表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きだから、嫌いになって  作者: 滝沢美月
高1編:side松岡
39/76

第39話  クリスマスメロディー



 鞄を持って戻ってきた名雪は、鞄の中から綺麗にラッピングされた箱を取り出して俺の前に差し出した。


「これは?」


 尋ねると、名雪が俺の手の上に箱を置きながら言う。


「私もね、松岡君にクリスマスプレゼント用意してたの」

「えっ、マジ!? ありがとう」


 俺はただ、名雪になにかプレゼントしたかっただけなんだ。だから名雪が俺にプレゼントを用意しているなんて想像もしていなくて、嬉しすぎる……

 名雪も俺と同じように、プレゼントしたいと思ってくれたのかと思うとくすぐったい気持になる。

 はにかんで笑い、開けてみると中に入っていたのは――


「これ、一緒にいったショッピングモールで名雪見てたよな……?」


 俺の質問に、しばらく考え込んだ名雪は何かを思い出したように苦笑する。


「ああ、松岡君のプレゼントね、家の近くのお店で買ったんだけど、あのショッピングモールにも同じのがあったから。それがどうかしたの?」


 キョトンと首を傾げる名雪に、俺は恥ずかしさに手で顔を隠してその場にしゃがみ込む。


「俺さ、名雪がこのマグ見てるのも見てたんだ。これなら男も女の子も持ってても良さそうなデザインだし、プレゼント交換用にいいかなって思って……」


 最後の方は言葉が小さくなっていく。その続きを引き継いで名雪が首を傾げる。


「もしかして、このマグをプレゼント交換用に買ったとか?」


 俺は名雪の明察に顔を隠したまま頷く。

 マジ、恥ずかしすぎて顔を上げられない。


「そうなんだ? じゃあ、松岡君はその松岡君のプレゼントを貰った誰かとおそろいなんだね。誰が貰ったか知ってるの?」


 くすくすと笑う声が聞こえて、俺はゆっくりと腕を伸ばす。

 人差し指で名雪を指してちらっと盗み見ると、名雪が驚いた顔をしてる。


「えっ、私!?」


 あたふたしてる名雪をみて、なんだか恥かしさが飛んでいく。

 俺はむしろ、驚いている名雪が驚きで仕方ないんだが……

 同じマグだって気づいてないってことは、まだ、プレゼントを開けてないってことだろ? だいたいのヤツがその場でプレゼントを開けてたのに、名雪って変わってるな、と思う。

 名雪は慌てて鞄からプレゼント交換用のプレゼントを取り出して包みを丁寧に開いていく。中からは、スカイブルーのストライプ模様のマグカップ――俺が手に持っているのと同じやつ。瞠目してマグを見つめて、それから俺の手の中のマグと見比べる。どこからどう見ても同じだろ……

 小さな吐息をついた俺に、名雪がくしゃっと破顔する。


「おそろいだね」


 その言葉に深い意味はないって分かってるのに、俺の心を射抜く。名雪の笑顔が眩しくて、心臓がバクバクとビートを刻み始める。


「松岡君はプレゼント交換のプレゼントなんだったの?」

「俺はティーパックのセット」

「じゃー、私のあげたマグで飲んでね。私もこれ、大事にする」


 紅茶はけっこう好きで飲むから、地味に嬉しいプレゼントなんだけど。

 名雪があげたシュシュを顔の横に持ち上げて笑いかけるから、尋常じゃないくらい鼓動が鳴り続ける。

 ランタンの明かりと夜空をきらめく星の光の中で、俺を見る名雪の笑顔から目がそらせなくて、体の奥から強い衝動にかられる。

 花火大会の時と比にならないくらい、しびれるような感覚に目眩がする。

 名雪のすぐ隣にいるのに、もっと近づきたいような――

 白くてやわらかそうな肌に触れてみたいような――

 なんだか自分が自分でないみたいな感覚に、耳の奥で激しく鼓動の音が響く。


「松岡君、どうしたの?」


 黙りこんだ俺を不思議そうに見上げて、名雪が俺の手に触れるから、反射的に手を引っ込める。触れられた場所から電流が走り、心臓を激しくしびれさせる。

 好きだ――……そう思った。

 胸を突き抜ける感覚に、かぁーっと一気に顔に血がのぼる。赤くなったのが自分でも分かって、慌てて名雪から顔を隠すように顔ごと視線をそらす。


「なんでもない……」


 そう言った声すら掠れて上手く言喋れない。

 こんな気持ちははじめてで、自分でもどうしたらいいのか分からない。ただ、名雪のことを好きだと思ってしまった。自覚してしまったら、名雪の側にいるだけど胸がきゅっと締めつけられて、くすぐったい。

 さんざん菱谷にからかわれた時は友達だってなんの迷いもなく言えたのに、今はどうしてそんなことが言えたのか不思議でならない。

 思い返せば、初めて名雪に声をかけた時、ぴんっと伸びた姿勢が綺麗だと思って、走る姿に惚れて、なんでも趣味があって、一緒にいるのが楽しくて、可愛いと、思って――

 こんなに、いつも名雪のことを好きだと感じていたのに、それに気づけなかった俺の鈍さに頭が痛くなる。

 でも、仕方ないんだって――

 ずっと部活一筋で、恋愛とは無縁だった。自分がこんな気持ちになる日が来るなんて思いもしなかった。

 だから、自覚した気持ちに戸惑うばかりで、気持ちを伝えようなんて思いつきもしなかった。今のままで満足だし、気持ちを伝える方法も思いつかない。

 ただ、俺の中で名雪は友達から女の子へと変わっていった――




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキングに参加しています。ぽちっと押して頂けると嬉しいです!
小説家になろう 勝手にランキング

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ