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好きだから、嫌いになって  作者: 滝沢美月
高1編:side松岡
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第38話  クリスマスナイト



「松岡君、ここのお店見てもいいかな?」


 呼びとめられて俺は足を止める。名雪の視線の先には、食器やぬいぐるみやヘア小物などが置いてある雑貨屋。


「いいよ」


 俺は頷いて、名雪と一緒に店内に足を踏み入れた。

 十二月の始め、期末試験を目前にピリピリとした空気が漂う中、名雪の親友の渡瀬さんがある提案をした。それは、クリスマスパーティー。

 試験に向けての勉強ムードに我慢がならなくなって、試験の後に何か楽しいイベントがあれば頑張れる――というのが理由らしい。

 クラスの片隅に張り出された紙には、意外と多くクラスメイトの名前が連なっていた。もちろん俺も参加する。

 無事に試験が終わると、渡瀬がクリパの説明をした。会費は千円、プレゼント交換用のプレゼントは五百円前後を用意すること。場所は渡瀬の家でやることになって、当日はドレスコード――とか無茶苦茶言いだした時は、一瞬、みんなの顔が青ざめる。

 高一でドレスコードって、おいおい……

 横にいた名雪と、学園祭後に渡瀬と付き合いだした八木が苦笑していた。渡瀬の家はどうやら“お金持ち”っていうやつらしい。家には使用人がいてお嬢様とか呼ばれてるらしいが……ぜんぜん想像つかなかった。

 そんで、今日は名雪とプレゼント交換用のプレゼントを買いにショッピングモールに来ていた。

 食器とかぬいぐるみってのにはあまり興味がないけど、こういう店には名雪と一緒の時くらいしか来ることがないからある意味新鮮で、キョロキョロと辺りを見回す。

 女の子ってこういうのが好きなのか~。プレゼント交換用のプレゼントなににするか全然考えてなかったけど、男でも女でももらって嬉しいものがいいよな。そんなことを考えていると、食器コーナーであるマグカップを見てくすりと笑う名雪に気づく。

 そのマグカップはスカイブルーのストライプ模様。プレゼント交換用にいいかな、と思う。だけど、名雪が買うなら違うのがいいよな。

 でも、名雪はプレゼント交換用には違うものを買ったらしい。秘密にしておきたいから見ちゃダメだと言われて、俺も名雪が他を見ている間に、ブルーストライプのマグカップに決めた。



  ※



 そして、二十三日祝日に渡瀬の家で一年一組クリスマスパーティーが行われた。クラスのほぼ全員の三十五人が集まったけど、渡瀬の家のホールと呼ばれる部屋は広く、これだけの人数が集まっても十分な広さだった。

 駅で菱谷と待ち合わせて地図を頼りに渡瀬の家に向かった俺は、見上げるほど高い塀と門を見た時点で驚いていたが、改めて渡瀬がお嬢様なんだって実感させられる。

 ホールの中央には大きなクリスマスツリーが飾られ、その下にプレゼントが置かれていた。

 渡瀬の問題発言については八木が説得してくれて、とりあえず男子はジャケットとネクタイはしてくるようにということだった。

 俺は持っていた黒のジャケットとネクタイは持っていないから六つ年上の兄キにネクタイを借りるつもりでいたんだが、この話を聞いて面白がった姉キ二人がクリスマスプレゼントと言ってネクタイを買ってくれた。

 中には兄弟のスーツを借りたのか自分用なのか、スーツを着ているヤツも数人いた。

 女子は思い思いにお洒落をして、華やかな会場がいっそう鮮やかだった。

 ホールには会費千円ではとても作れなさそうな見たこともない豪華な料理が並んでいた。きっと、お抱え料理長とかがいるに違いない。

 パーティーは渡瀬の挨拶で始まり、立食形式の食事、ゲームでのプレゼント交換、最後にクリスマスケーキを食べる。

 みんなにケーキが切り分けられている時、名雪の姿がないことに気づく。

 渡瀬に名雪のことを尋ねると、ホールの窓側の閉められたカーテンを指さして、外にいると言われた。

 なんで、外なんだ? そんな疑問に首を傾げながら、ホールの入り口に設置されたクロークからコートを出して羽織り、端のカーテンをめくってホールの外に出た。



 ホールの外はバルコニーが広がり、明かりはカーテンの隙間からもれる頼りないものだけだった。

 暗闇の中、目を凝らして、バルコニーの手すりに身を預けて上を見ている名雪の姿にドキンとする。

 ノースリーブの水色のワンピースドレスの上にショールを羽織っている。そんな姿さえ、目にあざやかに飛び込んでくる。


「名雪、なにやってんだ? そんな格好で寒いだろ?」


 振り向いた名雪は、俺を見て眩しい笑顔を浮かべる。はき出された息が白く辺りに溜まり、消えて行く。


「えへへ、ちょっと星を見たくなって。でも、この格好は寒かった」


 そう言って笑う名雪に、俺は着ていたコートを脱いでかけてやる。ノースリーブの名雪に比べたら、俺はジャケット着てるし、手に持っていたマフラーも名雪の首にかける。

 ジャケットのポケットに手を入れて、そこにある袋を確かめるように握りしめる。


「星?」


 言いながら空を見上げて、息をのむ。

 漆黒の夜空に、宝石をばらまいたように無数の星がきらめいている。


「すっげー……」


 思わずもれた声に、名雪がくすりと笑う。


「結衣の家って広いし高台にあるから、街の明かりから少し離れていて、星がよく見えるんだ。今日は特に空気が澄んでるから」


 名雪はしゃがみ込んで、足元に置いていたランタンの明かりを灯す。それから、星を見たいからとバルコニーのライトを消してもらっていると教えてくれた。


「松岡君はどうしたの?」

「名雪が見当たらないから、どうしたんだろうと思って」

「ごめん、探してくれたの?」

「いや、別に……」


 なんだか名雪の笑顔が胸にしみいって、いつもどおり喋ることもできない。無意味に手すりをなでたりしてみる。

 ポケットの中の拳をぎゅっと握りしめて、しゃがんでいる名雪に視線を下ろす。


「実は――名雪に渡したいものがあって」


 言いながら、ポケットの中に閉まっていた小さな袋を名雪に差し出す。


「たいしたものじゃないけどクリスマスプレゼント。プレゼント交換があるって分かってたけど、それとは別に名雪に渡したいと思って」

「もらっていいの? ありがとう」


 名雪が開けていいと聞き、頷く。


「あっ、これ……この間のショッピングモールで、もしかして見てた?」


 わずかに頬を染めて尋ねる名雪に、俺はくすりと笑みをもらす。

 名雪にプレゼントしたのは、猫の絵柄のシュシュ。一緒に出かけたショッピングモールで、名雪がじぃーっとそのシュシュを見ていたのに気がついた。下ろしていた髪につけて鏡で見て、それから悩ましげな顔でしばらくそこに立っていた。気に入ってるんだなと思ったけど、買うのを諦めたのを見て、プレゼントに選んだんだ。

 気に入っているものをプレゼント出来たら、それが一番いいと思ったから。それに、猫好きだって言ってたしな。


「わー、見られてたなんて恥ずかしいな。でも、嬉しい。本当はすごく欲しくて迷ってたから」

「そうだと思った」


 笑った俺に、名雪が笑い返してくれて、名雪ががばっと立ち上がる。


「あっ、松岡君、ちょっと待ってて」


 そう言った名雪はホールの中へと入っていき、しばらくして鞄を持って戻ってきた。




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