第40話 二人の距離
クリスマスパーティーで芹への気持ちを自覚した俺は、その後も芹と変わらない関係を続けていた。
芹を好きだと気づいたけど、告白するという発想にはならなかった。部活で手一杯っていうのも理由の一つだし、芹の一番側にいるのは俺だという自信があったから、友達のままで別に不満はなかった。
菱谷は俺の微妙な気持ちの変化に気づいているのか、相変わらず「二人って付き合わないの?」っていう質問をしてくる。
そういう時、芹は決まって「友達だよ~」とのほほんとした顔で言うから、俺もあえて告白しようなんて気持ちにはならなかった。
まあ、進展したと言えば呼び方が変わったことくらいだろうか。
そんな関係のまま、俺達は二年に進学した。できれば、芹と同じクラスが良かったけど、こればかりはどうしようもないよな。三年ではクラス替えがないから、このまま卒業まで芹とはクラスがお隣さんってことだ。
進路調査で芹も国立志望だって言ってたから同じクラスになれる可能性は五割だったんだが、運がついてなかったのか……?
まっ、クラスが別になろうと、ちょくちょく芹のクラスに行っては芹と話したり、一緒に帰ったりしていたから、俺にとってクラスが分かれたことはそんなに大きな問題じゃなかった。
※
部活が休みで芹と一緒に帰っていると、横から視線を感じてちらっと芹を見ると、澄んだ綺麗な瞳でじぃーっと俺を見てくるから、その視線が気恥かしくて、ぎこちなくなる。
「なに? なんかついてる?」
「ん? 松ってカッコイイんだなぁ~と思って」
照れた様子もなく芹がさらっとそんなこと言うから、驚いて声がどもってしまう。
「なっ……んだよ、急に」
芹も黙ってしまって、妙な沈黙が流れる。
とんっと一歩前に踏み出した芹が振り返りながらおどけた笑顔をむける。
「松のことカッコイイって女子がすごい噂してるらしいよ、モテモテですごいね。こんなカッコイイ男友達がいるなんて女子にやっかみかいそうだなぁ~なんて……」
高校に入って急激に身長が伸びて、何人かの女子には告白されたけど、それがモテモテかどうかは俺にはよく分からない。
「なんだよ、それ」
俺はぽつっと小さな声で言い、芹の肩に腕を回して引き寄せる。
カッコイイとか言いながら、女子が噂してるって言う芹の口調から、芹が本当に俺のことを友達としてしか見てなんだって分かるから、俺も友達のスキンシップを返す。
ほんとはこんなふうに肩をまわすと、腕の中にすっぽりと収まってしまう芹の小さな体を実感して、心臓が飛び出しそうなほどドキドキいっているけど、そんなこと気づかれたらいけない気がした。
友達だから俺は芹とこの距離を保てるんだと思っていたから。
それなのに、ちらっと視線を向けた先で芹の瞳と視線があって、どうしようもなく胸が締めつけられる。
芹はじぃーっと俺を見上げてくるから、俺の方が耐えられなかった。
すっと視線を外し、芹の肩に回していた腕を解いて芹から少しの距離を取る。
「なー、腹減ったからなんか食ってかない?」
言いながら、道の先にあるファーストフードの店の看板を指す。
くすぐったい気持ちを誤魔化すように、話をそらして店へと入っていった。
※
今年もゴールデンウィークをむかえ、週末に行われるゴールデンGPに芹を行く約束をしていた。
春は大会が多いし、もちろんゴールデンウィークも大会があって、三月、四月は部活の練習も多くて、芹と出かけるのはすごい久しぶりだった。
プロ選手の走りを間近で見られて興奮したっていうのもあるけど、芹と一緒っていうのがどうしようもなく楽しくさせる。
だけどその帰り道――
俺は芹から思いもよらない話をされることになるとは、その時、気づいてもいなかった。




