゆっくり数回瞬いて、首をコクンと傾げる。その仕草すら可憐な印象を受ける。


「それは……私とはまだ付き合ってくれるってこと……?」


 期間限定の付き合いをはじめて約三週間。その間に二回、藤堂さんとは会っている。一回は部活帰りに喫茶店で、もう一回は休みの日に水族館に一緒に行った。普通に楽しかったし、もし俺が芹の事を好きじゃなかったら、このまま上手く付き合えるだろうと思った。初めて誰かと“付き合う”ということが、こういうことなんだと実感して。

 藤堂さんが、芹を好きなままでも少しでも可能性があるなら振らないでほしいと言ったその言葉が胸にしみる。

 今なら、藤堂さんがこの付き合いでどんな結果になろうとすべてを受け入れる覚悟でそう言ったんだと分かってしまったから、「はい、これでおしまい」って俺の気持ちだけを押しつけることはしたくなかった。

 それに一度した約束をたがえるのには抵抗があって、約束通り、学園祭の日までは俺と藤堂さんは彼氏彼女の関係を続けるべきだと思った。

 ただ、俺の中でずっと迷ってた答えを見つけて、そのことだけは藤堂さんにちゃんと伝えておきたかったから。


「学園祭の日までって、約束だから――」


 それに、芹が俺と藤堂さんが付き合ってると誤解してるこの状況で、すぐに告白しても信じてもらえそうにないから。学園祭が終わって、少し期間が過ぎたら、ちゃんと伝えようと思った。

 藤堂さんは俺の言葉を複雑な笑みで受け止めて、「分かった」と言った。それから、放課後は習い事があって一緒に帰れないから、週に二回は昼メシを一緒に食べること、もう一度どこかに二人で出かけようと約束した。

 まさかその昼メシの席に、芹を誘うとは想像もしてなかった……



  ※



 始業式の翌週からは普通に六時間授業で、一時間目が終わった頃に藤堂さんから昼メシを中庭で一緒に食べようとメールが来た。

 空腹でぼぉーっとする四時間目の倫理が終わって、俺は指定された中庭へと向かう。

 今日はめずらしく母さんが弁当を作ってくれたから購買に用事もなく、中庭につくとまだ藤堂さんの姿はなかった。

 中庭にはちらほらと昼メシにする生徒がいて、俺は適当に良さそうな場所を探す。渡り廊下からは奥の方になるが、桜の木の下のここがいいだろう。

 ぽんっとお弁当を置いて座って待てると、重なり合った葉の隙間から日の光が差し込んで、ゆらゆらと少し蒸し暑さの残る風に揺らされてキラキラと反射している。

 中庭なんてめったに来なかったから、こんなに気持ちのいい場所だとは知らなかった。

 つい、横になって寝たくなる気持ちをどうにかして起きていると、藤堂さんがやってきた。


「松岡君、お待たせ」


 藤堂さんが俺に手を振ると、近くにいた生徒が俺と藤堂さんに交互に視線を向ける。藤堂さんはバック型に畳まれたピンクの花柄のレジャーシートと弁当袋を提げて、俺が座っていた場所にレジャーシートを広げてくれた。

 木漏れ日の下にピンクのレジャーシートは映えて見いってしまう。


「お邪魔します」


 そう言ってシートに腰をおろす。


「中庭はあんまり来ないけど、気持ちいね」

「夏はちょっと暑いけど、日陰だとちょうどいいよね」


 木の下に場所取って正解だった。そう思った時、藤堂さんの視線がふっと渡り廊下の方へと動うから、つられて視線を動かすとそこに芹が立っていて、目を大きく見開く。


「あっ、芹香ちゃん、ここだよ」


 藤堂さんが腰を浮かせて手を振る。その言葉にビクッと肩を震わせ、瞬きすることも忘れていた。

 それくらい、芹が現れたことに驚いたんだ。

 ふっと笑みをこぼして俺を見た藤堂さんが わずかに頬を染めてふわりと微笑む。


「芹香ちゃんも一緒にって誘ったの。いいよね?」


 それって、俺に選択肢はあるんだろうか……?

 どうして芹を誘ったのか分からないけど、今、藤堂さんと付き合ってるとしても俺は芹が好きで、断るなんて出来るわけがない。

 俺が小さく頷くのを見てにこっとした藤堂さんが芹の手を引いてレジャーシートに座らせる。

 俺と藤堂さんが横に並び、その向かいに芹が座る――この構図はなんなんだろうか……?

 気のせいじゃなければ、芹の視線がめっちゃ泳いでる……

 藤堂さんは一体なにを考えてるんだ――!?




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