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好きだから、嫌いになって  作者: 滝沢美月
高2編:side芹香
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第5話  だから、恋愛対象外!



 で……、私はなんでこんなところにいるのだろう……?

 私の前には、三人の女子。真ん中の子は両サイドを可愛らしいリボンでとめ、背中に長い黒髪が揺れている。横の二人はショートと二つ結びの子。その背後には新緑の木々が立ち並び、私の後ろは白い体育館の壁が……

 お昼休み、一人で購買に紙パックのジュースを買いに行ったらこの三人組に声をかけられて、気が付いたら体育館の裏に連れて来られていた。


「えっと、話ってなにかな?」


 戸惑いながらも、優しく問いかける。

 短めのスカートをはいたロングヘアの子を見て、その胸元の学年章が緑であることに気づく。学年章は青、赤、緑の三色があって入学年度によって色が決まっていて、その色を見ればどの学年なのか分かるようになっている。今はうちの学年が赤で、青は三年生、緑は一年生。つまり目の前にいるのは、下級生ってことである。

 えーっと、一年生に知り合いはいないし、呼び出される心当たりもないんですが……?


「名雪先輩」


 名前を呼ばれて、ぴくっと緊張に肩を揺らす。私はこの三人組を知らないのに、なんで私の名前知ってるんだろう?

 そういえば、初めに声かけられた時も名前で呼ばれたっけな。

 そんなことを頭の片隅でぼんやりと考える。

 体育館の裏っていうこの状況は、どこか他人事のようで、自分の身に降りかかっている事とは思えなくて、冷静でいられる。


「名雪先輩って、松岡先輩のなんなんですか?」


 ロングヘアの子がきっぱりとした口調で言って、私は大きく目を見開いた。


「えっ……?」

「松岡先輩って、誰が告白しても断ってるんです。それって名雪先輩と付き合ってるからですか?」

「待って待って、どうして私と松岡君が付き合ってるってことになるの?」

「松岡先輩と名雪先輩って普段からよく一緒にいるのを見かけるんですよ、先週すごい仲良さそうに帰っていたし、ねぇ……」


 ロングヘアの子がそう言って相づちを求めると、横の二人が頷く。


「えっと、私と松岡君は友達だよ?」


 なんとなく、ここに呼び出された理由が分かって、無難な答えを選ぶ。


「本当ですか……!?」


 間髪いれずにショートヘアの子が瞳を揺らしながらすごい意気込んで聞いてくるから、その迫力に一歩後ずさって背中が体育館の壁に当たり、ひやりとする。


「私達、松岡先輩のことが好きなんです」


 そんなことだろうとは思ってたけど、それを私に言われても……


「松岡先輩とはただの友達だって言うなら、あんまり松岡先輩の側にいないで下さい。松岡先輩のこと好きな子は、みんな名雪先輩に松岡先輩を取られちゃうんじゃないかって、はらはらしてるんですからっ!」



 言いたいことだけ一方的に言って、三人組は私を残して去って行ってしまった。いったいなんだったんだろう……

 いや、うん。言われたことは分かる。私と松が仲良すぎるのが気にくわない女子がいる、だからあんまり松の側に近づくなと……

 ……

 …………っ

 なんでそんなこと、あの子達に言われなきゃいけないのっ!

 だいたい松には好きな人がいるし、私と松はお互い恋愛感情なんて持って接してないんだってばっ。恋愛対象外なの!

 私はそういうんじゃなくてもっと人間として松のことが好きで、いい友達なんだよ。

 友達を辞めろ――みたいなことを言われて、私は頭にきてしまう。だけど、ふっと冷静になって彼女達の立場になって考えてみると、なんだか複雑な気持ちになる。

 私だって、結城君が他の女の子と仲良さそうに話しているのを見た時は、不安な気持ちになった。

 自分の好きな人の側に仲のいい女の子がいるのは、女の子にとって、とても脅威なことなんだ。自分も体験したことがあるから、彼女達の気持ちが分かり過ぎてしまって、彼女達の行為を一方的に攻めることも出来ない。

 私はその場にしゃがみ込んで、くんだ腕と膝の中に顔をうずめる。

 う―……、私にどうしろと……?

 しばらく、松と距離をとった方がいい――?

 考えても答えは見つからなくて、仕方なく考えるのをやめる。松の側にいて、その時、自分が感じたように行動するしかないんだ。

 ぱんぱんっとスカートを払って立ち上がった私は、体育館裏から校舎に続く渡り廊下の方へと歩いて行って、ぴたっと足を止めた。

 そこにいたのは、美咲ちゃんと松。

 滅多に笑わない美咲ちゃんは花がほころぶような可憐な笑みで松に笑いかけて、松も嬉しそうに笑ってなにか話していた。

 松は照れているのかわずかに頬が染まり、優しげに美咲ちゃんを見つめる。そんな愛おしそうな松の顔を見るのは初めてで、呆然と見つめてしまう。

 絵に描いたような美男美女の二人が並んでいるのはお似合いで、華やかな空気に包まれている。

 あの三人組……私なんかより美咲ちゃんに気をつけた方がいいんじゃないだろうか?

 だって、あんな可愛らしい笑顔を向けられたら――しかも滅多に笑わない美咲ちゃんの貴重な笑顔だよっ! 男の子なんていちころじゃないの? 松だってまんざらでもない感じだし。まあ、美咲ちゃんが松のことをどう思ってるかは知らないけど、素直にお似合いだと思ってしまった。

 身じろぐことも出来ず二人に見とれていた私。ふっと視線をこっちに向けた美咲ちゃんが私に気がつく。


「あっ、芹香ちゃん!」


 その声に、松がビクっと大きく肩を揺らしたのを、私は見逃さなかった。


「なかなか戻ってこないから心配したんだよ……」


 言いながら私のそばに駆け寄って来る美咲ちゃん。だけど、私は松から視線がそらせなかった。だって松ってば、私に気がついてこっちを見たのに、すっと視線を外したのよ。

 まるで避けるようにされて、私はショックだった。

 えっ……私、なにかしたかな……?

 だけどそう思ったのは私の気のせいだったみたいで、松は一瞬、私から視線をそらしたものの、なにもなかったような顔で近づいて来て私の肩をぽんっと叩いた。


「芹、どこ行ってたんだ? 藤堂さんが心配して俺の教室まで来たんだぞ」

「えっ、そうなの!? ごめんね、美咲ちゃん」

「ううん、いいよ。私が一人で大騒ぎしちゃっただけだから。あっ、早く教室戻ってお昼にしよう」


 美咲ちゃんに促されて、私達は教室へ戻ることにした。




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