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好きだから、嫌いになって  作者: 滝沢美月
高2編:side松岡
44/76

第44話  とんでもない勘違い



 俺はさぁーっと血の気が引いていく音を耳の奥で聞いてしまった。

 芹と一緒に帰らない日はあるから、それはそんなに問題ではなかった。

 それよりも、芹が同じ委員の男子に嬉しそうに笑い返していたのが気に食わない。

 頬を染めたあんな芹の笑顔は見たことがなくて――

 固まっていた体に鞭を打って、俺は図書館へと足を向けた。

 先に帰っていいと言われたが、なんだが納得がいかなかった俺は、図書館で芹を待つことにした。

二階の談話室は図書委員会の間は立ち入り禁止で、仕方なく一階の奥に設けられた読書席のなるべく階段が見える位置に座る。

 俺は時間が経つのをじれったい思いで待ち、本棚の先に見える階段にじぃーっと目を凝らした。

 一時間くらいが経った頃に、階段を生徒がぱらぱらと降りてきた。その中に芹を見つけた俺は慌てて立ち上がり、身動きとれなくなる。

 芹がなにか楽しそうに話ながら委員のヤツと一緒に降りてきたから、芹に声をかけるタイミングを逃してしまう。

 呆然としながらも、芹からだいぶ遅れて図書館を出た俺は、芹と委員のヤツが教室棟に行き、一緒に帰っていくのを見てしまった。

 あいつと帰る約束をしてたから、芹は俺に待っていなくていいと言ったのだろうか――?



  ※



 六月になり、新緑の葉の影が揺れて渡り廊下に影を落としている。

 一緒に帰らなかったあの日以来、芹の態度はよそよそしい気がする。表面上はあまり変わらないようにも思うけど、一緒に帰ることもほとんどなくなって、遊びに誘っても断られてばかりだ。

 まあ、俺も夏の大会に向けて部活が忙しくなってきたから、そのせいで芹と一緒にいる時間が減った気がするだけかもしれない。

 でも、変わったことはもう一つ――



「松岡君っ!」


 菱谷と購買に昼メシを買いに行って教室に戻ろうとしていた時、渡り廊下の向かいから藤堂さんが歩いて来て俺に声をかけた。


「おう。これから購買?」

「うん、今日パンなんだ」

「もうそんなにパン残ってなかったから早く行ったほうがいいよ」

「そっか、ありがとう」


 藤堂さんは綺麗な笑みを浮かべて、購買に走って行った。

 なんか最近――


「最近さ、藤堂さんとお前ってよく一緒にいるよな」


 俺の思考に被って菱谷がニヤついた顔で俺に話しかけてくる。


「そんなことねーよ」


 そう言った俺の言葉を聞き流して菱谷は話を続ける。


「学年一の美少女に話しかけられて、どんな気分よ?」

「どうって……」


 俺は言葉に詰まる。

 確かに藤堂さんは綺麗な見た目してるとは思う。菱谷にはそんなことねーとか言ったけど、最近、藤堂さんにはよく話しかけられる。もっとクールな子かと思ってたけど、話す機会が増えて落ち着いていて、よく物事を見極めてる賢い子だと思った。けど、それだけ。

 俺は芹のことが好きだし、藤堂さんがいくら美人でも好きになったりはしない。


「俺が好きなのはさぁ……」


 階段を上がりながら俺はため息とともに吐き出す。

 好奇心まるだしできいてくる菱谷がちょっとうっとおしくて、いいかげん本音を言おうと思った。

 一番初めに伝えるのは芹が良かったけど、これ以上菱谷に冷やかされたんじゃ、ただでさえ芹の態度がよそよそしくてへこんでる気分がこれ以上下がるの嫌だったから。


「藤堂さん――」


 じゃなくて、実は芹なんだ――そう言おうとしたのに。


「マジかよっ!?」


 俺の言葉を遮って、菱谷が廊下中に響くような大声をあげて俺の制服を引っ張る。その瞳は興奮に輝いてキラキラしてる。

 ええっと……


「いや、違う……待て」

「なんだよ、いまさら照れるなよ~。俺はてっきりお前が好きなのは芹香ちゃんだと思ってたけど、そうかそうか、藤堂さんを好きなのかぁ」


 一人で頷きながら勝手に納得する菱谷。俺の違うっていう言葉を菱谷を纏う浮かれた雰囲気に弾き飛ばされて菱谷の耳には届かない。

 こういう状態の菱谷はなにを言っても聞いてくれないことをこの一年半で知っているから、諦めのため息をつく。

 とりあえず、菱谷の興奮が冷めた頃に違うと伝えよう――

 そう思ったのに誤解を解くタイミングを見逃して、ずるずると時間が過ぎてしまった。その結果がとんでもないことになるとも思わずに……




松岡、ヘタレ決定……?

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