第47話 甘くない恋心
友達だと言われていた――
好きなヤツがいると知って失恋して、恋愛対象外とも言われて、俺の恋が叶う確率はゼロだって思い知って。
ただ、友達としてでもいいから芹の隣にいたかった。
だから、気持ちを伝えるつもりもなかったし、芹が誰かを好きになっても応援できると思っていた。
恋がこんなに切なくて苦しいものだなんて、知らなかったんだ――
※
芹は俺が藤堂さんのことを好きだと勘違いして、上手くいけばいいと言った。
その言葉が胸に突き刺さって、苦しかった。
友達だと言われた時よりも、恋愛対象外と言われた時よりも、苦しくて苦しくて、胸が張り裂けそうだった。
誤解を解けばいいんだってわかっているけど、それで――?
俺が好きなのは藤堂さんじゃなくて芹だと言っても、芹は俺のことをもう友達としても一緒にいてくれなくなるんじゃないだろうか……
そんな不安に襲われて、伝えなければならないことさえ、言えないまま、夏休みをむかえた。
※
去年の今頃は、臨海学校に行ったな――なんてことを思い出す。あの頃は、芹のことを好きだと自覚もしていなかった自分に苦笑をもらす。
ベッドに仰向けになりながら、臨海学校の写真を見てため息をもらす。
ほんと、どうしたらいいんだ俺……
ぱらぱらとアルバムをめくっていき、あるページで手を止める。それは去年、芹と行った花火大会で、セルフでとった芹と一緒に映ってる写真。
また来年も一緒に行こう――そう約束していたことを思い出して、がばっと体を起こす。
そうだ、今年も祭りに誘う。そこで誤解を解いて、俺の気持ちを――
そう思ったら、いてもたってもいられなくなって、ズボンのポケットから携帯を取り出して芹にメールを打った。
『今年も祭り、一緒に行こう』
返事が来るまでの間、心臓が飛び出すんじゃないかっていうくらいドキドキいって、じっとしていられなくて部屋の中を無駄に歩いたり、机に出しっぱなしの雑誌を片してみたりする。
好きだと言ったわけじゃなくて、祭りに誘うだけなのにこんなに緊張して、ヤバイと思った。
お気に入りの曲の着メロが流れて、俺はすぐに携帯を開いて、呼吸が止まる。
『ごめん。お祭りのことすっかり忘れてて、夏期講習入れちゃった……』
約束を忘れるなんて芹らしくないとは思いながら、夏期講習を優先するのは芹らしくて、詰ることも出来ない。
俺はショート寸前の頭を動かして、メールを打つ。
『芹らしくないな……。まあ、講習じゃ仕方ないよな。じゃあ、講習の後でもいいから会えない?』
祭りに芹と一緒に行けないのはすごく残念だけど、とにかく、会って誤解を解かなくちゃと思ってそうメールした。なのに、手の中の携帯はすぐにメールの着信を知らせて震えて。
『ごめん、次の日も朝早くから講習があるから』
どうやっても、その日に会うことが出来ないことを知って、勢い込んでた気持ちのやり場がなくなって、胸が苦しくなる。
がくっと肩を落として、手から携帯がすりぬけて床に転がる。
畳の上にコンコンっと、虚しい音だけが響いた。
呆然と立ちつくしたままいると、足元に転がった携帯が震える。
違うって分かっていながら、もしかしたらっていう思いを消せずに携帯を拾って、ため息を落とす。
芹からやっぱり祭りに一緒に行こうってメールなんじゃないかって思って開いたメールは藤堂さんからで、その内容は芹に断られた祭りに一緒に行こうという内容だった。
このタイミングの良さに、芹が動いていたんじゃないかって思えて、どうしようもなく切なくなる。
この状況を招いた元凶はぜんぶ自分なのに、どうしてこうなったのかが分からない――
ただ、芹に気持ちを伝えようと決意しただけなのに、何かが噛みちがえて、芹との距離がどんどん離れていく気がした。




