第43話 恋愛対象外ですか…
三組の教室の前で芹と藤堂さんに別れて、俺は四組の教室に戻って鞄から弁当箱を取り出す。
お昼休みは残り二十分もない。せめてもの救いは、弁当だからいまから購買に買いに行く必要がないことだろうか。
そんなことを思いながら、菱谷達が食べてる席に行き、近くの空いている椅子を引き寄せて座る。
喋っていた菱谷は一瞬、俺ににやっとした視線を向けたが、なにか言ってくることはなかった。だがその視線が胸に突き刺さって、なんだかそわそわする。
俺は急いでお弁当をかっこんで片づけると、三組へと向かった。
芹は窓側後ろから二番目の席で、藤堂さんと昼メシ食べる時は教室のその席にいることが多い。
俺は勢いに任せて三組まで来たものの、特に用事もなく、芹のクラスに行くのを戸惑う。それに――俺の行動が芹を好きだってバレバレなんだとしたら、あまりクラスに行くのもよくないだろうかと迷う。
ぼーっと三組と四組の間で立ちつくす。三組の後ろの扉はしまっているが、閉められた透明の窓から教室の様子がわずかに見えて、そこに芹と藤堂さんが座っていた。
俺は気づかれないように窓に近づき、窓のすぐ横の壁に背をついてはぁーっと大きなため息をつく。ガラス越しに話声が聞こえる。
「でも、やっぱりいつも仲良いし、そんなによく二人で出かけていたら、好きになっちゃうんじゃない……?」
なんの話してるんだ……?
そう思うと、芹のきっぱりとした口調が聞こえる。
「ないないっ! 私と松は友達! 恋愛対象外!」
芹の言葉がぐさりと胸にささる。
友達としてしか見られていないことは知っているが、それでもこんなにはっきり否定されると、かなりへこむ。
しかも、恋愛対象外って……
「それに……今は恋とかあんま、いいかなって……。私ね、夢があって勉強頑張るために高校は家から近いここを選んだの。だから、恋にうつつを抜かしている余裕はないっていうか、あんまり興味ないっていうか……とにかく勉強頑張らなきゃ! ってカンジ?」
くすりと笑う声を聞いて、俺はその場をそっと立ち去った。
恋愛対象外――かぁ……
これってもう、失恋決定ってことだよな……?
まあ、ゴールデンGPの時に芹に好きなヤツがいるって聞いて、事実上は失恋だって分かってたけど、芹の言葉ではっきり聞くと、マジ堪えるわ……
そうとうなダメージに気分は最悪まで落ちていく。それでも、一日悩んだらそのことについて考えるのはやめることにしている。
あまり深く悩まない性格っていうか、思考が持続しないっていうか。
考えたって見つからない答えをいつまでもぐだぐだ考えてるくらいなら、明るく楽しく過ごした方がいいだろ?
それに実際は告白してないし、俺が気持ちを伝える気にならなければ、いままで通り友達を続けるのには問題はない。
でもさ、そんな無理やり浮上させた気持ちは、すぐにへし折られることになるんだ――
※
その日も部活が休みだったから、芹をむかえに教室に行ったんだが、なんだか芹の様子がおかしい。
三組の窓越しに帰り支度をしていた芹に声をかけると、芹が困ったように笑う。
「ごめん、今日、委員会の集まりがあるんだ」
「ん、じゃ、待ってるよ、どのくらいかかる?」
芹は一年の時も図書委員で、月に一回委員会の集まりがある。たいして時間はかからないから、そういう時はいつも適当に教室で時間を潰して待ってるんだが、芹が俺から視線をそらして視線を泳がせる。
「えーと……どうだろう、今日はちょっと長くなるって言ってたかな? 待っててもらうの悪いから先に帰っていていいよ」
そう言うと、俺が口を開くよりも早く、教室の前方の扉を出ようとしていた男子に駆け寄る。
「七海君、委員会、一緒に行こ」
「名雪さん、うん、一緒に行こうか」
芹が声をかけた男はふわりと柔らかい笑みを浮かべると、芹と一緒に並んで廊下を歩き始めた。
俺は廊下の真ん中で二人の背中を呆然と見つめてしまった。
二人の会話から、委員会があることは本当のようだし、芹が声かけら男が同じ図書委員なんだとはわかったけど、胸がざわつく。
いつもだったら「先に帰っていていい」なんて言わない言葉に、どうしようもない不安に襲われた。




