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好きだから、嫌いになって  作者: 滝沢美月
高2編:side松岡
46/76

第46話  誤解が招いた結果



 俺が好きなのは芹だ――

 そう言おうとした言葉は、無残にも芹の言葉に遮られてしまう。


「それってさ、うちのクラスの子でしょ?」


 芹が瞳を好奇心にキラキラと輝かせているように見えるのは……気のせいだろうか。

 俺はその問いにどう答えようかと迷って、渋々肯定する。


「ああ……」


 まあ、間違ってはいないよな。

 芹と同じクラスっていうか、芹なんだけど……

 俺はどういうつもりで芹がそんなことを聞いてくるのかが分からなくて、横を向いて考え込む。

 ちらっと視線を芹に向けると、なんだか頬がゆるんでる。そのにやにや笑いから菱谷を想像してしまって、顔が引きつる。


「どんなとこが好きなの?」

「……意志が強くて優しいとこ」


 俺は半ばやけくそで芹の質問に答える。

 一番気に入ってるのはぴんとのびた姿勢なんだが、それを言ったらさすがに芹だと気づかれてしまいそうで言えなかった。

 好きだって伝えようと決意したはずなのに、芹の様子がおかしくて、そんなこと吹っ飛んでしまう。俺の恋愛話に興味津々に瞳を輝かせる芹に、いま()っても、とてもじゃないけど上手くいくとは思えなくて、どんどん弱気になっていく。


「でも、俺、自信ない……その子の眼中にも入ってないって感じで……」


 芹相手にこんな弱音吐くとかほんとあり得ないのに、完全にテンション下がって、思考回路がショートしそうだった。

 情けない顔で芹を見ると、芹がにこりと笑みを浮かべるから、俺の頭の中は疑問符だらけ……


「大丈夫だよ」


 その言葉にまず首を傾げる。

 ええっと、なにが大丈夫なんだ、芹……?


「松って、ほんとに女子にはモテるんだから。私なんかさ、下級生の女子に呼び出されて『松岡先輩とどういう関係なんですか!?』なんて問い詰められちゃうくらい」


 呼びだされたとか、俺、聞いてないぞ……


「あっ、もちろん、ちゃんと友達で恋愛関係じゃないって言っておいたから安心してね」


 いや、えっと、そこは安心するとこじゃないっていうか……

 俺は突っ込みどころ満載の芹の言葉に、心の中で突っ込みまくる。実際は唖然として何も言えない。


「えーっと、つまり何を言いたいかというとね――その子も松のこと好きだよ。だから、頑張りな」


 その言葉にえっ? と反対側に首を傾げる。その子って……誰?

 そこまで考えて、芹が最初に言った言葉を思い出す。


『それってさ、うちのクラスの子でしょ?』


 うちのクラスの子でしょ――つまり、芹は俺が三組の誰かを好きだと勘違いしてる……?

 俺は慌てて否定する言葉を探して口を開こうとしたが、タイミング悪く料理が運ばれてくる。


「お待たせしました~」


 甲高い声が、この時ほどイライラとさせることはなかった。

 俺は芹から視線を外して、フォークの入った籠を引き寄せる。誤解を解かなければいけないと思うのに、上手く言葉が出てこない。

 芹が「美味しそうだね」と言ってパスタを食べ始めたけど、俺はそれに返事も出来なくて、ほとんど会話を交わさずに、電車に乗り込んだ。



  ※



 芹の言葉からは、俺が三組の誰か(・・)ではなくて()を好きなのかを確信している言い方だったことに気づく。

 なぜ芹がそんなふうに思っているのか――ずっと考えていて、思い当たることが一つだけあった。

 俺が誰を好きなのか知っている人物が一人だけいる。それは菱谷だ――

 もちろん、菱谷は誤解しているんだが、菱谷から芹に話が伝わった可能性がゼロではない。そういえば、試験最終日に菱谷は図書館で芹に会ったと言っていた。その時か――?

 こんなことならもっと早く、菱谷の誤解を解いとくのだった。



 帰りの電車の中で、俺は掠れた声で芹に尋ねる。


「俺が好きなやつのことって……」


 そう尋ねると、芹は小さく頷いた。


「ああ、それはね、試験最終日に図書館で委員の仕事してたら菱谷君が本の返却に来て、その時に聞いたんだよ。松に好きな人がいるってのは聞いてたけど、その相手が美咲ちゃんだったなんて、ビックリしちゃった。でも、私は二人が上手くいけばすごく嬉しい」


 そう言って笑った芹の笑顔が胸を切なく締めつける。


「そっか……」


 俺はそれしか言えなくて、その後どうやって家に帰ったのか記憶になかった。




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